幕間その4 部屋で雑談
メイリンがナナコを寮に連れてくると、ひと騒動が起きた。
当然である。人の何倍もある従魔が寮の中に入ってくれば、誰でも驚く。
しかもナナコが廊下を通ると、誰もすれ違えない。メイリンが前に立って謝りながら自分の部屋まで誘導した。
“ここに入るの?”
「そうなんだけど……入れる?」
入口は当然人のサイズであり、見たところナナコが入れるのか微妙に思えた。
“猫は液体とも言います! 入って見せましょう!”
「なにそれ。聞いたことないけど」
“確かに猫はしなやかですが、別に液体ではないですね”
ナナコの発言に対して、メイリンとレーリーがそれぞれ真面目に返す。
“ああもう、そういうネタがあるんですよ。真面目に突っ込まないでください!”
そう言いながらナナコは入口に頭を突っ込み、次に肩をくねらせながら入り込んだ。
「入れはしたけど……」
”ナナコで部屋がいっぱいという感じですね“
“別にそこまでいっぱいじゃあないですよ。ほらこうやって動けますし”
そう言いながらナナコは部屋の中で体の向きを変えて頭を入口に向けた。
「扉を開けたらナナコの顔がいきなり見えるのはかなりホラーね」
“知らない人なら叫び声をあげるでしょう”
“なによなによ。私だって好きで虎になったんじゃないのよ!”
そう言いながらナナコは部屋の中で香箱座りをした。
“あーなんか落ち着くわ。猫が狭い場所に入りたがる理由が今分かった気がする”
「狭くて悪かったわね」
そう言いながらメイリンもナナコと壁の隙間をよじ登るようにして部屋の中へ入った。
「これ、わたしの生活スペースがベッドの上しかないんですけど」
“別に私の上に上ってもいいよ。帰ってくるときに乗せていたときもメイリンは軽かったし”
「生きた虎の敷物なんて贅沢ね」
メイリンが皮肉をいったが、ナナコはすっかりまったりモードに入ってしまっていた。
“メイリン、ナナコも今は気にしていませんがやはりもう少し広い場所が必要だと思います。別の広い部屋に移るか、もしくはもっと広い家を借りるようなことは難しいのですか?”
「この寮の部屋はみんな同じ広さだし、もっと広い部屋となると貴族向けの寮になるから、わたしは入れないの。
そもそもわたしは領主様のお金でこの学園に通っているから、あまり勝手なことをして無駄なお金を使うわけにはいかないし」
“それはそうですね。ですが一応、カイル先生とか事情を知っている学園のどなたかに相談してみるのはいかがですか”
「うーん、本来ならナナコサイズの従魔は厩舎に住まわせるのが一般的だから難しいかもしれないけど、明日にでも念のため聞いてみようか」
やはりこの状態で長く生活するのはちょっと大変だと思ったメイリンは、レーリーにそう返答した。
その答えに満足したレーリーは、話題を変えた。
“ところでメイリン、ステータス魔法を使ったときに表示される魔力というのはいつも変化しないのですが、どうしてでしょうか”
「ステータス魔法の魔力って、正確にはその人や従魔の最大魔力量なんだよね。『この人は最大でこれだけの魔力を持っています』という意味」
“ねえねえそれじゃあ、自分の魔力があとどれくらい残っているかはわからないんじゃないですか”
話に割り込んできたナナコに、メイリンは頷いた。
「慣れてくると感覚でわかるようになるけど、正確な残量というものはわからないわね。魔力探知に長けた人はそのあたりもわかるそうだけど」
“たとえばファイヤーアローを何発撃てるかとか、そういう形で計算できませんか?”
「うーん、実を言えば同じアロー系の魔法でも使う人によって消費する魔力が変わるそうなのよね。魔力探知や魔力操作が得意だと、消費する魔力も減ると聞いたことがあるし。
たとえばわたしがファイヤーアローを撃つのに10ワリーシュ必要だとすると、レーリーは5ワリーシュで済むみたいな」
“メイリン、そのワリーシュってなんですか?”
「ナナコはまだ知らないわよね。魔力量の単位よ。昔、ワリーシュという魔力の研究で有名な人がいて、魔力量の単位として使われるようになったんだって」
“へー、ボルトとかワットと似たようなもんですね”
「それは『ニホン』で使われていた単位?」
“うん。電気の単位で、やっぱり昔デンキの研究をした人から取られているはずだよ”
意外とそういう部分は世界が変わっても変わらないのね。
今回より、この作品内での魔力量の単位は「ワーリシュ」となります。よろしくお願いします。
というか普通はなにかを計量するなら単位を作りますよね。
書いていてなにか違和感を感じていたら、そんな単純なことでした。




