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討伐実習編その11


ダブタン視点


 くそ、判断をミスった。

 やはり妙にホーンラットの数が多いと思った時点で、撤退を指示すべきだった。


 ただこちらから先に撤退を指示してしまうと、彼らの成績に影響する場合もある。

 そんなことを考えているうちに、撤退のタイミングを逃してしまった。


 俺一人ではさすがにこれだけの相手はできない。

 かといって、全員で逃げれば、村に被害が出る。


 とにかく、地形的にはこちらが有利な場所を占めることができているから、なんとかここで増援が来るまで粘るしかない。


 くそ、俺の査定にも響くなこれは。


 しかしあのメイリンという娘は大したものだ。

 平民というが、戦い方を理解している。


 現地に到着したときに、最初にきちんと下見をしたこともそうだし、獣道を見つけてそこを中心に待ち構えるよう進言したのもそうだ。


 さらにあの従魔。

 シロテンという特殊個体で、レーリーという名前を付けているらしいが、最初は彼女の首に巻き付いているだけで何もできないのかと思っていた。


 だがホーンラットがいよいよ押し寄せてきたとき。


 俺たちの迎撃態勢がまだできていないときに、瞬時にファイヤーアロー5連発ときた。


 あの実力なら、この実習中に手出ししなかったことも納得できる。あの従魔一匹ですべて終わってしまうからな。


 そして今、目の前で繰り広げられているビッグフォックスとの戦い。


 さすがに森の中でファイヤーアローの連発はしないが、巧みに動いて相手を翻弄しつつ、足止めをしている。


 さらにナイトゴーレムも近づいているので、その攻撃を避けて逃げようとするが、その先に回り込んで逃げるのも許さない。


 結局、逃げ場を探して立ち止まった時に、ほかの学生たちが魔法を叩きこんだ。


 これで3体目のビッグフォックスも無事倒せた。


 まだ学生たちの表情にも余裕があるが、だがもう一体、でかいのが残っているらしい。


 ビッグフォックスはランク2の魔獣だから、学生数人がかりなら倒せないこともない。


 しかしそのランク2の魔獣が逃げてきたということは、近づいてくるのはランク3かそれ以上の魔獣である可能性が高い。


 それまでに増援が来てくれればいいが……。




レーリー視点


 状況が良くありません。


 とりあえずビッグフォックスという魔獣はすべて倒せましたが、次の魔獣がすぐそこまで来ています。


 感覚的には、魔獣の対処はここにいる皆で力を合わせればなんとか対処できると思われます。


 しかしつい先ほど、森の奥からさらに強い魔獣が移動してきたことを探知しました。


 あれはおそらく以前戦ったハイオークと匹敵するか、下手をするとあれよりも強いかもしれません。


 下手をすれば全滅しかねません。


 不幸中の幸いというか、その強い個体は時々立ち止まりながらゆっくりと移動してきているので、ここに来るまでにはまだしばらく時間がかかりそうです。


 せめてそれまでに近くまで来ているほうの一体を倒してしまいましょう。



 出てきたのは巨大な猪でした。

 以前、森の中で一度見たことがあります。

 ただ、あの時見たものは十尺ほどありましたが、この個体は一回り小さく、七から八尺程度でしょうか。似た反応だと思っていましたが、大きさが違っていたので同じ種類だと判断できませんでした。


 たしか、ビッグボアという名前でしたか。突進力に優れているそうです。

 ランクは2後半から3ということで、一人で相手をすると時間がかかるでしょう。


 しかしメイリンの同級生と、ダブタンさんという手練れがいます。きちんと対処できれば、そこまで時間はかからないはずです。


“メイリン! ビッグボアが出てきました! 引き続きわたしが足止めをしますが、突進は止められません! 空堀近くまで誘導するので、ナイトゴーレムを使って掘に落として、そこで一斉攻撃してください”


「ビッグボアが来ます! レーリーが空堀まで誘導しますから、ナイトゴーレムで空堀に押し込んでください!」


 メイリンがみんなに指示を出してくれる。


「あの大きさだとメイリン一体での誘導は難しい。俺も出る!」


 さらに、ダブタンさんも空堀を越えてこちらに来てくれた。

 確かに大きさの違いもあるので、一人での誘導は結構厳しい可能性があったので助かります。


 まずわたしがファイヤーアローをビッグボアにぶつけます。

 こちらに向かってくるので木の上に逃げますが、距離が迫ったところでダブタンさんが弓矢でビッグボアを攻撃してくれました。


 ビッグボアの意識がダブタンさんへ向きます。


 そちらへ向かうビッグボアに対し、わたしは木から降りて再びファイヤーアローを今度は二発放ち、そのまま空堀の方へ走ります。


 予定通りビッグボアはダブタンさんを追うのをやめてわたしの方へ向かってきてくれました。

 わたしはそのまま空堀の中へ飛び込みます。


 さすがにビッグボアは空堀の手前で止まりましたが、そこへ後ろからナイトゴーレムが体当たりをします。


 さらにアルドアさんとシーベルさんが土魔法でビッグボアの足もとの土を崩したので、見事ビッグボアが空堀の下へ落ち、ひっくり返りました。


 そこへみなで集中攻撃をし、最後にダブタンさんが剣で首の下を切り、とどめを刺しました。


 これでとりあえずは前提条件を満たしました。

 あとは最後の一体をなんとかするだけです。

 ただ、あの一体はたぶんここにいる全員が全力を尽くしても勝てないでしょう。


 ですのでわたしは決断することにします。


“メイリン、短い間でしたがありがとうございました。最後の一体が近づいてきていますが、おそらくあれには勝てません。

 わたしが何とか森の奥へ誘導するようにしますから、皆と一緒に逃げてください“


 わたしはそういうと、森の奥へと向かった。


 しばらくかけていくと、向こうから先ほどのビッグボアよりさらに大きな魔獣が出てきた。


“白虎……”


 そこにいたのは大きさもさることながら、神々しいまでの美しさを持つ白い虎だった。


 とてもかなわないことがはっきりわかる。

 だからこそ絶対に向こうへは向かわせない。


 わたしは決意を固めた。


 だから、その声が聞こえた時、誰が言っているのかわからなかった。


“あ、やっと生き物を見つけました。ちょっと、凄いかわいーんだけど!”




メイリン視点


 ビッグボアが森の奥から出てきたのにはびっくりしたけど、無事に倒すことができた。

 しかしレーリーはもっと強い魔獣が出てくると言って、そのまま森の奥へ行ってしまった。


 なんでわたしを置いていくんだろう。


 自分が捨てられたように思えて、すごい喪失感を感じる。きっとレーリーとの従魔契約のせいだ。


 そう理解しているのだが、わたしはレーリーに捨てられるわけにはいかないという思いに駆られて、レーリーを追いかけ走り出した。


「メイリン、どこへいくの!」


 後ろでサシャ様が叫んでいる。


「レーリーを探しに行きます!」


 わたしはそう叫んで、レーリーの後を追った。


次回より数話、新キャラ視点となります。

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