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指名依頼編その18

メイリン視点


 わたしたちはそれからすぐに出発したが、森へ入る前には早くも雨が降り出していた。


「くそ、やっぱり降り出してきたか。相手はどんな感じだ?」


 シーベル様の質問に、レーリーがわたしに答えた。


“こちらが森に入ってきたことは気づいているようです。できればこちらも気付いていることを相手に知らせたいのですがよいでしょうか”


「相手は気づいているそうです。それで、レーリーからも相手のことに気付いていると知らせたいと言っているのですが、構わないでしょうか?」


「それができるなら、いっそ出てきてもらったほうが早いから構わないが、できるのか?」


「たぶん、レーリー自身がそう言っているのでできるのだと思いますが……そうだよね?」


 シーベル様の質問に、改めてレーリーに確認する。


“相手のいる方へ向けて強めの探知を行なえば、この相手であればこちらの意図に気付くでしょう。シーベル殿下の許可が出たようなのでやってしまいますね”


 そういうとレーリーはかなり強めに指向性の魔力探知を使った。ちょっと背筋がぞわっとする。


「これって、宣戦布告になっていない?」


“さあ、相手がどう取るかはわかりませんが、少なくともこちらも気付いていることは理解してもらえたようです。先ほどまでは気配を消していましたが、今は気配を消さずにまっすぐこちらへ向かってきています”


 レーリーの返事を証明するかのように、ハーマイン殿下からも声があがった。


「マサトがこちらにまっすぐ接近してくる相手がいるといっています!」


「全員、戦闘準備で待機!」


 すかさずシーベル殿下が皆に指示を出した。

 まあすぐに出てくるだろうと予想していたので全員慌てることもなく近づいてくる相手を待つ。

 さらにレーリーがわたしたちの前に出た。


“たぶん話が通じる相手だとは思うのですが、一度は本気で戦う必要があると思います。念のため鼠の牙の皆さんには私が負けたときのために相手の戦い方をよく見ておいていただくよう伝えておいてください”


 レーリーがわたしにそう言い終えると同時に、相手が姿を現した。

 それは白いフクロウだった。


“フクロウはアルドア君の従魔と被っていますね。他に選択肢はなかったんでしょうか”


 なにやらナナコがぶつぶつ言っているが無視だ。


「シラバタスさん、最初はレーリーが相手をしますがもしもレーリーがかなわない場合はわたしたちの手に負える相手ではないので、皆さんに相手をお願いすることになるかもしれません。相手の戦い方をよく見ておいてほしいとレーリーが言っていました」


「あいつがかなわなかったら、俺達でも勝てるかはわからんぞ」


 そう言いながらもどこか楽しそうだ。きっと強い相手と戦うのが楽しいのだろう。そういう人はそっとしておくのが吉だ。わたしはレーリーと相手に改めて意識を向けた。




レーリー視点


 さて相手はこちらに姿を見せたとはいえ、少し離れた高い枝の上に止まったままわたしたちを観察しているようです。

 まずはこちらから声をかけた方が良いでしょう。


“あなたも元は人間で、別の世界から来られた方でしょうか?”


 そう声をかけると、白フクロウは少し驚いたのか、少し体を動かしました。


“もしも急ぎでないのであれば、少し話をしませんか”


“そうか、おぬしもあの機械で動物に変えられた人間なのだな”


 それは独り言のようで、わたしと対話する気があるか微妙です。そのうえこの体のことについてもなにか知っている雰囲気です。

 とにかくまずは話を続けましょう。


“自己紹介がまだでしたね。わたしはレーリーといいます。こことは別の世界で普通に人間として生活していましたが、ある日突然こちらの世界に飛ばされ、気づけばこの体になっていました。差し支えなければあなたのお名前を聞いてもよいですか”


“名乗られた相手に名乗らぬは礼を失するな。拙者はオガワ・ヘイハチロウと申す。剣の腕を磨き諸国を巡っていたが路銀が尽きて受けた護衛の仕事の最中に事故にあい、この体に代えられてここに飛ばされてきた者である”


 やはり体が変わってしまった理由を知っているようですね。


“オガワ様、とお呼びすればよろしいでしょうか。オガワ様はわたしたちがこのような体に変えられた理由をご存じなのでしょうか”


“ふむ、理屈を知っているわけではないが、拙者が護衛していた者が雇っていた奴が人の姿を動物に変える短筒をもっていたのだ。拙者はそ奴の暴走を止めようとして避け切れずに当たった上に、なにやら突如開いた穴に吸い込まれてここに飛ばされてきたのだ”


 あら、そこまで詳しく知っているわけでもないようです。それでも何か手掛かりになりそうなことはご存じなのかもしれません。


“それでそなたたちは拙者を出迎えに来たようだが、何の用だ?”


“はい、実はわたしたちのようなものがあまりうろつくとこちらの世界の人の迷惑にもなるので、できればわたしたちと合流いただくことはできないかと思い、噂をもとに探していたのです”


“なるほど、確かに言うことは分からんでもない。だがこの体では人と話すことはできないであろう。おぬしはどうやって意思を伝えているのだ”


“実を言えば、そのままでは意思を交わすことができないため、わたしたちは誰かと従魔契約をしています。そうすることで少なくとも契約した相手とは意思を通わせることが可能になります”


“なるほど、従魔契約か。わたしもそこにいる誰かの従魔になれと?”


“矯正するわけではありません。ただ今後、人と関わって生きていくことを希望されるのであれば、従魔契約しないと意思疎通が難しいということです。

 それとも元の姿に戻る方法をご存じでしょうか?“


“拙者は知らん。ただ姿を変える短筒を持っていた奴は別の世界から来たようだ。この世界ではそのような術はないのか?”


“残念ながら今のところ知られてはいないようです。他の世界と自由に行き来できるという話も、わたしは聞いたことはありません。ただ別の世界でできたことがオガワ様の世界でもできたのであれば、この世界でもいつか可能になるかもしれません”


 わたしの言葉にオガワ氏は考えるように首をかしげる。

 できればこのまま戦わずに終われればいいのですが。


“いくつか質問がある。従魔契約は嫌になれば解除できるのか”


“できないと聞いています。一応、方法がないかを探してもらってはいます”


“契約対象はそこにいる者たちの中から選んだ方がよいのか”


“もしも嫌だということであれば、気に入った方を探すお手伝いをすることはできると思います”


“もしも断ったらどうなる?”


“できれば人里から離れた場所で静かに暮らしていただきたいところです。従魔ではない魔獣は下手をすると討伐対象となりますので”


 ここまで会話した時点でふたたびオガワ氏が考え込む仕草をした。


“うむ、そなたはレーリーといったか。そなたの主張はわかった。おおむね了解できると思うが、一つだけ拙者の希望を聞いてくれないか”


 概ね希望する内容は分かりますが、一応確認しましょう。


“なんでしょうか?”


“拙者との真剣勝負をお願いしたい”


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