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褒賞編その3

 最大魔力を上げられるというのは魅力的だが、それでも魔石を食べるなんて、ちょっと真似したくない。

 そうしたわたしの気持ちをさらに強めるような話をカイル先生はつづけた。


「そしてこの話には後日談がある。別の研究者が再現実験をしようとしたんだが、その時に一気に魔石を食べ過ぎて、酷い魔力酔いになった挙句、数値は上がらなかったそうだ」


「え、じゃあ最初の実験が間違っていたんですか?」


「それがどうも違うらしい。その後も何人かが挑戦した結果、2,3日に1個くらいのペースで食べて、いわば自分の魔力量を少しずつ広げて馴染ませることで、魔力が増えやすくなるということが判明したんだ」


「ということは、1ワリーシュを増やすのに1、2か月程度かかるということですか」


「単純計算ならそういう計算になる。その後もいろいろ検証されていて論文で発表されているけど、実際に行おうとすると自分の魔力が満タンの状態で魔石を取得する必要があるなど結構細かい条件があって、条件を揃えればランク1の魔石を3日に1つ食べることでだいたい1か月半で最大魔力量を1ワリーシュ増やすことが可能だそうだ。頑張れば1年で8ワリーシュ増やせるわけだ」


それって、意味あるんだろうか?


「もう少し増やせば、あと1回魔法が撃てるという人なんかは、やる意味があるかもしれない。だがやはり魔石を食べることに抵抗を感じる人が多いようだし、掛かる費用や条件を考えるとお金と時間に余裕がないと難しいだろうね。

 で、お金に余裕がある人なら、そこまでして魔力を増やす必要がないことが多い。結果的にはこの方法はほとんど広まることはなかった」


「そもそもそのペースでは、ナナコに普通に魔力提供できるようになるほど魔力量を増やすのは不可能です」


 わたしは400ワリーシュ以上増やさないと、ナナコの魔力量の10分の1にならないのだ。

 1年に8ワリーシュしか増やせないなら50年もかかることになる。

 しかも魔力を使いすぎたり、睡眠時間が少なかったりして魔力が十分回復していない状態では行えないわけで、その期間はさらに伸びることになるのだ。


「そうだな。そこでもう一つ、実はこの実験から派生した実験がある。

 そもそも魔力を増やすために魔力を注ぎ込むということだが、そういうことをもっと日常的に行なえる場面があるだろう」


「召喚主が従魔に魔力を供給することですか」


「その通り。それじゃあ従魔に魔力を過剰に供給し続けるなら、従魔の魔力量を増やせるのではないか、と考えたわけだ。そして研究と実験が行われた」


「どうなったんですか?」


「半分成功、半分失敗というところかな。もともと従魔は魔力の過剰供給を嫌がるから、最大魔力量以上を供給しようとしても拒否してしまうんだ。

 ただ越えたらすぐ嫌がるわけではなく、越えてしばらくしたら嫌がるらしいので、そのぎりぎりを見極めつつ供給を続けると、最大魔力量を増やすことに成功した」


「ぎりぎりを見極めてって、そんなことはできるんですか?」


「普通の人は難しいな。魔力感知や魔力操作が得意な一部の召喚士が成功したんだ」


「つまり可能か不可能かでいえば可能という意味で成功だったけど、難易度を考えると失敗と言えるということですね」


「そうだ。で、話を元に戻すがレーリーはたしか魔力感知、魔力操作のスキルをもっていたね」


 そういえばそうだ。


「これは本人に聞かないとわからないけど、レーリーは魔力感知でメイリン君の魔力がすごい勢いでナナコに供給されていることに気づいたんじゃないかな。

 それでメイリン君に足りない魔力を供給するだけでなく、魔力量増加を目指して過剰供給を続けていたとしたら、レーリーが魔力不足に陥っていることに説明がつく」


「レーリーがわたしに黙ってそんなことを……」


“ごめんなさい、心配をかけることもないかと思って”


 いつの間にかレーリーが起きてた!


“いえ、実はずっと眠っていたわけではなく、時々起きてメイリンに魔力供給をしていました”


「レーリー、本当にわたしへの過剰供給を行っていたの?」


“そこは実は少し違うのです。おそらくナナコ自身がまだ自分の魔力を扱えないことが原因だと思うのですが、ナナコの魔力消費が激しくて、メイリンからナナコへの魔力供給が一割どころではなく、もっと大量に吸い上げられていたのです”


「え?」


「メイリン君、レーリーが起きたんだね。なんて言っているんだい?」


 カイル先生に聞かれたので、たった今レーリーから聞かされたことをそのまま伝える。


「うーん、どの程度の量がナナコへ行っていたかわかるかい」


“おそらく二割くらい、1時間当たり100ワリーシュ程度は吸い上げていたと思います”


 レーリーはもうカイル先生の言葉がわかるからカイル先生の質問にすぐ答えたが、先生にレーリーの言葉が伝わるわけではないので結局わたしが伝えないといけない。


「1時間当たり100ワリーシュ程度だそうです」


 しかしその数値だと確かにさすがのレーリーもこまめに睡眠をとらないと枯渇する。


“おかげでメイリンの魔力量増強プランもまだ試すことができていません“


「え、メイリンはさっきのカイル先生の話を知っていたの?」


“はい。メイリンの持っている『魔法学辞典』という参考書に記載がありましたから”


 あれって、わからないことを探すもので、普通は隅々まで読むような本じゃないんだけど。


“今も、ナナコは大量の魔力を消費しています。

 取りあえず対策としてはある程度の量の魔石を用意してナナコに与えること。

 そうやって時間を稼いでナナコに自分の魔力を感じて垂れ流しになっている分を押さえられるように訓練すること。

 そしてナナコの魔力が落ち着いたなら、メイリンの魔力量増強を試すこと。

 この順で対処することを提案します“


 うーん、レーリーの意見は多分正しい。

 だけど魔石を用意するというところがネックだ。

 とりあえず今の話をカイル先生にも伝えてみた。


「そうか、だが魔石はたとえばランク1の魔獣のものでも1つ一万エル以上はする。それをナナコが必要とする分だけ準備するのは今のメイリンには難しいな」


 そう、先ほどの魔力量増強の件でも出たが、魔石はそれなりの価格がする。

 例えば肉体労働をする人が一日に働いて稼ぐ額が一万エルと言われている。庶民には少し高い買い物だ。

 というか領主様のお金で学園に通わせていただいているわたしが簡単に用意できる額ではない。


“自分達で魔物を狩りに行くというのは難しいですか”


「学園の近くには魔物が出るような場所はないから、簡単に狩りに行くことはできないよ」


 魔動車が使えればともかく、徒歩だと従魔のいるところまで半日はかかる。学園に通いながらでは難しいのだ。


「魔石の件については、そうですね。こちらでも対策を考えましょう。ナナコについては当面は睡眠時間を多くとってもらい、メイリンの魔力消費を抑える方向で。

 起きている間はレーリーが魔力を扱えるよう訓練する、ということではどうですか」


「そうですね、そうするしかないと思います」


“魔石を用意できないのであれば仕方がありません。もともとナナコは寝ている時間が多いですし”


 そう、今も難しい話に飽きたのか眠ってしまっており、だからレーリーも起きて話に加わることができたのだろう。


「ただ油断するとメイリン君も魔力不足になる可能性が高いようだから、しばらくは魔法の使用は控えたほうがいいだろうね。

 先生方にもそのように伝えておくから」


 うん、魔力不足で倒れかねないものね。


 ついでに広い部屋に移動する方法はないかを聞いてみたら、少し待ってほしいと言われた。

 否定しなかったということは何か方法があるんだろうか?


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