褒賞編その7
ナナコ視点
どうもわたしがメイリンの魔力を消費しすぎるということで、部屋の中に軟禁されました。
うそです。べつに軟禁はされていません。出ようと思えば外に出ることは可能です。
ただ、部屋は出ないでほしいと言われているので、ほぼ軟禁状態といえます。
ちなみにわたしが昼間、入口に顔を向けて寝ていると、ハウスキーパーの方が部屋に入ってきたときにかなり驚かれるので、いまはお尻を向けて寝ています。そのほうがまだ驚かれません。
まあ、わたしが部屋を占領しているから掃除できるスペースは入り口部分しかないんだけど。
暇ではありますが、森の中でも一日の大半は寝て過ごしていたのであまりかわらないと言えます。
ただこんな惰眠を貪っているだけの異世界生活というのは、この世界で生きる覚悟をした身としては少し拍子抜けです。
もっとこう、血沸き肉躍り、心躍りアンコール湧かすような生活になるかと思っていました。
まあそれじゃあ戦えるのかと言われれば、戦える自信なんてないし、かといって他に何かできることがあるわけでもないので、今はこのぬるま湯のような日々を堪能することにします。
もちろん、本当に何もしていないわけじゃないです。
一応、夜にはレーリー先輩がわたしに魔力の使い方を教えてくれます。
レーリー先輩はわたしより数か月早くこちらの世界に飛ばされてきただけなのに、魔力の扱いが凄くうまいです。
本人は「魔力探知」と「魔力操作」のおかげだと言っていますが、メイリン曰くたとえ有用なスキルを持っていても使いこなせなければ意味がないとのこと。
スキルは持っているだけではダメなようです。世知辛いですね。
……。
考えてみればわたしも水魔法のスキルを持っていますが使えないので、納得です。
閑話休題。
レーリー先輩はまずわたしが魔力を感じ取れるよう訓練しました。
そのためにわたしは目を閉じて、先輩がどこにいるかを当てるという目隠し鬼みたいなことをやっています。
目を閉じちゃあ見えないじゃないですかー、と突っ込んだら、魔力を感じ取れればどこにいるかわかるはずです、と真面目に返されてしまいました。
……レーリー先輩にジョークは通用しないようです。
仕方がないので言われた通り目を閉じてみます。
最初は何もわかりませんでしたが何もわかりませんでしたが、なんか右側の方が妙に気になります。
何かが点滅しているような、現れたり消えたりするような感覚があります。
“レーリー先輩、なんだか右側のほうで何かが点滅しているような感じがするのですが”
“今、わたしがそちら側で魔力を隠蔽したり隠蔽を切ったりしています。ですから今感じているそれが魔力です”
はー、これが魔力ですか。
言われて意識すると、はっきりわかるようになりました。
“なんだかあっさりと分かるようになりました。意外と簡単ですね”
“たぶん、魔獣になったことで魔力に対する感覚が鋭くなっているのでしょう。今度は同じ感覚が自分の中にもありますから、それを感じ取ってください”
そんな感じでほぼ一日で魔力を感じ取れるようになれた!
なんだかあっさりしすぎていて、やっぱりわたしもチート能力持ちなのかも?
「へえ、ナナコもやっと魔力がわかるようになったんだ」
え、「やっと」と言いました?
「普通、従魔だとある程度他の魔獣の魔力を感じ取れるらしいし。今まで感じ取れなかったナナコがどちらかというと落ちこぼれ?」
“メイリン、落ちこぼれは失礼ですよ。そもそも魔力がない世界から来ているのですから、魔力がどんなものか分からなくても仕方がないことなのです”
なんだか貶されているのか慰められているのかよくわからないんですけど。
「だけどこれでナナコも無駄な魔力を使わないようにできるかな」
“いえ、多少は改善したようですが、まだまだのようです。もう少し自分の魔力を制御できないと、メイリンから過剰に魔力供給を受けている状態は改善しないと思います”
どうもわたしが魔力制御が下手なせいで、メイリンから普通以上に魔力を奪ってしまっているようなのだ。
そこで魔力を上手に扱えるように、わたしの訓練が急務だとか。
“しばらくは部屋の中で訓練ですが、ナナコが起きていると魔力消費が激しいので、残念ですが日中は部屋の中で寝て過ごしていただき、わたしたちが帰ってきてから短い時間訓練をする、という予定でしばらくは行きます”
つまりしばらくは日中は部屋で寝ながら留守番、メイリンが帰ってきてからレーリー先輩と魔力制御の訓練とこちらの言葉の勉強をして、夜はまた寝るという予定ですか。
なんというか、引きこもりのニートのような生活なんだけど……。
そんな生活を暫く過ごしていたら、ある日、いつもより少し遅く帰ってきたメイリンの様子がおかしかった。
“メイリンはどうしたんですか?”
“実は今度、メイリンが貴族に叙せられることが決まったんです”
“え、なんでですか。いきなり貴族なんかになれるんですか?”
イメージ的に平民が貴族になるには高いハードルがありそうに思うんですけど。
“どうやらナナコのせいのようです”
“わたし?!”
レーリー先輩の話によると、わたしが森の中を移動したことで発生した小規模な魔獣暴走を被害なく収めたことで、国から勲章をもらえることになったそうな。
そして中でも高ランクの魔獣を従えることに成功したメイリンには、貴族位という追加の褒賞が与えられることになったんだと。
“わたしって、そんな貴族になれるほど凄い魔獣だったの?!”
“わたしもこちらの世界のことはまだ詳しくは分からないのですが、どうやら軍隊でいうと最低でも500人は動員して討伐するような魔獣のようですよ”
“500人の軍人と戦える気がしないし、戦いたくもないんですけど……”
“ナナコが実際に戦えるかどうかではなくて、その可能性を秘めていることが国にとっては重要なのです”
レーリー先輩から説明を受けて、なんとなく納得がいった。
現代の地球に当てはめれば個人で最新戦車を持っているようなものなのだ。
普通であれば国が出てきて取り上げるか、がちがちに管理して使えないようにするか、もしかしたらその人ごと国が抱え込むんじゃないかな。
そして今回の場合は、その最後のパターンということだ。
“もしかして、今後わたしも戦うことが求められる?”
“今はまだわかりませんが、その可能性は高いと思われます。なにしろこの世界にはわたしたちのような魔獣が人を脅かしているわけですし、ほかにもダンジョンという危険な場所もありますから”
そっかー、まだ実感がわかないけどわたしは戦えるんだろうか。
あとダンジョン、ダンジョンですか。
異世界あるあるですねえ。
“レーリー先輩はダンジョン生まれなんですよね?”
“こちらで目が覚めたのはダンジョンの中でしたので、そう言えなくもないですね”
うん、戦いは怖いけど、ダンジョンと聞くとちょっとテンションが上がってしまう。
こちらは異世界という割には魔法以外はあまりそれっぽいものがないように思えていたので、機会があればダンジョンには行ってみたい。
その時のためにも、しっかりとレーリー先輩から魔力の使い方を教えてもらわないと!
メイリンが貴族になるために城へ向かうことになったんだけど、どうやらレーリー先輩とわたしも一緒に行くことになったらしい。
“わたし、そういう場所での礼儀作法とか知らないんだけど……”
“たぶん従魔にそこまで格式ばった作法を求める人はいませんから、心配しなくても大丈夫ですよ”
そうは言っても、お偉いさんを怒らせたら処分されたりするかもしれないし……。
できるだけおとなしくしていよっと。




