討伐実習編その12 もしくは街田奈々子編前編
街田奈々子視点
わたしは城西高校1年3組の街田奈々子。
まだ入学して3日目。普通の女子高生。
多分普通と思う。普通なんじゃないかな。ま、ちょっと覚悟しておけ。
どの部活に入るかはまだ検討中。文化系は決まっている。
歴史文化研究会か、マルチメディア研究会か、そういえば隣のクラスの人が二次元同好会というのを作ると聞いた。
自分で作ることもできるんだ。ただメンバーを集めるのが大変だよね。
そう、わたしはライトオタクにしてライト歴女。
ライト兄弟ではない。
まあ、下手の横好きというとちょっとニュアンスが違うけど、好きではあるけどそこまで詳しくないという立ち位置。
だからがっつりやるところではなく、気軽に話し合えるようなところに入りたい。
そんなことを考えつつ授業を受けていたら、ふっと意識を失った。
そして目を覚ましたら、森の中でした。
わたしより先に起きた人はいません。
わたしより後まで寝ている人もいません。
つまりわたし一人ということです。
ボッチ宣言です。
だれがボッチじゃ。
え、何が起きたの? どうしてこんなところにいるの?
頭の中がグルグル回って混乱しています。
頭を掻こうとしましたが、なんかおかしい。
うまく頭の後ろのあたりが掻けません。
仕方がないので足で掻いてみたら……おお、ちょうど痒かった耳の後ろが掻けました。
そうそうこの辺り……って、なんで足で耳の裏が掻けるの?
足を見たら、いつの間にこんな毛深く……いや、きれいな毛並みです。
うん、そろそろ目をそらすのを止めよう。
なんだか白い虎猫になっているようです。
わかりました! これは夢です!
夢の中で夢だとわかる。つまり明晰夢というやつですね。
ということは、ある程度は自分の思う通りになるはずです!
では人間に戻れ!
……。
戻りませんでした。
やはり夢をコントロールするのは難しいようです。
授業を受けていたのは間違いありません。おそらく昨夜遅くまで小説を書いていたせいで、眠ってしまったのでしょう。
そういえば今日も帰ったら小説の更新をするはずだったのに。
早く目を覚まさないといけないのですが、なかなか目が覚めません。
ちょっと怖い考えが心の中をよぎりましたが、これは夢ですから関係ありません。
だからちょっと散歩してみようと思います。
夜になりました。
月も上ってきました。しかも二つです。
わたしの想像力も意外とチープです。
だけどまだ目が覚めません。
そして生き物にも会いません。
あと森の中と言いましたが、妙に木や草が小さいように思います。
もちろん、木自体はわたしより高いのですが、細いというか……とにかく大きさに違和感があるのです。
まあ夢なので仕方がないでしょう。
目が覚めませんが。
もう一度言います。
未だに目が覚めません。
いい加減飽きました。そろそろ目が覚めてもいいころだと思います。
それともわたしがあえて言及を避けていたことに言及しないといけないのでしょうか。
異世界ですか。
なろうですか。
チートですか。
わたしを転生させる前に言っておくこととかあるんじゃないですか。
かなり厳しい話をされてもだまってついて行く自信ありますよ。
そしてもしかして私は猫じゃなくて虎ですか。
酔わねばならぬときが来たんですか。
別に科挙に失敗していませんよ。
……。
ちょっと取り乱しました。
とりあえず、なぜわたしが虎になっているのかわかりません。
異世界と言いましたが、実際のところは別の星かもしれん。どちらだろうと月が二つある時点で地球ではないという事実は変わりません。
戻り方もわからなければ、何か目的があるのか、それとも何かに巻き込まれたのかもわかりません。
しかしわたしはライトオタク。異世界物もそれなりに嗜んでいます。
こういうときは絶望してはいけません。
きっと何とかなると信じないといけません。
とりあえずは人を探すこと、そして元の世界に戻ることを目標とします。
ただこんな体になったのですから、元の世界に帰れないという可能性もあるという事実を忘れないようにします。
帰ることだけを目標にすると、もしも帰れないとなった時にどうしたらよいかわからなくなります。
この世界で生きていく可能性もあるという事実もわきまえましょう。
……。
チクショーーーーー! バッキャーローーーーー!
昨夜は結局不貞腐れてそのまま寝てしまいました。
しかし今日からは心機一転、前向きに進もうと思います。
さて、異世界ということは、もしかすると自分のステータスとか見られるのかもしれませんので、試してみましょう。
ステータス!
……。
なにも起きません。
まあ、異世界だからステータスがあると考えるのが間違いです。小説とは違うのです。
魔法はどうでしょうか。
いでよ!ファイヤーボール!
……。
なにも起きません。
まあ、異世界だから魔法があると考えるのが間違いです。小説とは違うのです。
なんだかつまらないですね。
今日の検証はここまでです!
そのまま不貞寝してしまいました。
さて、目が覚めたら夜だったので、もう一度寝て朝になりました。
さすがネコ科です。いくら寝ても誰にも怒られません。
とはいえ、このままここでダラダラしていてもしょうがないので、とにかくどこかへ向かうことにします。
さてどちらへ向かおうかな。
適当に進んでいったら、崖にぶつかりました。とても降りられそうにありません。
そのまま不貞寝してしまいました。
あれから何日か、ずっとうろうろしていますが、なかなか森を出られません。
わたしは方向音痴ではないと思っていたのですが、森の中だと似たような景色が続くので、どうも同じ場所をグルグル回っているようにも感じてしまいます。
とはいえ、今のわたしは虎です。たぶん時間は気にしなくてもいいです。
いっそ、気持ちまで虎になったほうが気楽でしょうか。
虎だ、虎になるのだ!
ビースト化だ!
……。
今日も不貞寝します。




