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召還編その20

“メイリン、朝ですよ”


 レーリーに起こされたが、まだ外は薄暗かった。


「まだ早いよ」


“体力づくりをするのに、走り込みをします。ある程度必要な体力がつくまでは、とりあえずこの寮の周りを回りましょう”


「そこまでしなくてもいいでしょう」


“ある程度体力をつけておくと、仕事をする上でも有利ですよ”


「そこまでがっつかなくてもいいし」


“これだけはしたくありませんでしたが、仕方がありません。「レーリーが命じます。メイリン、走り込みをしなさい」”


 げ、従魔契約での命令の仕方なんていつ知ったんだろう!

 これに抵抗できるほどわたしは強くない。

 せめてもの抵抗として、のろのろと起き上がり、ゆっくりと着替えをした。




 わたしの家は普通の農家だったので、幼いころは畑仕事を手伝わされていた。

 だからそこまで力がないわけではないと思っていたが、ここ数年は勉強する時間が増えていたせいか、走り込みは自分が思っていた以上にきつかった。


 教室の机で突っ伏していると、サシャ様が近づいてきた。


「メイリン、疲れているみたいだけどどうしたの」


「ありがとうございます。少し思うところがあって体力づくりを始めました」


 表向きはレーリーはわたしの従魔だ。

 そのレーリーに強要されたとはいえないからそう答えのだが、そのことで勘違いをされてしまった。


「もしかしてシーベル殿下の件? 安心なさい。殿下は昨日のうちに城に呼ばれたようよ」


「え?」


 わたしが思わず聞き返すと、アルドア様も近づいてきた。


「昨日、おまえの従魔を寄こすように強要しただろう。あの日のうちに学園長経由で理事長である陛下に報告がいったらしく、放課後には城から殿下を迎えに来た騎士たちが貴族寮のほうへ来ていた」


「それって、ただ実家に帰ったという訳ではないのですか」


「通常は長期休暇や身内の不幸でもなければ、こんな時期に城に戻ることはない。それが城から召還されたということは、おそらく昨日の件が問題視されたのだと思う」


 思っていた以上に大ごとになっていたことで、わたしもちょっと申し訳なく思ってしまった。




 その日の昼休みに、食堂でサシャ様と昼食をとっていると、今度は何とエリナ・ジャナハン男爵令嬢が近づいてきた。


「ごきげんよう、メイリンさん」


「あなた、昨日あんな騒ぎを起こして、シーベル殿下が城に召還されたというのに、性懲りもなくまだメイリンの従魔を欲しがろうというの!」


 わたしが答える前に、サシャ様がそういって怒り出したが、エリナ様は全く気にした様子がない。


「シーベル殿下のおかげでそちらの従魔の強さがある程度理解できましたわ」


「メイリンの従魔がどうしたというの!」


「わたしの家は男爵家にすぎず、領地も広くはありませんが、交通の要衝を占めているおかげでかなり裕福なのです」


「そうよね。あなたは商人から成り上がって貴族になったのだから」


「はい、その通りです。そのことでわたしの家を貶める方々がいるのは知っておりますが、わたしは恥ずかしいこととは思いません。自分の家の仕事にプライドを持っていますから」


 堂々と言い放つエリナ様に、サシャ様も絶句してしまった。


「で、メイリンさんの持つ従魔のように珍しい魔獣は当然高く取引されます。ですのでそのことを殿下とお話ししていたところ、俺が手に入れてきてやると言って、あなたのところへ向かったのです。ですから、わたしが殿下にお願いしたという訳ではないんですよ。

 もしも本当に手に入れることに成功されていれば、ありがたく頂戴する気はありましたが。

 しかし昨日の模擬戦を見る限り、どうもあなたの従魔は単に珍しいだけではないようですね」


「あなたが殿下を唆したと、問題になると思わなかったの」


「まあ、問題になるかもしれないとは思いました。ただわたしはあくまでもメイリンさんの従魔の毛皮はきっと高い値がつくだろうと言っただけです。そうしたら殿下が俺に任せろと言ったのです。今後、もしかすると殿下とのお付き合いができなくなるかもしれませんが、わたし個人に対してはせいぜい注意される程度でしょう」


 エリナ様は思っていた以上にたくましい方のようだ。


「で、メイリンさんと殿下の模擬戦を見ていましたが、メイリンさん、まったくご自分の従魔に指示をだしていませんでしたよね」


「あー、あれはですね……」


「別に言い訳は結構です。少なくともメイリンさんが指示を出さずとも、あれだけの戦闘を自身の判断で行える従魔となれば、それは毛皮以上の価値がありますから。

 もしもメイリンさんの意志で譲っていただけることが可能なら、こちらとしてもできる限りのことをしたいと思っています」


 あ、そこにつながるんだ。


「いえ、それはできません」


「そうでしょうね」


 欲しがっていたとは思えないほどあっさり返された。わたしが断ることをわかっていたのだろう。


「それで、代案としてわたしはあなたとお近づきになろうと思います。そうすればうまくいけば今後、何かあった時にいろいろとお願いもしやすくなるでしょうから」


 え?


「もちろん、何か頼むときは報酬は払いますよ。ただこういうのは、事前に交友があったかどうかで、受けてもらえるかどうかがかわりますからね」


 なんという打算。いっそすがすがしい。


「わたしがあなたから依頼を受けるかどうかはわかりませんが、学校の同学年という誼での付き合いは否定致しません」


「今はそれで構いませんわ」


 そういって、彼女はそのまま立ち去ってしまった。


「あれはなんだったんでしょう」


「おそらく、わたしの従魔になにか商機を見いだしたのでしょう」


 サシャ様の言葉にわたしはそう答えた。


“ちょっと計算高い方のようですが、案外ああいう方はなんだかんだ縁がきれなかったりするのですよね”


 え、そういうものなの?


“お金はお持ちのようなので、あちらが利用しようとしてくるなら、こちらも利用するくらいの気持ちでいればいいと思いますよ”


 なんかレーリーが達観している……。




 その日の夕方も、寮の周りを走らされた。


“とりあえずしばらくは朝夕と走り込みましょう。体が慣れたなら、今度は剣で素振りですね”


 お手柔らかに。


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