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褒賞編その8

レーリー視点


 メイリンが貴族に叙せられることになったそうで、部屋の件や魔石を購入する費用などといったここしばらくの懸案が一気に解決しそうです。


 ただ、そのことでメイリンがすっかり動揺してしまい、結局叙爵の日まで落ち着くことはありませんでした。


 そして無関係だと思っていたらしいナナコにも一緒について行くことを伝えたところ、なぜか動転しています。


 別に従魔にそこまで礼儀を求めるような酔狂は人はいないでしょうに。


 なにやら粗相をしたら処分されるのではないかと心配しているようですが、そもそもナナコを簡単に処分できるような人がいるなら、メイリンを貴族にするという話が出ることもなかったでしょう。


 叙爵そのものについては特筆するようなことはありません。

 せいぜい、謁見の間にわたしたちを通すにあたり、おそらく万一に備えてなのでしょう、近衛兵をずらりと並べるだけでなく、控えの間にもおそらく兵が詰めているようであることくらいでしょう。


 万が一、ナナコが暴走した場合に備えてのことと思いますが、そこまで警戒するなら最初から呼ばなければよいものをと思ってしまいます。


 まあ国というのは最悪の事態を想定しつつも最良の展開を模索しつつ、無難な結論へ至ることが多いですから、今回もいろいろな思惑が絡み合った結果なのでしょう。


 緊張でガチガチのメイリンはサシャさんに任せます。わたしが声をかけても良いのですが、こちらの世界の作法には詳しくないのでここは詳しい人に任せるほうがよいというものです。


 ナナコも同じく緊張しています。ただナナコは暴走さえしなければ問題ありません。


 ……一応声をかけておきましょう。


“ナナコ、あまり緊張しているとかえって動きがおかしくなりますよ。メイリンの後ろで静かにしていれば問題ないですから、もう少し緊張をほぐしてください”


“う、うん、そうだよね。大丈夫大丈夫……人という字を手のひらに書いて……ああ、虎の手のひらだから肉球が……”


 なにやら自分の前足を見ながらぶつぶつ言っていますが、たぶん大丈夫でしょう。


 せっかくこのような場に来たので、わたしは周りの様子を観察することにします。


 まず皇帝陛下ですが、思っていたよりも若く見えます。

 第四皇子の年齢からして少なくとも四十は超えているだろうと思っていましたが、見かけでは三十前といわれても信じてしまうでしょう。


 ……そういえば皇帝は『えるふ』とかいう長命種だということでした。見た目以上に高齢なのかもしれません。


 その皇帝の周りにはおそらく大臣たちと思われる方々も控えています。ただだれがどういった役職なのかまではわたしには判断できません。

 それでも皇帝に近い場所にいる、二人の男性がおそらく政治と軍事を動かしている事実上の最上位者だろうことは推察できます。


 大国の上層部といっても、末期になるとどうしようもない方々が席を温めている場合も多いようですが、少なくともこの国はまだ健全な方だと思われます。


 そしてもう一人、皇帝の近くにやはり20代前半ほどの男性がおりますが、おそらく彼が皇太子でしょう。

 すこし覇気が強いように感じますが、思慮深さも伺えますのでむやみに無謀なことをしでかすような人物ではないことでしょう。

 普通であればメイリンが使えることになるのは、今の皇帝よりもこちらの皇太子のほうが長くなるはずなのですが、メイリンよりも皇帝のほうが寿命が長いようなので、そのあたりどうなるかはわかりません。

 それでも付き合い方を考えるうえで事前に観察できたのは良かったと言えるでしょう。




 さて叙勲式および叙爵式はつつがなく終了し、無事にメイリンは準男爵となりました。

 寄り親はメイリンがよく口にしていた領主であるガレール男爵家か、もしくはサシャさんの実家であるマイナル伯爵家になると思っていましたが、どうやらどちらも違い、アルドア君の実家であるステイン伯爵家がなるようです。


 普通であれば以前から支援していた家がそのまま寄り親になると聞いていましたが、どうやらステイン伯爵家が軍務閥に属していることが関係しているようで、やはりメイリンはナナコを含めて戦力として考えられていることが伺えるでしょう。


 メイリンは緊張で早く終わってほしいと思っていたようですが、しかし本当の難問はむしろこれからといえます。


 とにかくただでさえランク5超の強力な従魔を持つ一代貴族ということですから目立つうえに、後ろ盾が少ない状態です。


 そしてわざわざ軍務閥の寄り親が選ばれたという状況からしても、メイリンには今後何かしらそちら関係の仕事が割り振られる可能性は高いといえます。


 普通であれば一代貴族から永代貴族になるにはそれなりの時間がかかります。

 たとえばエリナさんの実家であるジャナハン男爵家は、もともとは商人だったそうですが代々の当主が国に多額の寄付をすることで三代続けて騎士爵を授かり、さらに彼女の祖父の代に一部で生じた飢饉に対して私財を投じてその救済にあたったことで準男爵位を獲得、さらに彼女の父親の代に彼女の地元にある川の治水のために代々行ってきた堤防の完成をもって、ついに永代貴族に叙せられたそうです。

 もちろんそうした出費も宣伝効果や、河川運送業の安定化などで十分元をとっているということですが、平民から貴族に成り上がるのがそう簡単ではないことの実例と言えます。


 しかしメイリンに関しては例外と見なされているわけです。

 実情はともかく、他人の目から見れば強力な魔獣を従えているわけで、難易度の高い討伐任務なども彼女が加わることで成功率が上がるだろうと予想するわけです。

 そしてそうした仕事をこなしてさらに功績を上げていくなら、さほど時間をかけずに昇爵して永代貴族になる可能性は高いだろうと思われてもおかしくないわけです。


 そしてもう一つ重要なこととして、これはわたしも本からの知識ですが一般的な魔獣はランクが高いほど寿命も長くなる傾向にあるそうです。

 つまりメイリンが亡くなった後もナナコは生き続ける可能性は高いということになります。


 では召喚士が亡くなった場合、その従魔はどうなるかというと、基本的には解放されるのですが、もしもその召喚士に弟子や子供がいたなら、自分の従魔を指定の相手に引き継ぐことが可能です。


 もちろんいろいろ条件があり、従魔の引継ぎ自体も法律的に手順が決まっているようなので簡単ではありません。それでも貴族であれば、メイリンが自分の息子と結婚して子供を産めば、自分の孫が将来ランク5超の従魔を引き継げる可能性があると考えるわけです。


 ちなみに無理やり従魔を奪うようなことをすると、厳しく罰せられます。先日、シーベル殿下が未遂事件を起こしたのは実は結構危なかったのです。

 だからご実家に呼び出されたのでしょう。


 ついでにもう一つ、実はこの引継ぎ方法を応用することでメイリンをわたしへの従属状態から外すこと自体は可能です。

 ただしあくまでも私への従属状態から外れるだけで、その後は誰か別の人物がメイリンの主人になる必要があるので意味がない上に、メイリンの主人になった時点でその人は人を魔法により従属させた罪をかぶることになりますので、そもそも論外ということになります。


 話がそれましたが、とにかくいろいろと手札が増えればそれだけ有利になると考える上位貴族にとって、メイリンは非常にお得というわけです。


 しかも彼女は独身であり、政略結婚に持ってこいときています。

 おそらく余っている次男以降を彼女の婿にしようと目論む貴族が増えることは間違いないでしょう。


 とりあえずこの後に祝賀の宴があるようですが、すでに駆け引きが始まっていると見るべきです。

 あまり人のことは言えませんが、男女の機微に疎そうなメイリン一人だと心配です。

 かといって今のわたしではあまり助けにもなれません。


 おそらくサシャさんやエリナさんがついていてくださるので大きな問題はないと思いますが、やはりそれだけでは不安もあります。


“ということでナナコ、頼みましたよ”


“何を頼まれたのかよくわかんないんだけど”


“この後はぱーてぃーとかいう祝賀の宴があるそうです”


“うん、知っている! いよいよわたしもこの世界の食事デビューですよ!”


“思う存分食べてください。できるだけメイリンから離れないように。そしてメイリンにしつこく言い寄る男性がいて、メイリンが迷惑している様子だった時はすぐにメイリンにお代わりを要求してくださいよ”


“つまりメイリンに悪い虫がつかないようにすればいいわけね”


“そうです。いくら図々しい相手でもナナコを前にして強気でいることは難しいでしょうからね”


 逆に言えばナナコ相手でも怯まないくらいであれば、見どころはあるでしょう。


“いいですか。メイリンが貴族になったということは相手が政略結婚の相手としてメイリンを選ぶ可能性もあるのです。それ自体が悪いとは言いませんが、メイリンを大事にしない相手と結婚することだけは避けないといけませんからね。

 サシャさん、エリナさんもいますから彼女たちの反応も見つつ、場合によってはわたしたちで相応しくない相手は排除しますよ“


“イエッサー!”


 よくわからない返答をされましたが、本当に大丈夫でしょうか。


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