討伐実習編その2
レーリー視点
メイリンの元に来てから半月ほどが経過しました。
メイリンは確実に体力がついてきて、最初の数日は寮の周りを1周しただけでばてていたのが、今は2周してもまだ余力があるようです。
昨日から始めた剣の素振りについては、まだ慣れないので剣に振り回されている状態で、まともな素振りは5回もできていません。
“今日はここまでにしましょう”
その一言に、メイリンはその場に膝から崩れ落ちます。
「もう、わたしは召喚術師だし、剣を振るうことなんてまずないんだけど」
“もしも護衛任務を受けることや戦場に行くことはないというなら、別に構いませんよ”
「いや、わたしみたいな平民の召喚術師の仕事はそういった仕事がメインだから」
“それなら、剣をある程度使えるようになっておいても無駄ではないでしょう。別に達人になる必要はありません。身を守るのにも剣は使えます。そのためにも、まずはまともに剣を振るう腕力がなければどうしようもありません”
なんだかんだ文句を言いながらも、最初以降は特に命令せずとも動いてくれています。
たぶん、必要であることを理解してくれていると思いたいですね。
この国の言葉は結局2、3日で日常会話はほぼ理解できるようになり、今では授業での込み入った表現もだいたいわかるようになりました。
これも毎晩、メイリンに頼んで翌日の授業範囲について本を読み上げてもらったおかげです。
やはりメイリンが口に出した言葉を耳にすると、理解度が格段に速くなるようです。
おかげでメイリンの持っている本もかなり読めるようになり、これまでは観察と勘に頼っていた魔法操作も、より効率的に使えるようになりました。
さらに自分でステータス魔法を使って自分の能力を読めるようになりました。
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種族:シロテン
名前:レーリー(礼里)
魔力:1532
スキル:火魔法、魔力感知、魔力操作
状態:メイリン(従者)
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これがわたしのステータスでした。火魔法と魔力感知、魔力操作は最初から持っていた可能性があります。
それならハイオーク戦のときに、火だけ扱えた理由がわかります。
ちなみにわたしが主人になるためか、わたしからメイリンのステータスを確認することも可能です。
で、メイリンのスキルが「全魔法適性」とありました。
“メイリンの全魔法適性というのはどういうものなのでしょう”
「見たわね」
“はい、見てしまいました。まずかったでしょうか”
おそらく私をにらみつけているのでしょうが、迫力が足りません。
しばらくにらめっこしていましたが、メイリンが折れました。
「はあ、すべての魔法に対する適性が同じようにあるということよ」
“それは結構すごいことなのではないでしょうか?”
「一応、レアスキルには分類されるわね。大体5000人に一人だったかな」
“その割にはあまりうれしそうではありませんが」
「スキルとしてはちょっと珍しいという程度で、いないわけではないし。しかもデメリットがあるのよ」
“デメリット……欠点ですか”
「ええ。たとえばレーリーは火魔法の適正があるわよね」
“はい”
「適性が少ないと、それだけその適性を伸ばしやすいの。逆に適性が多いと、それぞれの適性の成長が遅くなるうえに、成長限界が来るのも早くなるのよ。
もちろん適性がない場合よりはいいんだけど、軍なんかでは、一つの適性だけを持つ人をたくさん集めたほうが、威力も効率もいいということになって、わたしみたいなのは使いにくいんだって」
“ですが、全ての魔法が使えることの利点もあるのでは?”
「そうね。単独や少数で行動するような任務だったりすると、いろんな魔法が使えるほうが便利でしょうね。傭兵ギルドでは、少人数で仕事を請け負うことが多いから、全魔法適性持ちは引っ張りだこだと聞いたことがあるわ。
あとは学園に入学する前の子供の家庭教師としても、全適性持ちならどんな子供でも教えられるから重宝されると聞いたことがあるわね」
“メイリンはそれが不満だと”
「ええ、例えばレーリーは今でもランク3相当のファイヤーアローを使えるけど、今後ランク4や5の火魔法も使えるようになるでしょう。わたしはどう頑張っても、ランク3がせいぜいなのよ。つまりまず勝ち目がないということ。
使い勝手が悪いということなのよね」
“召喚魔法を選んだのは?”
「召喚魔法は適性よりも魔獣との相性だから、他人より強い従魔を持てる可能性があったの。
魔力の多さも活用できるしね」
“で、わたしを召喚してしまったと……。なんだかごめんなさい”
「別に今更謝ってもらわなくてもいいわよ。レーリーが強い魔獣だったのは間違いないし」
“ところでメイリンは各魔法についてはもうそれなりに使えるようになっているのでしょうか”
「ええ、ランク2までなら全部使えるわ。ランク3の魔法が使えるようになるまでは、まだしばらく掛かりそうだけど」
“全魔法適性ということは、魔法障壁や物理障壁も使えますか?”
「そのあたりは無属性で別に属性関係なく使えるから、わたしでも問題ないよ。」
そんなやり取りがあったりしました。
さて、召喚術の実技授業では、召喚獣を使った模擬戦を中心に行なわれていますが、わたしはシーベル殿下との模擬戦以降、戦っていません。
どうも召喚者を狙ったことが他の生徒の不評を買ったようで、指名を避けられているようです。
ただカイル先生はわたしの戦い方に問題はなかったことを宣言していますし、どちらかというとわたしとほかの従魔の実力差を感じて、あえて今のところは現状を容認しているようです。
ということで、模擬戦見学の間にメイリンの指揮訓練を行いました。
これは、戦っている一方の従魔をメイリンが指示していると仮定して、次にどういう指示を出すかを採点するというものです。
今後メイリンがわたしの召喚主として不自然にならないよう、できるだけわたしの戦い方を知ってもらい、あまり乖離した指示がでないようにするという意味もあります。
最初のころは相手の動きに対して指示自体がだせないことも多かったのですが、最近はそれなりに指示だけはだせるようになってきました。
『左に移動してファイヤーアローを撃って』
『そこで前に詰めてファイヤーアロー』
『攻撃を左に避けて、ファイヤーアロー』
“攻撃手段が限られているわたしが悪いですが、いくら何でもファイヤーアローを使いすぎです。それでは相手に攻撃の間を読まれてしまいますよ”
『だけど攻撃しないとただ相手の攻撃を避けるだけになるし』
“あと、わたしをどんどん左に誘導しましたが、そうすると相手とメイリンの間ががら空きになります。もしも相手がメイリンに従魔を突っ込ませてくると、わたしが間に合わなくなります”
『だけど模擬戦だし、狙ってくることはないとおもうけど』
確かにあの後も模擬戦のときに直接相手を従魔に狙わせる生徒はいないようです。ですがそれでよいという訳ではありません。
“模擬戦は実戦を経験する前の練習です。実戦を意識しなければ意味がありません。他の生徒はともかく、メイリンにはしっかりと戦い方の基本を修得してもらいたいのです。
今後、わたし以外に本物の従魔を従えた時に、基本ができていないと困りますから”
『それはそうだけど』
“あまり納得していないみたいですが、実戦でそれをやるとあなた自身が狙われる可能性がありますよ”
どうも納得しかねる顔をしていますが、ひとまずわたしの言うとおりにしてくれるようです。




