召還編その17
レーリー視点
ダンジョンマスターからも人間に毛皮を狙われるかもしれないと言われていましたが、こんなに早くその言葉通りになるとは思いませんでした。
それでも国は私を保護する方向で動いてくれているようなので、とにかく死なないよう立ち回ることを優先しましょう。
目の前には七尺ほどの背丈の、全身鎧の人が立っています。ただしあの中身は実際には人ではなく、あれそのものがナイトゴーレムという魔物そうですが。
カイル先生の合図で、試合が始まります。
先生からは場合によっては倒しても良いと言われています。
ただわたしは依然攻撃力不足です。
弱点が分かればハイオーク戦のときのように火矢を連射すれば倒せるかもしれませんが、模擬戦で自分の全力を見せるのもどうかと思います。
ですからこの試合では相手を牽制しつつ、引き分けを狙うのがよいでしょう。
とりあえず魔法による初見殺しを封じるため、魔力関知を闘技場全体に行い、万が一魔法を使われても検知できるようにします。
続いて身体強化も行い、不測の事態に備えます。
「どうした! 怖くて動けないならこちらからいくぞ!」
わたしが準備していると、シーベル殿下が叫んできました。
一日程度ですが、早くも言葉が聞き取れるようになったのでいろいろ助かりますね。
で、シーベル殿下はどうやらわたしが準備しているのを見て、怖気ついて動けないと勘違いしたようです。
『レーリー、大丈夫?』
“問題ありませんよ。まずは準備をしていました”
さて、そろそろわたしも動くとしましょう。
とはいっても、いきなり魔法を使うことはしません。一応いつでも火矢を撃てるように準備だけはしておきますが、とりあえず少しずつ近づくことにします。
「なんだお前の従魔のへっぴり腰は!」
相変わらずシーベル殿下が煽ってきますが、ただ視点がわたしを向いていません。
なるほど、普通は従魔は召喚主以外の言葉を理解しないのだですから、わたしを煽ってもしょうがないと思っているのでしょう。
これはちょっと面白いかもしれない。
“一つ確認ですが、普通こうした従魔同士の模擬戦で相手の召喚主を狙うことはありますか”
『え? それは卑怯だと思われるから、マナー上行わないわ』
“それは例えば、実戦でも同じ?”
『そうだと思うわ』
“相手が山賊だったり、あるいは魔物でも?”
『それは……相手次第かしら。山賊ならむしろ積極的に狙ってくると思う。魔物はそこまでの知恵がないから、従魔を前に出せば、そちらを先に狙ってくるでしょう』
“つまり本当に実践的な模擬戦を行うには、召喚主も油断すべきではないということにならないかしら”
『え、まさかレーリーはシーベル殿下を狙う気? 止めてよ、従魔の行動の責任は召喚主が取らないといけないんだから。従魔を倒す分には問題にならないと思うけど、さすがに殿下に危害が及ぶと庇えないわよ』
“大丈夫です。問題にならない程度に抑えますので安心してください。”
『ちょっと、全然安心できないんだけど!』
“これが遊戯であれば卑怯な行為は慎むべきですが、模擬戦ということは実戦で起こりうることを想定して動けなければ意味がありません。メイリンも油断してはいけませんよ”
『え、わたしも?』
“当然です。従魔は戦うために召喚するということなら、メイリンも戦場に身を置く可能性があるのでしょう。何が起きるのかわからないのが戦場なのですよ”
『確かに、護衛とか任される可能性はあるけど……』
“暗殺者が護衛対象を確実に狙うためにまず護衛を排除する場合もあるでしょう。その際、ある程度強い従魔と、油断している召喚主、どちらを先に排除するほうが簡単でしょうか”
『そうなんだけど……今はとにかく、試合に集中して!』
“そうですね。そのあたりについてはあとできちんと話し合いましょう”
もちろん、メイリンと話している間も相手の動きは観察しています。
あまり近づこうとしないわたしに業を煮やして、シーベル殿下は無造作にナイトゴーレムを接近させてきました。
人との対戦であれば間合いも大体わかりますが、相手は人ではありません。魔法というわたしの常識が通じない技術がある以上、警戒しすぎることはないでしょう。
とはいえ、接近してくる動きを見る限り、ゴブリン以上ハイオーク以下という感じです。
おそらくはただ逃げ回って時間切れ引き分けに持ち込むことも可能でしょうが、ちょっと思うところもあるので殿下にも学習してもらうこととしましょう。




