召還編その16
噂ではシーベル殿下がご執心で、彼女のわがままをいろいろ聞き入れているという話だが、今の彼女の発言で、殿下がなぜレーリーを欲しがったのかが分かってしまった。
わたしとシーベル殿下だけでなく、カイル先生からも注目を浴びてエリナ様もまずいところに入ってきてしまったと気付いたようである。
「エリナ君、きみはメイリン君の従魔を襟巻として欲しがったのかい」
「とても素敵な毛皮でしたもので。そもそも従魔なんて使いつぶすことも多いのでしょう。召喚主が許可するなら、一匹ぐら潰して毛皮をいただいても問題があるとは思えませんわ」
うん、必ずしも間違ったことを言っているわけではないけど、レーリーに関しては例外だ。
“この女の子がわたしの毛皮を欲しがっているのですね”
うわ、いつの間にか他人の会話もある程度聞き取れるようになっている?
「エリナ君、従魔はあくまでも召喚主のものだ。その用い方について部外者である君が口をはさむ権利はない」
「それは当然ですね。それでは、シーベル様の従魔とメイリンの従魔を戦わせてみるのはいかがでしょう。結果として死んでしまうことがあっても、仕方のないことでしょう」
カイル先生はかなり厳しい口調で諫めたのに、エリナ嬢は悪びれもせずとんでもないことを宣った。
「そうだ。午後の授業は召喚術だ。召喚獣同士の模擬戦でお前の従魔と俺の従魔を戦わせろ」
シーベル殿下も簡単にエリナ嬢の尻馬に乗るし。
“そちらのシーベル殿下、という方の従魔はハイオークより強いですか?”
『ハイオークよりは弱いけど、ナイトゴーレムという固い従魔だから、レーリーとは相性があまりよくないかも』
“模擬戦であれば、別に相手を倒さなくてもよいのでしょう。もしも問題を解決するために戦ったほうが良いのなら、受けても構わないですよ”
レーリーからは模擬戦承諾を得た。
わたしがカイル先生を見て頷くと、カイル先生はため息をついた。
「あまりこういう前例は残したくないのですがね。今回の件については国にも伝えますが、模擬戦については了承しましょう。ただしあくまでも模擬戦ですからわざと相手を殺すような真似は避けるように。朝にも伝えましたが、メイリン君の従魔は国も注目していますからね。万が一殺してしまった場合も、毛皮が殿下のものになるわけではありませんからそれを忘れないように
メイリン君、少し用があるので一緒に来てください」
カイル先生がシーベル殿下に念を押すと、わたしを連れて先生の研究室に移動した。
「ありがとうございました、わざわざ教室まで来ていただいて」
わたしが先ほどの礼を言うと、カイル先生は頭を振った。
「ああいったトラブルに介入するのも先生の役割ですからね。
ところで先ほどの模擬戦の件ですが、実を言えば学園長と魔術局長から早めに実力を確認するように言われていたので、もともとレーリー君にお願いする予定だったんですよ。
ただそれなりに実力のある相手でないと実力を測れないので、対戦相手候補としてシーベル殿下の名前もありました。しかし彼はこういっては何ですが、プライドが高いので相手の実力を測る当て馬役を依頼するのは難しいと思っていたんですよね」
「では、今回の件は先生的には瓢箪から駒、というところですか」
「まあそういうことになります。ところでレーリー君は模擬戦を行うことについて納得していますか」
「はい。問題解決に必要なら、受けてもいいといっています」
「ならよかった。ハイオークと戦える実力があるならすくなくとも負けることはないだろう。あの場では相手を殺すような真似は避けるように言ったけど、もしも殿下が手加減してこないようなら、殿下のナイトゴーレムを倒しても構わない」
「いいんですか? それにそもそもレーリーとナイトゴーレムでは相性があまりよくないと思いますが」
「うん、だらか可能なら、ということだ。相手はおそらくレーリー君を文字通り殺しに来るだろうからね。へんに相手に気を使って戦わなくてもよいということだよ」
なるほど、確かにそうか。
“もしも問題なければ、対戦相手の特徴などを聞いても良いでしょうか”
レーリーから質問が。
「先生、シーベル殿下の従魔の情報を事前にレーリーに伝えても問題ないでしょうか」
「うーん、問題ないとも言い切れないけど、普通は召喚主が従魔に指示を出しながら戦うわけだし、メイリン君が知っている情報を伝える分については構わないかな」
確かに。レーリーの場合はその場で指示するよりも、事前に打ち合わせしたうえで自由に戦ってもらったほうがよさそうだ。
「それでシーベル殿下の従魔ナイトゴーレムだけど、まずゴーレムはわかる?」
“わかりません”
「なんて説明したらいいんだろう。まずゴーレムというのはいわば木や岩、金属などでできた人形のような魔物だとおもって」
“人形ですか”
「正確には人形とは違うけどね。で、殿下のナイトゴーレムは普通のゴーレムよりもちょっと硬くて速いうえに、武器を持っているの。だから騎士というわけ」
“なにか魔法を撃ってきたりしますか”
「さすがに魔法を撃ってくるゴーレムになると、高位の魔獣すぎてそう簡単に従魔にはできないから、たぶん大丈夫」
“武器は何を使っているのでしょう”
「剣ね。剣の腕は一般的なこの国の騎士よりは少し弱いくらい。学生ではかなわないわ」
“そうですか。他に隠している能力を持っていなければ、たぶん負けることはないと思います”
「意外と強気ね」
“勝つのは難しいと思いますよ。それにもしも初見殺しのような技を隠し持っていたなら、負けることもありえるでしょうし”
「……本当に大丈夫?」
“正直なところを言うと、やってみないとわからないですね。ただ無理に勝とうと思わなければ、負けることもないでしょう”
頼もしいのか後ろ向きなのかよくわからない。




