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討伐実習編その4

 わたしは予想通りというか、幸いなことというかサシャ様に声をかけてもらえた。

 サシャ様はアルドア様とアルドア様の学友で私と同じ立場のゲイツ君からすでに声をかけられていたので、これで4人組が確定である。


 とおもったら、エリナ様が謹慎の開けたシーベル殿下を連れてチーム加入の打診をしてきた。


「先日の騒動で、皆様シーベル殿下を避けられるのよ。それならいっそ、騒動の相手と一緒にいたほうがよいでしょう?」


 いや、良いでしょうと言われても。


「このチームはアルドアがリーダーです。シーベル殿下がアルドアの指揮下で動くことを了承いただけるなら、加入いただいても構いません」


 サシャ様が先手を打った。


 学園内でも、大抵は実家の爵位がチーム内の上下関係を左右する。

 だから単純に殿下がチームに加わることを認めるなら、暗黙の了解として皇家のシーベル殿下がリーダーということになったに違いない。


 しかし殿下が謹慎中に大抵のチームは出来上がってしまった。

 すでにリーダーも決まっているのに、殿下を迎え入れてリーダーの座を譲りたくないと思うのは仕方がないだろう。


 そこでエリナ様の伝手でうちのチームへの加入の打診にきたというわけである。


 とはいえ、わたしたちのチームもアルドア様がリーダーとすでに決まっているし、今更それを変えたくないという思いも同じである。


 というか、先日のゴタゴタもあったので、殿下に対するわたしたちの評価は低い。

 皇族の男子であれば、幼いころからの教育で人に指示を出すことにもなれているのでしょうけど、シーベル殿下の指揮は信用できないと思えてしまうのだ。


 だからこそのサシャ様の出した条件だったのですが、意外にもあっさりと受け入れました。

 エリサ様が。


「ええ、その条件で構いませんわ。私の婿になりましたら男爵家当主になるわけですし、そろそろ他人から指示されることにも慣れていただかないといけませんので」


 シーベル殿下はそれに対して全く反論せず、黙っている。どうやらすでに尻に敷かれているようだ。

 というか、エリナ様も殿下に対して男爵令嬢にすぎない立場なのにすごい強気だ。


 結局、わたしたちのチームはアルドア様をリーダーとした6人のチームということになった。




 さて、課外授業といっても成績に影響する以上、監督する人がつく。


 本来なら先生がつくべきなのだろうけど、さすがにすべてのチームに先生が同伴できるわけもない。

 そこで傭兵ギルドから助っ人がくる。


 正確には、傭兵ギルドから学園にランク1の依頼が回される際に、同時に1つの依頼ごとに1人の傭兵を依頼の説明員兼監視員という名目で傭兵ギルドから派遣するよう、学園から傭兵ギルドへ依頼されているのだ。


 派遣されてくる傭兵は、大体ランク3程度の実力を持つ人で、いわば傭兵としては中堅の実力を持つ人たちだ。


 彼らはわたしたちに依頼内容の説明を行い、また現地まで同行する。

 そしてわたしたちが依頼を完遂できたかを確認して、その結果を学園と傭兵ギルドへ報告することになる。


 学園から任務完了の証明書を受け取った傭兵は、その証明書と討伐証明部位を傭兵ギルドへ持参して提出する。


 これだけだと、傭兵がこの依頼を受けるメリットがないように思えるが、実は通常の依頼が後払いなのに対して、この依頼に限り、前払いで報酬が支払われるのである。

 このため確実かつ安全な仕事ということで、傭兵の間でも人気があるらしい。


 なお傭兵に対する報酬は学園側から一括で支払われるが、その際に討伐報酬分が先に差し引かれ、討伐報酬についても支払い済みという扱いになる。


 滅多にないことだというが、もしも学生が討伐に失敗して傭兵が魔獣を討伐した場合、学園に報告した時点で、学園側から討伐報酬が傭兵に支払われることになる。


 ちなみにお金は先に受け取れるが、仕事の実績自体は完了報告をしないとつかないので、最後の傭兵ギルドへの報告も欠かせないらしい。




 で、わたしたちのチームに派遣されてきた傭兵はダブタンという30歳位の男性だ。

 ちょっと渋い感じの人で、いかにもやり手という感じがする。

 聞いたところ、彼も男爵家の四男で、軍の水が馴染めずに傭兵になった口らしい。


 意外とこういう人は多いらしく、貴族相手の礼儀もわきまえているので、こういった仕事も優先的に回してもらえるそうだ。


「今回の討伐対象はホーンラットだ。少なくとも5匹以上を討伐。場所はランバー村周辺。同じ場所では他に二組が同じ依頼を受けている。わたしたちの組は村の北側を担当することになる

 日程は三日間だが、移動時間も考えると、実際に動けるのは1日目の午後から三日目の午前中までだろう。

 このグループは六人いるし、普通に対応していれば倒すことは問題ないだろうが、油断していると怪我を負ったり、期限内に必要な討伐数を稼げなかったりする」


 ダブタン氏の説明を聞く。

 実際、この課外授業で失敗するパターンで一番多いのは、指定の討伐数を期限内に稼げない場合だと聞いたことがある。

 なにしろ相手も生き物だ。こちらが警戒しているとわかると逃げてしまうこともある。


 ちなみに次に多いのは、油断しすぎてチームメンバーが大怪我をし、任務続行が困難になるパターン。

 普通の傭兵なら残ったメンバーで任務継続するだろうが、わたしたちは学生なので、メンバーの誰かが任務継続が困難になった場合は学園に戻ることが決まっている。

 同行した傭兵が任務を引き継ぎ、完遂することになる。


 稀にあるのが、予想外に強い魔獣が出てきて、任務達成が困難になる場合。

 稀といっても2,3年に1度程度の頻度ではあるらしい。

 その場合は正確には失敗ではなく、依頼内容が事実と相違するため、確認できた内容を急いで近くの傭兵ギルドの支所へ報告して任務完了という扱いになり、直接成績には影響しない。

 ただそれだと、魔獣討伐を実際に経験するという本来の目的が達成できないので、改めて別の依頼を受け直すことになる。


 まあ、予想外の強い魔獣が出る場合というのも、大抵の場合は傭兵ギルド側で経験則的にわかるらしい。

 たとえばそれまで討伐依頼が来たことのない地域から来たとか、普段とは違う魔獣の討伐依頼が来た場合などである。


 しかし農村などで毎年同じ時期に同じ魔獣の討伐依頼を出している場合など、農村側では「例年よりも魔獣の被害が多き気がするなあ」程度の感覚で、例年通りの魔獣依頼をしてしまうこともあり、運悪くそういう依頼にあたってしまうと、森の奥から出てきたランク2程度の予定より強い魔獣と出くわすことがあるそうだ。


 それでもランク2なら、学生でもうまく連携できれば討伐可能らしい。


 問題はランク3以上の魔獣が出てきた場合で、そうなると学生では討伐がほぼ不可能なので、調査のみして撤退するパターンがこれである。


 ちなみにレーリーが倒したというハイオークは、通常はランク3だが特殊個体だった場合ランク4相当の可能性があり、それを倒したレーリーもおそらくランク4相当の強さだろうという学園長や魔術局長の認識である。


 そう考えると、ランク3でもうちのグループなら倒せないことも……いや、レーリー依存で倒せても仕方がないか。


 まあ最初にも言ったように、学園に回されるレベル1の依頼では、滅多なことでそんな強い魔獣に遭遇することはないのである。


「依頼の件で何か質問がなければ、これで終わりにします。出発までに、チーム内での連携の練習をしておくようにしてください」


 ダブタン氏との顔合わせが終わった。

 出発は明後日の早朝になる。


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