褒賞編その9
メイリン視点
あっという間に叙勲および叙爵の日を迎えたが、わたしは緊張で完全にのぼせ上り、何をしたのか覚えていない。
ただ、他の方々からは特に問題なかったといわれたので、少なくとも大きなミスを犯すようなことはなかったのだろう。
そして今、同じ日に行われている祝賀パーティーへ参加している。
どうやらわたしが主役のようなのだが、わたしにパーティーのふるまい方などわかるはずもない。
そこでサシャ様とエリナ様がつきっきりでわたしをサポートしてくれることになった。
「いいですかメイリン、にこやかに微笑みながら挨拶だけをしてください。相手が何かを求めてきたとしても、『まだそのあたりのことは新参者で分かりかねます。寄り親のステイン伯爵を通していただけますか』と答えれば問題ありません」
サシャ様はそういうが、勝手に用件を振って迷惑がられたり怒られたりしないだろうか。
「本当なら我がマイナル家が寄り親になるはずだったのに、ステイン家は横入りをしたのです。それくらいの苦労を買うのは当然です」
いえ、そういう感情的な意見を聞きたいのではないんですけど。
わたしの疑問にエリナ様が答えてくれた。
「そもそも寄り子、寄り親の関係というものはそういうものです。もちろんいつでもすべて寄り親に頼り切りということはありませんが、今回に関してはステイン伯爵家はわざわざ名乗りを上げてあなたの寄り親になったのですから、なにかしら彼らにもメリットがあったということですからね」
つまり少なくとも現時点では、わたしが誰かもわからない貴族と余計な約束を交わしてしまうよりも、すべて寄り親に投げてしまったほうがステイン伯爵としても助かるということか。
そういうことであれば、今日についてはひたすらその手を使うことにしよう。
パーティー会場に入ると、一斉に注目された。
まあ当然である。
わたしというよりもわたしの後ろにいるナナコの存在感がすごいのだ。
“ねえねえ、早く何か食べてみたいんですが!”
当の本人はこんな状態であるが、内情を知らなければ巨大な従魔がよだれをたらさんばかりに周りを睥睨しているのである。そう簡単には近寄りたくないだろう。
ひそひそとなにやら話しあっているようだが、もう気にしてもしょうがないと割り切ることにした。
『ナナコ、何を食べたい?』
“とりあえずあっちのテーブルにあるお肉っぽいものを食べたい!”
わたしは寝ているレーリーを首に巻いたまま、ナナコと一緒に料理の置いてあるテーブルに近づいた。
「メイリン、料理については給仕の人に欲しいものを伝えれば皿に取り分けてくれますから、自分で取る必要はありません、というか自分で取ってはいけませんよ」
そういえばマナー研修でもそんな話を聞いた気がする。短期間で詰め込んだので一部記憶があいまいだ。
「本当ならテーブルに近づいた時点で給仕が近づいてくるべきなのだけど、どうやらナナコを見てためらっているようね」
サシャ様がそう言いながら一番近くにいた給仕に声をかけた。
呼ばれた給仕の顔が一瞬絶望したように見えたのは気のせいだと思いたい。
“はぐ、はぐ、うん、これはおいしい。日本は飽食の国とか言われてたけど、全然負けてないよ”
『美食の国じゃないんだ』
“おいしい食べ物もたくさんあったよ。ただほかの国の料理も自分たちの好みに魔改造するのが得意だという人たちもいたね。それよりなにより、食べ物が豊富だったから結構廃棄される食べ物が多くてそういわれていたんじゃないかな?”
確かに貧しい国だと料理を捨てるなんてありえないだろう。
この国はどうだろうか。田舎だと無駄にしないようにしているけど、都会では捨てている分もあるかもしれない。
『じゃあ、この世界の料理もナナコの国の人たちの手に掛かるともっとおいしくなるのかな?』
“どうかな? よりわたしたちの口に合う味に変えることはできても、それがメイリンたちの口に合う味になるかはわからないし”
それは確かにそうだ。
ただこの国の味がナナコの口に合っているようだから、そこまで違いはないかも。
“メイリン、次はそちらの野菜サラダみたいなものを食べてみたい”
「すみません、こちらのサラダを取り分けてもらえますか」
ナナコの注文に従って、給仕のお兄さんに頼んでみる。
どうやらほかの給仕の人が近づいてくる気配がないので、このお兄さんがわたしの専属を押し付けられたらしい。
できるだけナナコから離れた位置で給仕しようとしているけど、大丈夫だよ、ナナコは怖くないよ、と教えてあげたい。
だけどあまり給仕の人になれなれしく声をかけるのも良くないようなので我慢する。
「メイリンは先ほどから料理ばかり取っているわね」
「ナナコが食べたがっているのです」
少しあきれたようにいうサシャ様にそう答える。
これは事前にレーリーからも言われていた。わたしがうかつに動き回ると何かしらのトラブルに巻き込まれる可能性もあるから、ナナコを口実にして料理を食べ続けたほうがいいと。
そもそもこのパーティーは今回、叙勲および叙爵したわたしたちのお披露目も兼ねているものだが、パーティーの席で目下のものから目上のものへ話しかけるのは基本的にマナー違反である。
つまり相手が話しかけてくるのを待っている間、食事をとることは別に問題ではない。
ただ相手がナナコを恐れて近づいてこないだけである。
ナナコを連れてきた件については、皇家からもそのようにするよう言われているので全く問題ないし。
というわけでナナコと食事を堪能していたのだが、さすがにこのままではまずいと思ったのか、アルドア様が一人の中年男性を連れてきた。
誰かと思ってアルドア様の紹介を聞くと、彼の父親、つまりわたしの寄り親となるステイン伯爵その人だ。
わたしは慌てて手に持っていた皿をテーブルに置いた。
「はじめまして。このたび準男爵となりましたメイリン・パッテナです。ステイン伯爵には我が家の寄り親になっていただき誠にありがとうございます」
うろ覚えの礼儀作法でそうあいさつすると、ステイン伯爵は鷹揚に頷いた。
ちなみにわたしは平民なので姓はなかったけど、一代貴族でも貴族の端くれである以上、姓は必要になるということでパッテナという姓がついた。
本当はわたしが自分でつける必要があったんだけど、今日のための準備とか他のことで精いっぱいだったので、紋章官という人に適当に選んでもらったのだ。
「若輩者を導くのも貴族の務めだ。しかしそちらが今回貴殿が従魔にしたというホワイトタイガーか。たしかに立派なものだ」
「お褒めに与り光栄に存じます」
「準男爵は確かに一代貴族ではあるが、今回は平民から一足飛びに永代貴族とするわけにはいかないという頭の固い連中を黙らせるための手順にすぎん」
は? 何の話でしょう?
「一代貴族であれば平民との結婚もさほど問題にはならないが、永代貴族となればそういうわけにもいかないだろう。幸い、うちのアルドアとも仲が良いようだから、この際アルドアを婚約者とするのはどうであろう」
ナンノハナシデショウカ?
「父上! わたしはそんな話は聞いておりません!」
ナニヤラ、アルドア様ガサケンデイル。
「あなた、最初からそれが目的でメイリンにちょっかいかけていたのね!」
トナリデ、サシャ様モサケンデイル。
ドウシテコウナッタ。
次の部分がまだ書きあがっていないので、次回の更新は少し間隔があくかもしれません。
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