指名依頼編その15
メイリン視点
どうやらドロテアの主としてエリナが立候補するつもりのようだけど、本当に大丈夫だろうか?
“個人的には大丈夫と思いたいのですが、まだ会ったばかりですしできればしばらく様子見をしたいところです”
『ナナコやマサトの時はその場ですぐに従魔契約を勧めたのに、今回は慎重だね』
“彼女らはこう言っては何ですがあまり表裏のない人たちでしたから。ドロテアさんはどうやら結構な修羅場を潜り抜けてきたようで、復讐のために自ら国を滅ぼしたと言っていました”
『え、復讐で国を滅ぼしたの?』
“彼女自身はそういっていました。詳しい話は聞いていませんが”
『そんな相手だと考えると、逆にレーリーの評価が甘い気がするんだけど』
“彼女の言葉をすべて信じたわけではないのですが、彼女自身の復讐は終えた後にこちらに飛ばされたそうです。それが事実なら彼女にとって元の世界のことはもう終わったことで、こちらで心機一転やり直そうという言葉もあながち嘘ではないかと感じました”
『レーリーがそういうなら……』
“ただ、私自身は自分の人を見る目にそれほど自信を持っているわけではありません”
そういうはしごを外すようなことは言わないでほしい。
とりあえずエリナにはレーリーの見解を伝えておく。
「あら、レーリーは意外と慎重なのね。もしもそのドロテアさんといったからしら、その方がこちらを害するようであれば、その時は改めて、ね?」
「いえ、改めて何ですか?」
「レーリーならドロテアさんにも勝てるのではないかしら」
「私に聞かないでください……どうなの?」
“そうですね、実際に戦ったわけではありませんので断言はできませんが、おそらく負けはしないと思います。ただ逃げられる可能性はあります”
「ということは逆に言えば従魔契約をしていれば逃げるのは防げるか」
「あら、レーリーでは勝てないと?」
わたしは小声でつぶやいたつもりだったが、エリナにも聞こえたようだ。
「負けはしないそうですが、逃げられる可能性はあると言っています」
「そう、レーリーから逃げ切れるならかなり強いということよね。ですがメイリンの言う通り従魔契約をしていればその心配はないと。なら問題はないですね」
エレナは本気で従魔契約をするつもりなんだろうか。
「あの、本当に従魔契約するのですか? エレナは回復魔法を使えるので従魔契約をして魔力を消費するのはあまり勧められないと思いますが」
「確かにそういう見方もあるわね。ただ私の魔力をどう使おうと私の自由ではないかしら」
そう言われると……。
「回復魔法を使える人は確かに希少なので、できるだけ他のことに魔力を使わないようには言われているけど、それは明確な規則ではないわ。わたしは回復魔法の使い手としてよりもジャナハン男爵家の者として行動したいの」
「ジャナハン男爵家の者として、ですか」
わたしには家のためにそこまで決断する気持ちは分からないけど、少なくとも本気なんだとは理解できた。
「わかりました。エレナがそこまで考えているならわたしはもう反対はしません」
「ありがとう。ではシーベル様を説得するのも手伝っていただけるかしら」
「それはご自身で行ってください」
わたしはもういっぱいっぱいです。
結局その日は、エレナとドロテアさんの従魔契約については見送りになった、
というか、鼠の牙の方々の目の前で、マサトに続いて二連続で白い魔獣と従魔契約の話をしている時点で彼らからもかなり不審な目で見られているから、そろそろ彼らにも説明すべきではないか、という話になったのだ。
そもそも最初の時点ではまだ白い魔獣が本当に転移者かどうか確認できなかったし、わざわざ不確定な情報を彼らに伝える必要はない、と思っていたわけだけど、さすがに2連続で大当たりとなれば、次の白い魔獣目撃場所もその可能性が高いだろうという話になる。
依頼者である国、というか陛下からも直接ではないが護衛につけたメンバーに事実を伝えるかどうかはこちらで判断してよいと言われている。
つまり積極的に伝える必要はないが、任務遂行に必要であれば伝えても問題ないということであり、現状でいろいろとイレギュラーな事態が続いたことで、彼らを不審に思わせてしまったのであれば、いっそ伝えた方が良いだろう、というのがシーベル殿下の言い分であり、皆もそれに同意した、というわけである。
で、伝えてみた。
もちろん伝えるのはわたしではなくシーベル様である。
「つまり白い魔獣は異世界からの転移者が変化した姿だ、というわけか」
「ええ、少なくともここにいる四体はすべてそういうことになる」
従魔契約を受けた三体はともかく、まだ従魔契約をしていないドロテアさんも大人しく一緒にいるのを見て、鼠の牙のメンバーの皆さんも困惑している。
「まあ元々が陛下からの指名依頼だった時点で何かしら裏があるのだろうとは思っていたが、これはさすがに予想もしなかったな」
「ううむ、その従魔たちが元は人間だと言われてもにわかに信じがたいが……いや疑うわけではないんだが」
こちらが嘘をついているとは思っていないようだが、やはり簡単には受け入れられないようだ。
「会話はできるのか?」
「従魔契約をした相手とは会話できるようになるそうだ。それ以外の相手については、わたし達の言語自体を勉強することで理解できるようになるらしい」
「では、そちらのホワイトフォックスは俺たちの言葉はまだ理解できないのか。その割には大人しいが」
「魔獣同士では会話できるということで、レーリー……メイリンの従魔が通訳している」
「なるほど、確かに会話しているようにも見える」
シラバタスさんが、丁度レーリーとドロテアが顔を向き合っている様子に目を向けた。
ちなみにこの時は、レーリーはドロテアに鼠の牙のメンバー紹介と傭兵についての説明をしていた。
「とりあえず全部すぐに信じられるというわけじゃないが、他でもない殿下からの説明だ。今後はその言葉が真実だという前提で動こう」
その言葉にほっとする。
もしも彼らがレーリーたちの話を疑ったとしても、彼らは陛下からの指名依頼でわたしたちの護衛任務を務めているから、今更辞めることはしないだろうが、それでも一緒に行動する上で疑われたままというのはいたたまれない。
ここでの任務も大体終わったし、最後の一か所も問題なく終わればいいんだけど。




