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召還編その19

 あの後、シーベル殿下はけがをしたということで医務室へ運ばれていった。


 授業自体はそのまま継続し、他の生徒同士の従魔の模擬戦が始まると、レーリーはその様子も熱心に観察している。


『面白い?』


“面白いというか、魔法を使った戦い方は参考になります。わたしがいた場所では魔法自体が存在しなかったので、どんな使い方ができるのかまだよくわかっていませんから”


『だけど、さっきはずいぶん使いこなしていたように見えたけど』


“あれは、ダンジョンにいた時に自分なりにいろいろ工夫した結果です。あ、いま向こうの鳥のような従魔の攻撃を狼の従魔が防御しましたが、壁に当たったようになりました。あれも魔法ですか?”


『ええ、今のは物理防御ね』


“つまり魔法を使うと、魔法だけでなく直接的な攻撃からも守る方法があるんですね。できればもう少し近くで観察したいですね”


『だめだよ。前に出ちゃあ』


“わかっています。なんとか魔力探知を広げて探ってみます”


『本当はそれもあまりやってほしくないんだけど……』


 これはあくまでも模擬戦なので、部外者が魔法を使うのはルール違反である。


 しかしレーリーの魔法はよほど注意深くないと察知できないほど魔力操作が自然なので、周りの人も誰も気づいていない。


“なるほど、物理防御をするにはこのように魔力を操作すればいいのですね”


 何度かブラックウルフの物理防御魔法を観察したレーリーがそのようにつぶやいた。


 本当に再現できそうなのがちょっと怖いんだけど。




 一日の授業が終わり、寮に帰る前にカイル先生に呼ばれた。


「今日のシーベル殿下との試合、メイリンはどこまで指示をだしましたか?」


「実を言うと、まったく指示を出していません。ただレーリーに聞かれたことに答えただけです」


 わたしがそう答えると、カイル先生がため息をついた。


「試合中も声を出していませんでしたから、恐らくそうだろうとは思いました。ただ今後は試合の時はできるだけ指示を出してください」


「いえ、わたしが指示を出すよりも、レーリーに自由にやらせるほうがおそらく強いんですが……」


「それでもです。レーリーは特別とは言え、対外的には従魔ということになっています。メイリン君の指示なしにあまり勝手に動くようでは、その前提がくずれてしまうでしょう」


 あー、そういえばそうだ。


“わたしが勝手に動いたので、メイリンに迷惑をかけたでしょうか”


 迷惑をかけられたというのとも違うかなあ。


「迷惑という訳ではないけど、やっぱりレーリーは従魔ということになっているから、模擬戦のときはわたしが指示を出さないとまずいみたい」


“そういうことですか。別に構いませんよ。指示に問題があると感じたなら、こちらから訂正しますから”


「どうしたんだい。レーリーは何と言っている?」


 わたしがレーリーと会話していると気付いて、カイル先生が聞いてきた。


「わたしが指示を出してもいいと。ただ問題のある指示をだしたら訂正するともいっていますが」


「それぐらいは仕方がないだろうね。あれだけ戦えるなら、本当はメイリン君の指示なんていらないだろうし。

 そういえば模擬戦の途中で、無駄にファイヤーアローを撃っていたときがあったけど、あれはなんだったんだい」


「あ、それは相手の魔法防御の仕方を調べていたみたいです」


「魔法防御の仕方?」


「はい。どうも牽制で撃ったファイヤーアローが相手にあたる前に霧散したのを見て興味を持ったみたいです」


「なるほど、それで時間をおいて何度かファイヤーアローを撃ったわけか」


 カイル先生が感心している。その後に行われた他の模擬戦でもいろいろ調べていたことは黙っていよう。


「そういえばシーベル殿下はどうなりましたか?」


「転んで怪我と打ち身があったけど、数日で治る程度だよ。彼自身についても、今日の態度は学園長に報告済みだから、すぐに国王の耳に入るだろうね。下手をしたら停学扱いで一般兵舎に叩き込まれるから、君は心配しなくても大丈夫だよ」

 それを聞いて胸をなでおろした。




 寮への帰り道、レーリーが話しかけてきた。


“メイリンのクラスの方々は魔法を中心に習っているようですが、体力づくりは行っていないのでしょうか”


「多少は行うけど、もしも戦場に出るとしても魔法使いは後方からの遠距離攻撃が中心だからね。それほど力はいれていないかな」


“それはよくありませんね。もしも敗戦になれば後方も何もなくなります。体力がなければ戦場に置き去りにされますよ”


「え?」


“それに護衛任務もあるようですが、それなら後方支援といっても、相手の数が多ければメイリン自身が自分の身を守れなければ、従魔に護衛対象を守らせることもできないでしょう”


「確かにそうだけど、そういうのは今後やっていくんじゃないかな?」


“ある程度は自分でも行うべきです。いきなりやっても大変ですし、継続は力ですよ”


「だけど、わたしは召喚士だし……」


“たとえば戦場で味方が負けた場合、誰もあなたのことは守ってくれません。疲れたからと休んでいたら、敵に捕まることになります。

 走り続けることができるなら、助かる確率は高くなります。

 だから、今から体力づくりをしていきましょう“


 まさかレーリーがこんなスパルタだなんて思ってもみなかった。


「冗談だよね」


“冗談ではありません。行き違いとはいえ、わたしはあなたの主人になってしまいました。であるなら、従者が独り立ちできるよう鍛えるのも、主人の役割だと思うのです”


「いや、従者は主人の世話をするから」


“ですがもしも従者であるメイリンが亡くなるようなことがあったら、わたしはどうなってしまいますか。ただの野良魔獣になってしまいます。

 形式上はメイリンが主人であり、わたしはメイリンの命を守る動機も義務もあるわけです。ただあなたがただ守られているだけの存在ではなく、自分でもしっかり動けるようになるなら、ずっと守りやすくなるのです”


「確かにそのとおりだけど」


“例えば、もしもわたしよりも強い敵に襲われることがあったならどうしますか”


「その時は逃げられるなら逃げるけど」


“そうです。ですが、いざというときに体力がなければ逃げることもできないのです。わたしの体がもう少し大きければ、メイリンを背負って逃げるということも可能かもしれませんが、この体ではそれは無理です。ですから、わたしが足止めをしている間にメイリンが素早く逃げて、十分に距離が離れたところでわたしも逃げる、という方法が、いちばん命が助かる可能性が高い方法ということになります”


 結局、レーリー指導の元で明日から少しずつ体力づくりを始めるということになった。

 やっぱり実戦経験のある相手から必要だと説得されると反論できない。

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