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幕間その7 お引越し

 メイリンは叙爵したことで学園生活にも多少の変化が生じた。

 その中でも真っ先に生じた大きな変化は寮を移動することだった。


 それまでは平民の特待生に向けた狭いが安い寮(といってもそこまで悪い環境ではない)に住んでいたのが、貴族向けの寮へと移動できるのだ。


 メイリン自身は、自分一人で過ごす分には今までの部屋でも不満はなかったが、何しろ今はナナコがいる。部屋がナナコで埋まってしまう状況をどう解消しようか頭を悩ませていたところでの叙爵だったので、否応なく特権を使わせてもらうことにしたのだった。


 ただ引っ越しするとなれば荷物の異動が必要である。

 基本的に家具は備え付けなので、身の回りの私物だけを持ち出せばよく、元々それほど多くの私物を持っていないのだから荷造りも簡単にできるとメイリンは考えていた。


 そう、荷造りを始めるまでは。


“こちらの世界はすごいですね。平民でもこんなに本を購入できるのですから”


“そうかな? わたしの世界だと好きな人は床が抜けるほどたくさん持っている人もいたから、この程度の量ならそこまですごいとも思わないけど”


“それではナナコはこれ以上持っていたのですか?”


“ほとんど漫画とラノベだけどね”


“まんが? らのべ?”


“あー、通じないか。漫画はいってしまえば絵物語とでも言えばいいのかな? ラノベというのはライトノベル、手軽に読める若者向けの小説のことだよ。大きさもここにある本よりももっと薄くて小さいしね。わたしは合わせてたぶん100冊程度だったけど、友人とかには軽く千冊を超える人が何人かいたし、親戚には万を超える冊数を持っている人もいたかな”


“個人で100冊も本を持っているなんて、わたしの世界であればその地方の名家か資産家くらいですね。万越えとなれば国を代表する名家とかそのくらいでしょうか”


 ナナコに比べれば確かに少ないかもしれないけど、それでも50冊はあるこの本を運ぶのは大変なのだ。

 いつの間にこんなに本が増えていたんだろう……。


 もともとトランク一つでここに入寮したので、本以外の荷物はそれほど多くない。

 しかし入寮後に教科書を受け取ったり、参考書をもらったり、あるいは気になる本を購入したりしているうちに、気づけばこの冊数になっていた。


 読み終わってもう必要のない本については古本屋に売りに行けばよいが、それでも40冊は残るだろう。

 1冊のサイズが大きいので40冊でもかなりかさばる。


「とりあえず運びやすいようにひもで縛っていかないと」


 5冊くらいずつをまとめてひもで縛っていく。


“手伝いましょう”


 いや、レーリーに手伝ってもらうといっても……あ、ひもを抑えてくれるのね。

 それで縛り終えたところでひもをかみ切ってくれると。


“わたしは片付ける手伝いは難しいけど、引っ越し先まで運ぶくらいはできるよ”


 そうか。ナナコが運んでくれるならこの量の本も一度に運べる。




 で、新しい部屋に来てみたけど、今までの部屋の1.5倍くらいの広さになった。

 微妙な大きさではあるが、最下級の貴族であれば仕方がないのだろう。


 それでも今までのようにナナコで部屋がいっぱいになるということはなくなり、多少は空きスペースができた。


「これで少しゆっくりできるかな」


“わたしは今までの部屋も嫌いじゃなかったですけどねー。なんだ狭い部屋で丸まっていると落ち着くというか。やはりネコ科だからでしょうかね”


「知らないわよ。わたしは実家にいたときに家畜の世話はしたことあるけど、ペットを飼ったことはないし」


“ネズミ除けに猫を飼ったりはしていなかったのですか?”


 ナナコの独り言に何げなく返答してみたら、レーリーから質問が来た。


「猫はいたけど、飼っていたというよりも野良猫が勝手に住み着いていたという感じかな。家の中には入れなかったし」


“猫が嫌いとか?”


「動物は全般的に嫌いじゃないよ。毛皮をモフモフするのは好きだし。ただあまり家畜に感情移入したらいろいろと問題があるからね。猫に対しても同じように接していただけ」


“なるほど、あえてドライな関係を貫いていたというわけですね。じゃあ私はモフモフ要員ということですか”


「はいはいそうですね」


 またナナコがよくわからないことを言っている。


“なんか適当に流された! ひどい! 毛皮だけの関係だったのね!“


「馬鹿なことを言ってないで。そろそろ魔石を食べて」


 わたしは鞄から荷物を出しながら、ナナコに魔石を渡した。

 これはナナコの抜け毛の代価としてエリナ様が持ってきてくれた分である。


“うへえ、魔石って味がしなくておいしくないんだよね。だけどなぜか癖になるというかやめられないっ!”


“それはやはりわたしたちが魔獣になってしまったからでしょう。わたしもダンジョン内にいたときには倒した敵の魔石を食べていましたし”


「そういえばレーリーの魔力は大丈夫なの?」


“感覚的に言うと、先日まではわたしの魔力は睡眠をとってもおそらく最大数値の四分の一くらいしか回復していませんでしたが、今は半分くらいは回復するようになりました。魔石に余裕があればいただきますが、そうでなければ別に必要はありません”


「つまり今でもそれだけわたしに魔力を供給しているということだよね?」


“その通りですが、何かと戦うような場面では少々問題ですが、日常生活を送る上ではとくに問題はないですよ。そもそも魔力供給が多かったのはナナコが原因でしたし、そのナナコが魔石を食べることで魔力供給替わりにできたおかげで、以前よりも余裕が出てきたわけですし”


“うん、なんか魔石を食べるようになって、魔力についても以前よりもわかるようになってきたから、操作もスムーズになった気がするよ”


“確かに魔力操作も格段に上手になりましたし、魔法の発動も早くなりましたね。そろそろ実戦で訓練をしてもよいころかもしれません”


“あ、いやー、実戦はまだ早いんじゃないかなー”


「そもそも次の実習がまだ先の話だから、ナナコの実戦デビューもそれまでお預けだね」


 わたしの言葉に、ナナコはほっとした顔をしたが、なぜかレーリーは首をかしげていた。


“たぶん近いうちにその機会が来ると思って、心の準備はしたほうが良いと思いますよ”


「どうして?」


“ナナコはあれだけ注目されていたのです。実戦でどれだけ使えるか試してみたいと思うのは人の性でしょう”


 レーリーがいやな予想をしている。

 そして彼女の予想は結構当たるのだ。


「……心の準備は必要かもね」


“そんなー!”


 ナナコの叫びが脳内に響いた。


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