召還編その1
エリギナ魔法学園
教えられた通りに、わたしメイリンは何度も繰り返してきた召喚魔法を今日も唱える。
詠唱に間違いはないと断言できる。
召喚陣を構成し、いざ魔獣がいる先へ転移陣を展開しようとするが、しかし手ごたえがないまま、召喚陣も消えてしまう。
また失敗だった。
優秀な召喚士でもあるカイル先生は、発動自体が妨害されているようだから成績にはまだ影響はないと言ってくれているが、これで2か月も従魔召喚に失敗している。
わたしは平民だったが魔力が多かったので特待生枠でこの魔法学園に入学できた。
そこで召喚士となることを勧められて、召喚の学科を選択したのだが、基礎を教わり、いよいよ本番の魔獣召喚のときに、わたしだけ召喚に失敗してしまったのだ。
優秀な召喚士でもあるカイル先生は、召喚術自体に問題はないと言ってくれた。
先生の話だと、わたしと相性の良い魔獣が、おそらくダンジョンか何かに入り込んでしまい、従魔への召喚陣が妨害されている可能性が高いとのことで、その魔獣が死ぬかダンジョンから出てくるか、またはもっと相性の良い他の魔獣が生まれれば成功するだろうということだった。
そこでその後も週一回は召喚術を試してきたが、今のところ一度も成功していない。
クラスメイトの中には1,2度失敗した人はいても、これだけ失敗を続けているのはわたしだけだ。
失敗の理由については、先生が珍しい事例だが過去にも実際にあったことをおなじ授業をとっている他の学生にも解説してくれた。
それでもただでさえ平民の特待生ということで目立つ立場なのに、失敗続きということでなんとなく腫物を触るような感じになってしまっている。
「おいメイリン、また失敗したんだってな。特待生のくせにいつまで先生に迷惑をかける気だ」
そしてこういう鬱陶しい人もでてくる。
「おい何とかいったらどうだ」
彼はおなじ召還術の授業をとっているアルドア・ステイン様。ステイン伯爵家の三男だ。
成績優秀だが、筆記はわたしのほうが上回っている教科も多いので、どうも目の敵にされているようなのだ。
「申し訳ありません。ですが、カイル先生も召喚陣自体に問題はないといってくださっていますし、今のところは成功するまで繰り返すしかありませんわ」
「ふん、いつまでも失敗していると特待生でもいられなくなるんだぞ」
「それは仕方のないことですが、それは学園側の判断することです」
「もしも学園にいられなくなるなら……」
「アル!またメイリンを苛めているわね!」
アルドア様が何か言おうとしたところで、サシャ・マイナル様が近づいてきた。彼女はマイナル伯爵家の次女で、じつは学園に入る前は、彼女の家で同じ家庭教師から学んでいた。
そんな経緯ゆえか、平民のわたしとも隔意なく接してくれる。
「お、俺は別に苛めてなんて」
「あんたは体がでかいから、近づくだけでメイリンが怖がるのよ!」
別に怖がっているわけではないのだけど、せっかく庇ってくれているので余計な口出しはしない。
「大体成績で負けているから苛めようなんて、貴族の風上にも置けないわ」
「別にそんな理由で声をかけた訳じゃないぞ!」
そんな風なやりとりも、最近の風物詩となりつつある。
「お二人はいつも仲が良いですね」
「「なかよくねーよ(ないわよ)」」
なぜか否定されてしまった。
とにかくこんな日々をわたしことメイリンは送っているのである。




