第七話~最弱職には可能性があるようです~
五歳になった。
これまでの二年間では、サラ以外にももう一人友達ができた。
イサクという狡猾な少年で、武器屋の息子らしい。
なんというか、態度のでかいやつだった。しかし、常に強気のサラには頭が上がらないらしく、サラと対等でいる俺と接触することで、サラへの苦手意識を払拭するのが目的だそうだった。
いわば、サラがジャ○アン、イサクはスネ○といったところだろうか。そう考えると。俺はあのどら焼き大好きのネコ型ロボットになり、ライトはのび○ということになりそうだな。尤もライトはあのメガネボーイと違って、すこぶる優秀なのだが。
…………いや、ちょっと待てよ。大変重大なことに気づいてしまった。
この村には、唯一の、華である、し○かちゃんの枠の女の子がいないじゃないか!
華が無い環境だと?そんなことは許さない。俺はジャイ○ンに恋するのではなく、しず○ちゃんに恋をしたいのだ。
早急にヒロイン枠を見つけねばならない……。
だって、サラって見た目は華麗だけど、まだ五歳だから将来の容姿ことはわからなし、がさつで、暴力的なんだもん。ドラ○もんである俺にさえも、時々暴力をふるってくる女の子だよ?
思い出してくれ。あの国民的アニメで、ドラえ○んに暴力をふるうキャラなんていたか?
否。いないはずだ。
サラ、君の暴力性はジ○イアンをも超越してしまっているんだ。そんな子をヒロインだとは認めない。
「リヒト、お願いがあるって言っていたけど、どうしたの?」
おっと、現状一番ヒロインっぽいミレーヌだ。確かに、この美人はヒロインに値するヒロイン力を備えているけど、男持ちだもんなぁ……。なんてことを両親に対して考えるなんて、親不孝者なのかな、俺は。
「……どうしたの?お母さんの顔をジロジロ見て」
「お母さんは綺麗だなって!」
「もうっ、そんなことどこで覚えてきたのよ」
容姿というのは、子に褒められても嬉しいものなのか?
「それで、お願いってなーに?」
「ああ、うん。お母さんに魔術を教わりたいなって!」
剣術はここ二年で一端の剣士を名乗れるレベルには達したらしいから、次は魔術かなと。型が無くても剣術が使えたのなら、魔術が使えたっておかしくはない。もちろん剣術の鍛錬を怠るつもりはないが。
「え、で、でもリヒトは剣士よね?」
「いや、俺は型無しだよ?」
「それはそうなんだけど……」
「ダメかな?お母さん……」
「い、いえ!いいわよ。教えてあげる」
「ありがとうお母さん!」
こうして、俺は渋々といったミレーヌから魔術を教わる約束をこぎつけるのに成功したのだった。
それにしても、子供のおねだりって効果的だなぁ。
× × ×
「《舞え、深紅の焔よ》」
ミレーヌから教わった火属性七級魔術【バーンフレア】の詠唱を紡ぐも、俺の手元に火が現れることはなかった。
その後も、四大属性と呼ばれる地水火風の七級魔術の詠唱を教わったが、俺にできそうな魔術は風属性だけのようだった。
なんでも、才の有る杖型の紋証を持つ者でも、二属性を扱えるのが精々という程度らしく、四大属性すべてを使いこなすミレーヌは才女と呼ばれていたらしい。
四大属性以外にも、そこから発生した氷、雷、また光や闇の属性もあるそうだが、それらは四大属性よりもさらに扱うのが難しいんだとか。回復魔法は光や闇の属性という扱いらしく、ミレーヌは簡単な回復魔法なら使える。
「《貫け旋風、巻き起こせ》」
唯一、感覚のつかめそうだった風属性の七級魔術【シルウィンド】の詠唱文を口にすると、体内の魔力が活性化し、指先に力が集まってくるのを感じた。
イメージは剣だ。魔力を風に、風を剣にするイメージ。その風剣で狙った獲物を仕留める。
そう考えながら俺は魔力の集結した右手を、振りかざす。
すると、振りかざした目の前の空間に視認できる鋭利な旋風が見てとれた。円形に無数の旋風が何かを引き裂いているようだった。そこに手を突っ込めば、まず間違いなく散り散りに切断されることだろう。
試しに、その円形の旋風に石ころを投げ入れてみると、次の瞬間には砂になって辺りに散っていった。
ほう。魔術って恐ろしい。
俺には魔術の才能はあまりないらしいが、風の魔術だけは剣術に似ているからか使えた。というのも、火も水も地も、感覚がまったくわからないのだ。故に使えない。
どうイメージすればいいんだよ、何もないところから水やら火やらを出すって。
仕方ないよな。俺が長く生きていた世界では科学というものが発展していたのだから。魔術なんて非現実的なことを具体的にイメージなんてできようもない。
「…………リヒト、今ちゃんと【シルウィンド】の詠唱をしたのよね?」
「え?うん。そうだよ?」
「【シルウィンド】という魔術はね、身体を保護する風を発生させる魔術なの。間違っても攻撃魔術なんかじゃないのよ?」
「……え?」
いや、そういわれても、明らかに危険そうな旋風が発生してましたけど?あれのどこが補助魔術なんだ?身体強化された感覚とかなかったけど。
「…………今使った魔術は三級風属性魔術の【スラシュゲイト】という危険魔術の一つよ。規模は小さかったけど、あの破壊力なら間違いないわ。危険魔術は国家から禁止令が出されているから、使える人はこの国には王直属の宮廷魔術師くらいしかいない。なのにどうして……」
魔術でも、俺はイレギュラーを発生させてしまったらしい。
……ふむ、この世界のシステムがわかってきた気がする。
七級魔術の詠唱で、禁止されている魔術を発動させた五歳の型無し。それも剣術までもを使えるというのだから、この世界の住人であるミレーヌにはさぞかし信じられないことなのだろう。
俺としては、型無しで剣術が使えたのなら、魔術も使えるはずだと思っていたから、そんなに驚きはなかったのだが。
まあ詠唱したのと違う魔術が発動されたことについては、多少は驚きもあったが、納得のいったこともあった。
この世界、先入観というか、固定観念というか、決まりみたいなものに縛られ過ぎているんだ。
魔術は、その魔術のイメージができなきゃ発動されない。逆にイメージできればどんな詠唱だろうと、どんな魔術でも発動できる。きっと無詠唱なんてこともできるんだろう。
もしかしたら、型無しは成長が遅いだけで、型に嵌まることのない型なのかもしれない。剣の紋証の人は剣術しか使えないけど、型無しの人間は成長さえできてしまえば、剣術だろうと魔術だろうと、どんな術でも扱うことができる。
そんな可能性に思い至った。
俺がそれを証明できるから。
この世界の住人は、頭が固すぎるんだ。
自分の可能性を、自ら潰してしまっている。
とりあえずは、剣術や魔術に限らず、他の術も教わるべく、村の人々に色々と聞いて回ろう。
そうすれば、この仮説は確信となるはずだ。
「お母さんありがとう!魔術のことは何となくわかったよ!」
「え、ええ。なら良かったわ……」
よし、今から行動開始だ。村を回って型有りの人を見つけ次第声をかけてみよう。
最後に「剣術も魔術も使えるなんて、まるでヒカル様のようね……」という動揺したミレーヌの声が聞こえた。
ああ、一周目の時は魔法剣士でプレイしていたんだっけな。