討伐実習編その22
「確かに召喚術を使わずにであった魔獣と従魔契約をすることも理論上は可能だ。
とは言え偶然自分と相性の良い魔獣と出会い、しかも召喚陣を通っていない魔獣がおとなしく従魔契約を交わすまでの間待ってくれるというのは非常に考えにくい話でもある。
特に相手が自分よりはるかに強い相手の場合はね」
「はい。ええと、チームメンバーやダブタンさんにはまだ伝えていないことがあります。
ナナコ……わたしが従魔にしたホワイトタイガーの名前ですが、この子もレーリーと同じく別世界からこちらへ飛ばされてきて、気付いたらこの格好になって森の中にいたそうです」
「やはりか……。しかしどうやってそれがわかったんだ?」
「それが魔獣同士だったためか、レーリーはナナコとすぐに会話できたようで、そこから彼女が元人間だったことが判明しました。
その後わたしと従魔契約をしたことで、わたしとも会話が可能になっています」
「だがメイリン君の魔力量では彼女との従魔契約は難しくはなかったかい」
「はい。ただ足りない分はレーリーが補填してくれました。おかげでレーリーが魔力不足に陥ってしまいましたが」
「そうか! 従魔は主人から魔力供給を受けられるが、現在はレーリー君が主人だからメイリン君に魔力供給できるというわけか! 面白い発見だ」
「マダラン局長、興味深いことはわかりますが、今は押さえてください」
ちょっと興奮した局長をカイル先生が抑えた。
「そうだったな。それでホワイトタイガーのナナコ君か、彼女の魔力量はどの程度かわかるかい」
「はい。5361ありました」
その数値にその場にいた三人が絶句した。
「高ランクだと5000越えは存在するとは言われていたが、本当に実在したのか」
「おそらく魔獣としてはランク5超は間違いないな」
「あのそのことなのですが……」
「なんだい?」
「ナナコのいた世界も魔法がなかった世界で、こちらに来てからもまだ魔法を使ったことがないそうです。
それにずいぶんと平和な国だったようで、戦い方も習ったことがないということなので、実際にランク5の従魔として働けるかは未知数かと思います」
そう先手を打つ。
なにしろ見た目と魔力量だけは最強ランクの従魔である。そういう従魔が必要となる現場に駆り出されないとも限らないので、現状は難しいとくぎを刺しておかなくてはならない。
「なるほど、どんなに強い武器を持っていても、使い方が分からなければ意味がないか」
「一応、今後のためにレーリーが特訓するとはいっています」
「そういえば君も最近、朝夕と体を鍛えているようですね」
げ、カイル先生には気づかれていたか。
「ええ、はい。レーリーが体力をつけて自分を守れるくらいになったほうがいいといって、そういうことになっています」
「実際のところそういう地道な訓練が最後にモノを言う場合もあるから、無理をしない範囲で続けたほうがいいね」
先生に止められれば、訓練を中止する理由になったけど、逆に進められてしまった。
「とりあえず今日は疲れているだろうから、ここまでにしておこう。後日また詳しく話を聞かせてもらいたい」
「あの、ナナコを従魔にした件については、特にお咎めとかありませんか」
「その件については、小規模とは言え魔獣暴走の原因を排除したことでおつりがくる。しかも表向きはランク5越えの魔獣を無力化して従魔にしたという功績もつく。咎めようがないな」
レーリーが言っていた通り、特に問題もなくナナコを従魔にしたことが認められてほっとした。
最後に一礼して、レーリー、ナナコと一緒に部屋を出る。
『とりあえず、問題にはならなかったようでよかったよ』
“わたしはあの人たちが何を話しているのかさっぱりわからなかったので、つまらなかったですよ。レーリー先輩が翻訳してくれましたけど”
“ナナコも早くこちらの言葉を覚えられるといいですね。わたしと同じ方法で理解度が早まるか、部屋に戻ったら試してみますか”
『そういえば、ナナコもわたしの部屋に来るんだよね。部屋に入れるかな?』
“え、けものだからのけ者にする気ですか? わたしだけのけ者はいやですよ”
『いや、物理的にナナコのサイズだと部屋がいっぱいになってしまいそうで。だから大きな従魔は別に用意されている厩舎で休ませることが一般的なんだけど。私の部屋だとほとんど動けなくなると思うけど、大丈夫?』
“うー、我慢するようにします”
まあしばらくはしょうがないか。
ただの討伐実習のはずがずいぶんと大ごとになったけど、とりあえずは大きな怪我もなく帰ってこられたので、しばらくはゆっくりしたいな。
討伐実習編はここまで。
数話ほど幕間をはさんでから次の話へ。




