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幕間その5 ジャナハン家の野望

エリナ視点


「エリナ、先ほどの話をこんなところでしてしまってよかったのか」


 カレロミム殿下が立ち去った後もその場に残っていたシーベル様がこっそりと聞いてきました。

 わたしのことを心配してくれているのがわかります。


「ええ、父からも許可を得ているというか、おそらくこういう流れになるだろうから、そのときは積極的に伝えるように言い含められていましたので」


 確かにナナコのような強力な従魔であれば、皇家としても黙って放置できないことはわかります。

 そうなれば一番早いのは身内として取り込むことであり、ちょうど年齢の合う未婚の皇子がいれば政略結婚を目論むのは自然なことでしょう。


 そして皇家から正式に発表されてしまえば、余程のことがなければひっくり返すことはできません。

 ですからこのタイミングを外してしまえば、シーベル様との婚姻はかなり厳しいことになった可能性があるのです。




 そもそもわたしたちの家はカレロミム殿下にも言ったとおり、その昔存在したナーシェフ王国王家の血をひいています。


 といっても傍系であり、王位継承権は持たなかったようですが。


 それでも一門ということで当時の祖国のためを思い、国土の半分以上を占めるナーシェフ大沼沢の干拓事業を進言したと伝えられています。

 そしてその進言は採用され、我が一族がその重責を担いました。


 しかし当時の技術では、たとえ魔法を駆使してもあの大沼沢の干拓工事を推し進めることは困難だったようです。

 もちろん事前調査はしていたようですが、実際に手を付けてみると想定以上に沼地の水深の深い場所があったり、地盤が想定以上にもろかったりと。


 多額の費用を費やしながらも当初の予定をはるかに下回る面積しか干拓ができず、結局国力が低下したところを隣国に滅ぼされたのです。


 我が家の祖先は名を変えて生き残り、当時のエリギナ王国、現在のエリギナ帝国へと逃れましたが、自分たちがナーシェフ大沼沢の干拓事業を進言しながらそれを成し遂げられなかったことと、それが国家滅亡の原因となったことを深く悔いると同時に、自分たちの進言は決して間違ってはいなかったことを証明したいと考えるようになり、なんとしても自らの手で再度それを成し遂げることを誓ったそうです。


 とはいえ、すでに王族でも貴族でもなくなっていた先祖たちは自分たちの願望達成のため、複数の目標を立てました。

 その一つがこの国で成り上がることと、事業を完遂するための資金を稼ぐことです。


 慣れない商売を始め、時に失敗しながらも諦めず、やがて国でも有数の豪商といわれるようになりました。


 その後も国家事業に含まれない河川の改修工事や小さな沼地や干潟の干拓事業を請け負うことで一族として経験を積みつつ、ナーシェフ大沼沢の調査も継続して続けてきました。

 これは特にナーシェフ王国を滅ぼしたバシャン王国を、エリギナ王国……現在のエリギナ帝国が滅ぼすまではいわば敵地へ潜入しての調査となったので、まさに命がけだったと聞き及んでいます。


 同時にエリギナ王国への献金も行い、名誉騎士爵位を得るようになったのもこのころです。

 これはできるだけ国の心象を良くして、実際に干拓事業を手掛けることになったときに余計な横やりが入る可能性を少しでも減らすためでした。


 そしてエリギナ王国がナーシェフ王国を滅ぼし、大沼沢を自国の領土に編成したことで、調査自体は楽になりましたが、同時にその調査結果から事業の困難さも改めて明らかとなり、当初想定していた予算では足りないことが判明しました。


 普通ならそこで諦めるのでしょうが、我が祖先たちは諦めずに資金稼ぎと調査を続けました。


 やがてエリギナ帝国が大陸を統一すると、エリギナ帝国がナーシェフ大沼沢の干拓を国家事業として指定してしまいました。


 こうなると一商会のままでは勝手に干拓事業を行うことはできません。

 とはいえ私たちの最終目標はナーシェフ大沼沢の干拓。国が事業を主導するにしても実際の作業はどこかへ委託することになるわけですから、より国とのつながりを強めることとしたわけです。


 家としては男爵位の取得もその一環だったわけですが、わたし個人としても偶然にも皇室直系の男子と同い年だったため、なにかしら伝手でもできればと軽い気持ちで近づいたのです。


 まさか相手に一目ぼれされるとは思いませんでした。


 そのまま黙って付き合うこともできましたが、長い取引には正直さも必要になります。わたしはシーベル様に自分が近づいた理由を説明し謝りました。

 しかしシーベル様は全く気にされず、むしろ協力を惜しまないとまでいってくださいました。


 わたしとしてもそこまで言ってくださるシーベル様を嫌う理由はありません。

 お付き合いを始めることとなり、またそのことを父親にも報告した結果、先ほど皇太子にも伝えた方針が伝えられたのです。


 ただし迂闊な伝え方をすると皇室を利用しようとしているとみなされる、というか実際に利用することになるので反発を招きかねないということで、そのことをシーベル様にも伝えたうえで陛下にお伝えする時期については様子見としていたのです。


 結果的に、多くの人の前で皇太子から私たち二人の関係についてほぼ認める発言を引き出すことができたのですから、悪い判断ではなかったと思いたいところです。


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