討伐実習編その6
まず離れたところで待機しているレーリーに向かって、アルドア様のウイングオウルが高度をとり旋回しながら後方から近づいていく。
“すごいですね。音もしませんし、かなり優秀な従魔のようです”
ウイングオウルは高評価のようだ。
上空からウイングオウルの風魔法の攻撃を受けたレーリーが逃げるようにこちらへ向かってくる。
ときどき、脇へそれようとするが、それもウイングオウルが風魔法で邪魔をし、うまくこちらへ誘導している。
“敵の誘導も問題ないようです”
さて、近づいてきたレーリーに対して、ゲイツ君が盾を構えて待ち構え、その横ではナイトゴーレムも待機している。
ゲイツ君はさらに物理障壁も展開して、逃げられないようにしている。
レーリーは相手を前にして立ち止まって見せた。
たぶん、ホーンラットの動きを模倣しているのだろう。もしもレーリーが本気で相手をするならあそこで立ち止まることはないと断言する。
そこへ殿下が素早く槍を突き出した。
人間から見て体高の低いホーンラットを相手にする場合、剣よりも槍のほうが楽なんだそうだ。
レーリーは槍を素早くかわして横へ逃げようとする。
しかしそこへサシャ様がアイスジャベリンを打ち込み、レーリーの退路を断つ。
再び立ち止まったレーリーに向かって、再度殿下の槍が迫る。
殿下の槍はレーリーに届く前に止まった。というか止められた。
レーリーが物理障壁を出したのだ。
「レーリーが魔法を使ったので、ここまでです」
「おい、お前の従者が物理障壁を使えるなんて聞いてないぞ」
「はい。言っていませんから。レーリーはいくつか切り札を持っていますが、この物理障壁もそうです」
殿下はやはり、まだ先日のことを根に持っているのだろうか。
「殿下、まさかこの期に及んでレーリーを倒そうとしたとか言いませんわよね」
わたしが聞く前に、先にエリナ様が確認した。
爵位では平民のわたしとゲイツ君を除いて一番低いはずなのに、なんであんなに迫力があるんだろう。
「いや、あの程度の槍なら避けられるだろうと思っていたし、そもそも直前で止めるつもりだったんだよ。だが物理障壁で止められたので、何事かと……」
ちょっとしどろもどろになりながら言い訳をしている。
“おそらく殿下のいう、わたしが避けるだろうと思っていたというのは嘘ではないと思います。槍に殺気がこもっていませんでしたから”
『じゃあなんで物理障壁を出したの?』
“一度、実戦に近い場面で出せるか確認したかったんです。わたしから少し離れた場所に出したので、殿下の槍を止めてしまいましたが、おそらく出さなくても殿下は槍を止めていたでしょう”
そうなんだ。まあ実際に槍を受けたレーリーがそういうのであれば問題ないのだろう。
ただそのことをわたしから言うわけにはいかない。なぜならレーリーがわたしたちの会話を理解していることは、まだ伝えていないから。
という訳で申し訳ないけど、シーベル殿下、頑張って誤解を解いてほしい。
「エリナ嬢、殿下の言葉は間違いない。あの時の槍はあくまで訓練で振った動きだった。たまたま止める前に物理障壁にあたっただけだ」
おお、アルドア様が殿下の擁護をした。
同じように武術を習っている方の目から見ても、そう見えたということだろう。
エリナ様も納得されたようだ。
“基本的な連携はさすがに問題ないようですね。では次はもう少し強い敵を相手にした場合を想定してみましょうか”
え?
“メイリン、課外授業ではレベル1の魔獣が相手とはいえ、レベル2以上の魔獣がでることもあるといいます。
さすがにレベル3以上を相手にしろとは言いませんが、レベル2が出た時は可能なら倒してもよいと言われているはずです。
たぶん、皆さんもそう言えばやる気になりますよ“
うーん、確かにそうだけど……。
「あの、課外授業ではレベル2以降の魔物が出る可能性もあるようですから、一応その対応訓練もしておくのはいかがでしょうか」
わたしの言葉に、アルドア様が頷いた。
「確かに、レベル1の魔物相手ではそこまで連携の練習にはならないな。レベル2の魔物が出没した場合を想定した訓練こそ必要だろう」
“実際には弱い敵できちんと基本を押さえるべきですが、弱すぎるとやる気が削がれてしまうということもありますからね”
なるほど、うまくやる気を出させて動かすということか。
こうしてみると、やっぱりレーリーはただものではなかったんだろうと思う。




