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召還編その6

「最後の質問に対する答えだけ、嘘をついたね」


 え?

 先ほどレーリーは貴族ではないとわたしに言った。あれは嘘だったんだろうか。あと、マダラン局長が珍しい看過スキルを持っていたとは。


「レーリー、さっきわたしには貴族ではないといったわよね」


“嘘をついたわけではないの。正確にはわたしは確かに王家の生まれだったから”


「え、じゃあ王女様なの?」


“いいえ、その国はもう滅んでしまいましたので。

 そもそもわたしは事情があって元の国でも次の国でも出生を隠して仕えていましたから、死んだ時点では『平民出身だが滅んだ国で武官として仕えていた経験を買われて、皇太子の教育係の一員に採用され、その後政争に巻き込まれて獄死した』というのが、おそらく人々の認識になっているはずですので頷いたんです。

 ですがよく考えたら前の世界でのわたしのことなんて、こちらの人には関係ない話ですよね”


 うん、なんか複雑な事情を抱えているらしい。


「ええと、どうやら出生の秘密を持っていて、本当は亡国の王女だったそうです。ただそれを隠して生活していて、一般的な認識としては平民出身者とみられていたので、先ほどの質問にも頷いたそうです」


 先ほどの質問に対する回答が全くの嘘でもないらしい、ということを伝えるため、そのように省略して答えた。

 というか、武官として仕えた経験もあるとか、皇太子の教育係だったとか、レーリーって女の子っぽいけど、結構高齢なのかな?


“もうすぐ二十という年齢で亡くなりました”


 わ、聞かれてた。


「レーリーって、20歳前に、武官として仕えたり、皇太子の先生をしたりしていたの?」


“いろいろありまして。そのあたりは話すとかなり長くなります”


 わたしが感心していると、わたしの発言にルース学園長が食いついた。


「異世界の戦術や教育か。面白そうな話だな」


「学園長、今はそのような時間はありません」


「わかっておる」


 カイル先生が止めてくれたおかげで、今はそれ以上の話はなかったけど、ちょっと今後が不安。


「従魔契約されていない魔獣が街中に出現した状態ではありますが、少なくともこのレーリー君の人間に危害を加える気はない、という回答は信じてよいでしょう。

 できれば従魔契約のやり直しをしていただきたいところですが、そのためにはまず現状の逆従魔契約とも言える状態を解除する必要があります。

 しかしそもそも従魔契約を解除する方法など研究されていないので、すぐに今の関係を解除することもできません。

 ですので現状、レーリー君と会話できるメイリン君が、このままレーリー君の世話係となり、ここ魔法学園で経過観察していただくのがよいと思います」


 おお、ほぼ現状維持に近い結論がマダラン局長から出た。


「ちょっと待ってください。国側で管理することはしないのですか」


 ちょっと待ってカイル先生、そんな見捨てるようなこと言わないで!


「国で管理することも考えましたが、そうするとメイリン君も一緒に国で引き取る必要がでてきます。まだ学園に入学したばかりの生徒を国で引き取るとなれば、教育やらなんやらで改めていろいろと手配が必要です。それならいっそ、メイリン君の卒業までは学園で保護していただいたほうが国としても助かります」


「卒業後はどうなるのでしょうか」


「その時にならないと何とも言えませんが、わたしとしては国に仕えていただきたいところです」


「ええと、それはわたしからも何とも言えません」


 なにしろわたしは領主様のお金で勉強させてもらい、魔法学園への推薦をもらえたのだ。

 進路についてもわたしが勝手に決めるわけにはいかない。


 そのあたりの根回しというか駆け引きというか、そういうことについてはできればそちらで済ませてほしいものである。


「それじゃあ、わたしは今まで通り寮生活ということでよいでしょうか」


「それで構いませんが、一応レーリー君が従魔契約に縛られていないことについては内密にお願いします」


「内密って、クラスメイトは全員知っていると思いますが」


「そちらはあとで、学園側から契約をし直したと発表します。従魔契約の解除が難しいことについて気づくものもいるかもしれませんが、正式発表したからには、うかつに藪をつつくような真似はしないでしょう」


「わかりました。ではそのようにお願いします」


 こうしてわたしの、前代未聞の魔獣の従者としての生活が始まることとなった。


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