指名依頼編その19
“拙者との真剣勝負をお願いしたい”
予想はしていましたが、ここまで直接言ってくるとは思いませんでした。
“オガワ様でしたでしょうか。試合を希望されるのでしたら、今ここでなくても同行いただければいつでもできると思いますが”
無駄だろうとは思いますが、一応説得を試みてみます。
“うむ、それは分かる。だか鍛錬であれば少しでも手ごたえのある相手と行いたいのだ。そなたが拙者の鍛錬の相手に足る者であるかどうか、今ここでまず確かめさせていただきたい”
“確かめると言いながら真剣勝負を望むのですね”
“本気にならねば楽しめまい”
“もしも私が鍛錬の相手として物足りないと思われた場合はどうされるのですか”
“別にどうもしない。お前たちについていこう。従魔契約の件も構わない。
だが従魔契約をしてしまえば、そなたと命を懸けた真剣勝負をすることも難しくなろう。今なら万一のことがあっても魔獣と従魔が戦い、片方が勝った、という形で収めることができる“
そのいいように若干あきれてしまいます
本人は私の実力を計ると言っていますが、彼ほどの技量を持っていれば相手の実力は戦わずともある程度は察することができることでしょう。
ですからむしろ真剣勝負をしたいという発言が本音に違いありません。得てして武を極めようという人は戦闘狂なところがあるので、この人もそうなのだろうと思って諦めます。
“わかりました。では勝負の結果、何が起きたとしてもそれは後に引かないということで。
私は後ろで待っている人たちに事情を説明してきますので、少々待っていただけますか”
“構わん。ここで待っている”
さて、メイリンに事情を説明しましょうか。
メイリン視点
しばらく白フクロウと話している様子だったレーリーが戻ってきた。
わたしにはレーリーの声だけがかろうじて聞こえていたけど、雰囲気的には対話ができていたように思う。ただ白フクロウがこちらに来ないのはどうしてだろう。
「どうだった」
“話は通じる方のようですが、一度は真剣勝負をしたいと希望されたので引き受けることにしました”
え、それって話が通じてないんじゃあ……。
“問答無用で攻撃してくるわけでもありませんし、こちらの提案を確認した上で、まずは勝負したいと持ち掛けてきたので、十分話は通じていると思います”
「まあレーリーがそれで納得しているならいいけど」
“一応、真剣勝負ということなので万一のこともあり得ますが、その時も恨みを残さないと約束しましたので、忘れないでくださいね”
「え、それってどういう……」
わたしが発言の意味を確認しようとしたところでレーリーは再び白フクロウの元へと向かってしまった。
こうなってはわたしに止めるすべはない。仕方がなくそのまま勝負の行方を見守ることにした。
ヘイハチロウ視点
レーリー殿は後ろで待機している者に何やら状況を伝えに言った。
しかしあの二人の関係は不思議なものだ。普通は人が主となるだろうに、なぜか獣の姿をしているレーリー殿が主をしているとは。
他の者たちは普通に人が主となっているし、何か事情があるのであろう。
“オガワ様、お待たせしました。では始めましょうか”
こちらが無理を言っているのにレーリー殿はわざわざそう断ってきた。
礼儀正しい者は嫌いではない。
“うむ。では何時でもかかってくるがいい”
“あら、先手を取らせていただけるのですか”
“拙者のわがままに巻き込んだのだ。それぐらいは礼儀であろう”
“そうですか。では遠慮なく”
そういうと彼女は本当に遠慮なくわたしに向かって火矢を放ってくる。と同時にすでにその場にはいない。
その思い切りの良さも悪くない。
拙者はそれを水矢で受けつつ、移動する彼女を追う。
“ははは、雨の中では火矢の威力も半減するぞ”
“そのようですね。とはいえわたしはこれしか使えませんから”
さらにけん制するように火矢を撃ってくるが、それも水矢で撃ち落とし、さらに追撃する。
木の裏に隠れて避けるが、こちらは空を移動して先回りできる。
“ところで対戦相手はわたしでよかったのですか?”
“戦いが始まってからそんなことを聞く余裕がある時点で、十分その価値がある”
“過大な評価と思いますが、ここはお礼を言えばいいのでしょうか”
そう言いながら木の幹を駆け上り、枝を渡って左右へと動きながら拙者の水矢の攻撃を躱していく。
“こうやって逃げるのが精一杯ですからね。そもそも空を飛べるオガワ様相手では、明らかにこちらは不利ですし”
レーリー殿は木の陰に隠れながらそう続ける。不利と言いながら余裕のあるその物言いに拙者も苦笑するしかない。
“そういいながらそなたは勝ち筋を探しておるだろう”
”一応、真剣勝負ですからね。勝敗が決定的になるまでは足掻いて見せることも礼儀ではないかと“
こちらは空から近づいていくが、彼女は最小限の動きで木や枝を伝わり逃げ、時にこちらに火矢を撃ってくる。
“オガワ様は戦い慣れているようですが、戦乱の世におられたのでしょうか”
“それは拙者の台詞だな。そなたの方が余程戦い慣れているようだが。拙者のいた世界は太平の世が続いていた。とはいえその中でも戦いに飢えているものはいる者だ。そういうものと真剣勝負を行なったものだ”
拙者が答えると、逃げながらも律義に返事をしてくる。
“太平の世、ですか。私ならそんな時代に生きて戦いを求める気持ちは分かりませんが、そういうものを求める人がいることは理解しています”
“そういうそなたの世界はどうだったのだ?”
“私のいた世界は戦乱の世がやっと統一されたところで、まだなにかと世の中を騒がす出来事が続いていましたね。あなたのような方でしたら、まだぎりぎり活躍の機会もあったことでしょうが、しょせん武辺者というものは世情が落ち着けば身の置き場がなくなるものです”
なるほど、そのような時代であれば戦いの経験が豊富なのも頷ける。彼女自身はそれを厭うておるようだが。
“そなたは違ったとでも?”
“私は静かに暮らしていければよかったのですが、いろいろあり政争に巻き込まれて投獄された身です。人のことは言えませんね。この国は今は平和なようですが、そのうち何か大きなことが起こりそうな気はします”
“それはそなたの勘か?”
“勘、というよりも予想です。大陸が統一されて数十年たつそうですが、いまだ国内に尚武の気配を強く感じます。魔物という敵がいるということを考えても、少し過剰に感じます。今後海の向こうへ外征に向かう計画があると考えれば説明が付きますので。もしそうであればオガワ様が望むような活躍の場も見いだせるかもしれません”
ふむ、それは興味深い話だな。だがなぜそんな話をこんな時に始める?
“オガワ様は太平の世に飽いておられたのですよね。必ず起きるとは断言できませんが、その可能性は高いと思いますよ”
“なるほど、そなたの目論見は分かった”
“さて、目論見とはなんのことでしょう”
“拙者の興味を引く話題を持ち出し、気を散らそうとしているのであろう。勝つために策を講じることは評価するが、残念ながらその程度で気を散らされはせん”
“思っていたよりも早く見抜かれましたか。ですが私が話しかけることを全て無視できますか?”
無視できないのであれば、最初から聞かなければよいのだ。
そろそろ拙者も本気を出させてもらおうか。




