召還編その18
メイリン視点
レーリーが不穏なことを言ってたので、非常に不安です。
どちらかというとおとなしいタイプだと思っていたのに、実は好戦的だったのだろうか。
接近してくる相手に対して、レーリーは斜め前方へ移動していた。
そのまま相手の件の間合いに入ったところで相手が剣を振り下ろしてきたが、レーリーは軽々と避けて見せた。
そのままいったんわたしから遠ざかる方向に逃げたが、すぐに止まって相手を観察している。
シーベル殿下のナイトゴーレムもそれを追いかけていく。
今度はレーリーからも接近していくが、やはり剣を振るわれると素早く避けて、ふたたび距離をとる。
周囲からは攻めあぐねるレーリーをナイトゴーレムが追いつめているように見えるのだろう、盛んにヤジが飛んでいるが、あれは違う。ナイトゴーレムをシーベル殿下の近くまで誘導しているのだ。
と、ここでついに大きく距離をとったレーリーが少し間を開けてファイヤーアローを撃った。
彼女のファイヤーアローは初めて見たが、なかなか威力があるように見えた。
ただしナイトゴーレムは魔法防御を張っていたようで、体にあたる前に霧散し、ダメージにはならない。
レーリーはそれをみて首をかしげると、わたしに話しかけてきた。
“今起きた現象は何だったかわかりますか”
『ナイトゴーレムの魔法防御だよ』
“それは魔力によって壁を作ったということでしょうか”
『簡単に言うとそういうことかな』
“わかりました。もう少し試してみます”
試すって何?!
どきどきしながら見ていると、どうもレーリーは距離をとってはファイヤーアローを撃つ、という行為を繰り返しているようだ。
おそらくナイトゴーレムの魔法防御について調べているのだろう。
しかしなんでいちいち距離をとっているんだろう。ハイオークを倒したときの話では、動きながらでも連射できるといっていたはずなんだけど。
結局四、五回ほど同じような攻撃をして満足したのか、ふたたびナイトゴーレムの誘導を始めた。
あれ、完全に余裕だよね。
そしてちょうどシーベル殿下の目の前まで来た時に、すっと彼の後ろに回った。
「わ、やめろ、ストップ!」
レーリーを追って剣を振り回していたナイトゴーレムに襲われる形になり、シーベル殿下が慌てているのを見て、思わず吹き出してしまった。
しかしその後の展開は予想しなかった。
レーリーはシーベル殿下が攻撃を止めさせたナイトゴーレムの後ろに素早く回りこむと同時に、ファイヤーアローを5つ同時に出して、頭や体、両足に向けて打ち込むと、その勢いでナイトゴーレムをシーベル殿下の方へ向けて押し倒してしまったのだ。
シーベル殿下は大声で喚くし、周りにいた他の生徒も慌ててナイトゴーレムをどかそうとするけど、重くて動かせないし。
カイル先生もシーベル殿下を助けるためにそちらへ向かったので、勝負はレーリーの勝ちでいいのよね。
そんな中を、レーリーがちょこちょこ駆け足でこちらへと戻ってきた。
「冷や冷やさせないでよ」
レーリーを抱えて、そう小声で文句を言う。
“だいたい作戦通りです。ナイトゴーレムの魔法防御を確認できたのは幸運でしたが”
さらに文句を言おうと思ったが、先にサシャ様が近づいてきた。
「あなたの従魔、面白いわね! 最初はただ逃げ回っているだけかと思ったけど、最後のファイヤーアロー連射はすごかったわ」
「ありがとうございます」
わたしは何もしていないけど、レーリーが褒められたのはうれしい。
アルドア様も近づいてきた。
「……お前の従魔は強いんだな。気づいていない奴も多かったが、ほとんど余裕だったんじゃないか」
「あはははは……」
確かに、かなり余裕がある感じだった。
“一応、警戒しつつ戦ってはいましたよ。ただ魔法防御のときだけはいろいろ検証のために時間稼ぎをしましたけど”
『そんなことをしていたんだ』
“おかげで、魔法防御も再現できそうです”
「え゛?」
「どうしたの?変な声を出して」
「いえ、なんでもありません」
レーリーの言葉に思わず声が出てしまった。
あれは敵の硬さを確かめているのだと思ったのに、まさか魔法防御自体を調べるためにやっていたとは……。
そんなことを話しているうちに、どうやらシーベル殿下も無事ナイトゴーレムの下から助け出されたようである。
「今のは無効だ! もう一度勝負しろ!」
シーベル殿下が叫んでいる。
「シーベル殿下、今のはあなたの負けです。確かに模擬戦で召喚主を狙うのはマナー違反だと考える生徒が多いですが、そもそも実戦においては強い従魔を抑えるために召喚主を狙うのはセオリーです。
召喚主は自分が狙われないよう、もしくは狙われても対応できるように訓練することが、本来の模擬戦の目的ですよ」
カイル先生がそう断言した。
じゃあ、レーリーが最初に私に確認したけど、レーリーの言う通りだったんだ……。




