褒賞編その4
あれから1週間過ぎたが、ナナコは基本的に部屋で寝ていてもらっている。
自由に動けないことに文句を言っていたが、その割には寝ていること自体に不満はないようだ。
そしてナナコの消費魔力が減ったことでレーリーが普通に起きていられるようになり、今はわたしの最大魔力量増加の実験のようなことをしている。
朝一でわたしの魔力が一番回復した状態のときに、レーリーがわたしに魔力供給を行うのだ。
魔力が満タンになった感触がわたしもわかるようになったが、そこからさらに少しづつ追加される感触はどうにもなれなかった。
ただ、さすがにレーリーの魔力探知と魔力操作はスキル化されているだけに非常に精密で、わたしが我慢できないほどの魔力供給をしてくることはなかった。
そしてその結果がこれである。
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種族:人間
名前:メイリン
魔力:128
スキル:全魔法適性
状態:***(シロテン)の従者
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以前は123ワリーシュだった最大魔力量が128ワリーシュまで増えている。
1ワリーシュ増やすのに1か月半掛かるという話は一体……。
とにかくレーリーのおかげでわたしは順調に魔力量を増やせている。
1週間で5ワリーシュなら、うまくいけば1か月で20ワリーシュは増やせる可能性がある。
増やせる数値の上限があるかはわからないけど、
さらにこの実験を通して、わたしはレーリーの魔力操作を間近で観察できたことも大きい。
精密な魔力操作をじっくり観察することで、自分の魔力操作の参考にできるからだ。
参考になる魔力操作を目の前で繰り返し観察できる機会なんて滅多にないので、これは本当にためになった。
あと、レーリーはナナコの魔力操作の訓練も行っている。
といっても、長時間はできないので寝る前の30分程度だけど。
最初のうちはやはり魔法自体がない世界からきたというだけに全然わからないようだったけど、そこは魔獣としての特徴なのか、一度魔力を感じ取れるようになるとすぐにコツをつかんだようで、以前は垂れ流されていた魔力も今ではかなり減らすことができてきている。
この分なら、またナナコを学園に連れていくことができるようになるかもしれない。
というか、エリナ様が次はいつナナコを学園に連れてくるのかとうるさいのだ。
ずいぶんと執着するなあと思ったら、どうもナナコの抜け毛が欲しかったらしい。
ナナコはああ見えてもランク5超の魔獣だ。その毛皮で防具などを作れば非常に防御力の高いものができるのだが、抜け毛をうまく使うことでもそれなりの防具をつくれるらしい。
やはり彼女は抜け目ないというか、商魂たくましいというか、感心してしまった。
ちなみに以前持ち帰った抜け毛で試したとのことで、売値の一割に当たるという五万エルをわたしにくれた。
こんな大金を持つ機会は滅多にないので、ちょっと手が震えたのは内緒だ。
ただ、サシャ様がそれを見ていて、エリナ様に苦情をいった。
「あなた、勝手にメイリンの従魔の毛を持っていって、たった一割しかメイリンに渡さない気なの!」
「ええ、それは確かに申し訳なかったと思いますが、ただ持ち帰った時点ではまだナナコの毛が本当に商品になりうるか分かりませんでしたので。
そもそも従魔の毛なんて、普通は売り物にはなりませんでしょう。お金になるかと期待させておいて、価値はありませんでしたというのも申し訳ありませんし」
「ですが、お金になることが分かったのですから、メイリンの取り分はもっと多くてもよいのではなくて」
「売れる品にするまでに、いろいろ加工が必要なのです。職人に支払う手間賃や、うちのもうけも考えますと、メイリンの取り分一割は良心的と思いますけど」
「あの、サシャ様、わたしのためにありがとうございます。ですがわたしとしてはナナコをブラッシングした後の抜け毛が売れたというだけでも十分ですから」
わたしがそういうことで、サシャ様も引き下がった。
というわけで、今後もブラッシングして出た抜け毛で構わないので定期的に受け取りたいと希望されたので、思わぬ収入源を得ることになった。
と、このやり取りを聞いていたレーリーが質問してきた
“メイリン、そのお金で魔石は買えませんか?”
『あ、そうだね。だけど全部使っても5つくらいしか買えないけど、そんなもので足りるかな』
“足りるとは言えませんが、たぶん従魔は人よりも魔石の吸収力が高いと思います。わたしもダンジョンにいた時は魔石を食べていましたし。
ですから一度どの程度効果があるか試してみるのが良いと思います”
そうか、そもそも従魔に魔石を与えてどの程度魔力が回復するかなんて聞いたことないし。
単純にわたしが知らないだけかもしれないけど、それでも従魔によって効果が変わる可能性もあるわけだから、ナナコ自身で試す価値はあるよね。
『わかったわ。もともとナナコの抜け毛による収入だし、これはナナコのために使うことにしよう』
「サシャ様、魔石を購入する方法をご存知ではないでしょうか」
「魔石ですか? うちは出入りの商家から購入しているはずですが」
そうですよね、貴族なら御用商人がいますよね。
「あら、メイリンは魔石が欲しいの?」
エリナ様が話に入ってきてくれた。よく考えなくてもエリナ様のほうがこの手の話は詳しそうなのだが、やはりわたしの立場上、こういう時はまずサシャ様に伺うのが礼儀なのだ。
「はい。ナナコは魔力が多いので、どうもわたしからの魔力供給だけだと足りないようなんです」
「あら、そんなことがあるのね。よろしければうちの取引先にも魔石を専門に扱っている商家がありますから、わたしの伝手で少しお安く仕入れることもできますわよ」
さすがエリナ様である。安く購入できるなら、それに越したことはない。
一応、わたしはサシャ様に確認の目線を送る。
サシャ様はそれに気付くと、少し呆れた様子だったが頷いてくれた。
「ありがとうございます。それではランク1の魔石を先ほどいただきました5万エルで購入可能なだけ欲しいのですが」
「わかったわ。実家へ連絡をしてからになるので、数日かかりますがよろしくて?」
その条件でお願いして、改めて5万エルをエリナ様に渡した。
うまくいけば、ナナコ自身の抜け毛でナナコが必要な魔石が手に入れられるわけで、わたしとしても一つ問題が解消するかもしれないのだ。
そんなふうに考えていたら、カイル先生がわたしたちを呼びに来た。
「先日の討伐実習に起きた件で、学園長から皆さんへ話がありますので、放課後にチームメンバー全員で来ていただけますか」
今頃になって何の用だろう?




