幕間その12 魔王とは
短い幕間でお茶を濁して申し訳ありません。
ナナコ視点
「そういえば、この国は蒸気機関のないスチームパンクというか、ファンタジーな世界観のわりに時代は近代に近いよね」
夕食後のちょっとのんびりした時間に、ムラバヤシがそんなことを言い出した。
「マサトさん、そのすちーむぱんく?というのはなんですか?」
「スチームパンクっていうのは、わたし達のいた世界にあった物語のジャンルの一つだよ」
レーリーの質問に対してわたしがそう説明するが、レーリーもドロテアも首をかしげている。
「それじゃああまりにも省略しすぎだよ。こちらの世界にはないみたいだけど蒸気を使って物を動かす機械が俺たちの世界では昔使われていたんだ」
「昔、ですか?」
「ええ。産業革命といって、重い荷物を動かしたり、こちらでいう魔導車みたいなものも作られていたんだけど、その後より効率の良い燃料で動く動力が開発されて、今ではほとんど見なくなりました。
その駆逐された蒸気機関がもしももっと発達していたら、という仮定で書かれた空想物語のジャンルを一般にスチームパンクっていうんですよ」
「それがこの世界に似ていると?」
「蒸気ではありませんが、魔導車とか魔導列車があるんですよね。俺たちにとっては空想の産物だった魔力を動力として動く機器が発達している、という意味で『蒸気機関のないスチームパンク』といったんです。あるいは『マジックパンク』とでも言ったほうがいいんですかね」
ムラバヤシが長々と説明したが、やはりレーリーもドロテアも首をかしげている。
オタクは説明が長いんだよ!
「つまりマサトさんはこの世界を理解する上で、ご自身の世界の物語を参考にしたということでしょうか」
ほら、レーリーは真面目だから本気で悩んでるじゃない。
「ええと、そんなに難しい話ではなく、話の枕とでも思っていただければ。
ただ自分がいた世界の物語を参考に、という部分はないともいえないかな。
いろいろと自分の常識とは違う部分があるし、そうしたときに似たような話を参考にすることってないですか?」
「私はあまりそうした物語は読みませんでしたので」
レーリーに一言で否定されてる。
「わたしもそうね。そもそも物語なんて子供向けのものしかありませんでしたし、あとはせいぜい庶民が見る見世物があった程度でしょうか」
ドロテアもそういうものはなかったんだ。
やっぱり世界によって文化も異なるんだね。
「そういえばこの世界って、魔王とかはいないんですか?」
突然ムラバヤシがそんな質問をぶっこんできた。
ほら、事情を知らないドロテアはともかく、レーリーが微妙な顔をしているじゃない。
「マサトさん、ハーマイン殿下にはまだその質問はしていませんよね」
「え、うん、してないよ。今ふと思っただけだし」
「決してその質問を殿下にしてはいけませんよ」
「え、そんな重大な問題なの?」
レーリーがいかにも訳ありな雰囲気で口止めするから、わたしに確認してきたな。
まあ大した理由じゃないんだけどね。
「ムラバヤシは、この国の初代皇帝の話はもう聞いた?」
「ああ、この大陸を統一したという人だろ」
「うん、それでその後に隣の大陸にも宣戦布告をしたことは?」
「聞いた。それで身内から反感を買って帝位から降ろされたとか」
「そう、で、最初に宣戦布告と降伏勧告をした際に、隣の大陸の国の幾つかが初代皇帝のことを『魔王』と呼んだそうなのよ」
「あ、もしかしてそれで『魔王』は禁句になった言うこと?」
「いや、その続きがあって、初代皇帝という人が『魔王』と呼ばれたことをなぜか気に入って、改めて追加の宣告をした際に『大魔王』を自称したそうなのよ」
「ええ……」
「結局その件についてはうちの国ではなかったことにしているんだけど、隣の大陸の一部では、いまだにうちを「魔王の国」と認識しているらしいんだよね。
そんなわけで現在の皇家にとって『魔王』は黒歴史扱いというわけ」
まあ初代皇帝がそんな人物だったら身内も隠したくなるよね。
なんか日本史にも似たような人がいたような?




