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第四話~二周目特典を忘れていたようです~

 

 そうして、三年が経った。

 三歳にもなると、動くことに不自由はほとんどなくなっていた。

 前世との身長差に最初は戸惑っていたが、毎日歩いていれば慣れるものである。


 それにしても、前世の母国である日本を基準にするなら、もう幼稚園に入園の歳だからな。なかなか成長したもんだ。

 成長の早かった俺と、そんな俺にひっついていたライトは、既に走り回れるほどに成長していた。


「ライト、今日から剣術の鍛錬を始めるぞ。三歳では少し早いが、ライトの才能は父さんが見抜いた。だから三歳になった今日から始めることにする」


 父クラッドはそう言った。

 どの型でも術を教わるのは五歳からというの普通らしいが、どうやらクラッドはライトの活発さに期待していて、少々気が早くなってしまったようだ。


 ライトは奔放な俺に振り回されていただけで、実際は活発などではなく、むしろ内気なくらいなのだが、あの父親は子供のどこを見ているのだろう。

 爽やかな容姿をしつつも、その中身は熱血だというのが、ここ三年間で俺がクラッドに抱いた印象だった。

 でも剣術か、そうか。ついにファンタジーが間近に迫っているということだな。

 ……って、あれ?俺は?


「父さん、俺も剣術習いたい!」


 目をキラキラさせている子供を演じながら、俺はクラッドに頼む。

 これはあれだろうか。幼稚園生になった子が、初めてサッカーとかの習い事を始めようとした時の気持ちがこんな感じなのだろうか。


 でも、俺は楽しむために習おうとしているわけではない。

 いつかは白亜の巨塔を踏破しなきゃならないんだ。たとえ型無しで戦闘能力に期待できないとしても、子供のころから戦いというものに慣れておきたい。


 なにせ二十年も平和な国で暮らしていたんだ。今のうちに平和ボケの感覚を無くしておくべきだろう。

 この世界に来たあの時、コボルトに囲まれて恐怖で気を失ったあの時、あの瞬間の死への恐怖が、俺を強くしようと掻き立てる。

 当面の目標は、トラウマになりつつあるコボルトの討伐だな。


「リヒトもか?しかしなぁ……」


 そう言いつつ、クラッドは俺の右手を見やる。


「確かに俺は型無しだけど、仲間はずれは嫌なの!」


 それらしい理由をつけて尚も頼み込む。

 というのも、型無しは身体能力が低いため、型有りと鍛錬をしていると、怪我をすることが多いらしいのだ。型有りが力加減を誤って。

 親としては、子に危険なことはしてほしくないのだろう。将来戦うことが決まっているような型有りの子(ライト)は例外として。


「僕も、兄さんと一緒がいい……」


 思わぬところから助け舟が出た。何かと俺に懐いているライトの言葉だ。


「まあ、ライトがそう言うなら止めはしないが……。でもなリヒト、頑張ってもいいが無理だけはするなよ」

「うん!」


 頑張ってもいいけど無理はいけない。それはクラッドのよく言う言葉だった。親からの教訓とでも言うべきものなのだろうか。忘れずに覚えておこう。

 俺とライトとクラッドは、それぞれ木刀を持って、いつもクラッドが素振りをしている庭へ向かった。


 初めての鍛錬が始まった。

 と言っても、最初は体作りからだ。走り込みに素振り。その程度だ。

 しかし、始めて一時間もしないうちに、思わぬ結果が出た。


「はぁはぁ……はぁ……」


 肩で息をしているのは、俺の隣で膝に手をつけているライトだ。

 俺はというと、余裕というわけではないが、まだまだ動けそうだった。


 その結果が、クラッドにとっては予想できなかったものらしい。

 なんでも、幼少期から型有りと型無しでは身体の成長に著しい差ができてしまうんだとか。ハイハイができるようになるのも本来は型有りの方が早く、それからは差がついていく一方らしい。

 まあ型有りと型無しには五倍の成長の差があるって言うしな。五歳の型有りと二十五歳の型無しが、同レベルってことだもん。


 でも俺はその事実を覆した。

 五倍ってことは、単純計算で十五歳にもならなきゃ今のライトには勝てないってことになるが、既に体力という面で俺はライトに勝ってしまった。前世では体力に自信無かったんだがな。


 そこで、ふと、三年前のある事を思い出した。


「成長が五倍……俺がライトに勝てた……」


 その事実を踏まえた上でのことだ。

 ――獲得経験値が二倍になるとか、一周目の所有物を引き継げるとか、そんなんだったかな。

 この神様の言葉。二周目の特典だ。

 すっかり失念していた。たしか、便利な特典をすべて持って二周目に入ったんだよな。

 というか、多分この経験値の特典、二倍どころじゃないぞ。五倍を確実に超えてる。事実、俺はライトよりも随分体力があるみたいだし。


 俺がこの世界で戦える可能性があるということに気づいたところで、今日の鍛錬はおしまいになった。

 その夜、父は俺とリヒト二人の子供にこの世界での伝説を話してくれた。

 子や弟子が戦いを志した初日に、師が目指すべき伝説を話す風習があるのだとか。

 父の話す伝説は俺のよく知る話だった。


 ヒカルという名の魔法剣士が、様々な仲間と共に、白亜の巨塔の最上階まで踏破し、この世界に恩恵と安寧をもたらしたと。その伝説のパーティーに関わりのあったクラークという剣士が、クラッドの祖父であると、そんな話だった。


 なるほど。俺がゲームでプレイしてクリアした一周目のことは、この世界の伝説として語り継がれているわけだ。

 それにしても、伝説のパーティーのリーダーとして、前世の俺の本名が語り継がれるなんて、これほど恥ずかしいことはない。実名でプレイしていたのをはじめて後悔した瞬間だった。

 ちなみに、クラークという俺の曾祖父にあたる人物は、一周目で白亜の巨塔の内部にて、アイテムの補充などをしてくれた便利屋のことだ。世間とは随分と狭いものだな。


 それにしても、特典か……。神様には詳細を聞いていないが、経験値以外にも何やら沢山あるわけだよな、便利なもの全部なんだから。

 とりあえず判明しているのは、三年前に言っていた経験値増加と、所有物の引き継ぎだ。

 経験値は実感できたからいいとして、所有物だよな。もしかしてこのアーヴィン家の倉庫とかに眠っているのだろうか。それとも、旅の道すがら必ず手に入るようになっているのだろうか。

 まあ、どちらにしても、いつかは手に入るということだ。何も焦ることはない。


 今日判明したことは、この世界には経験値という概念は存在するが、経験値をゲームのように数値などで目視することはできないということだ。

 考えてみれば当たり前だよな。ゲームの中の登場人物は、自分の獲得した経験値なんかわからないもんな。わかるのはゲームをプレイする側だけで、今の俺はゲームの中の登場人物だということだ。

 それがわかっただけでも大きな収穫だ。


 経験値が数倍化しているなら、俺にも戦える可能性がある。この世界は努力を裏切ったりしないんだ。

 後は、型無しの俺が、術を使えるかどうかが問題だよな。

 型無しはどうやっても術が使えないのか、それとも術を使える強さまで成長した型無しがいないのか。

 そこを検証する必要がある。




 そう思っていたが、俺は半年足らずで一番簡単な剣術、七級剣術の【加速斬(アクセラレート)】を習得した。何でもかんでも反射してしまいそうな名前の術が、初級だそうだ。あちらの世界では最強なのに。


 クラッドは顔を引きつらせるしかないようだった。

 ライトよりも早く剣術を習得した、得体の知れない型無し。そう映っているのかもしれない。


「な、なあ、リヒトって型無しだったよな?」

「そうだよ!でもできちゃった」

「できちゃったって……。しかも半年で……。早くても一年はかかるんだぞ?父さんのおじいちゃんは、伝説のパーティー《光集う者達(ディセンド)》と共闘したこともある偉大な人だったけど、そんな人だって初めて剣術を使えたのは六歳の頃だって……」


 どうやら、クラッドの頭の中では、誇りある曾祖父を超えてしまった型無しの息子という存在を、受け入れるのに苦労しているみたいだった。


 しかし術というものの破壊力は凄まじいものがある。

 いつものように素振りをしていたら、ふと「あれ?なんかいけそう」なんて思えて、いつもの素振りに、腰の捻りを加えて思い切り木刀を振ってみただけなんだが、結果素振りしていた真下の地面に、小さなクレーターができた。


 あれが剣術だったんだろうな。剣閃に力が宿るというか。木刀は地面に触れていなかったのだが、突如発生した強い力で、地面が抉られてた。

 体の芯にある力が吸い取られて、その力が動きを手助けしてくれるって言えばいいのかな。


「リヒト、剣術使った時、魔力が減った感覚はあったか?」


 魔力と言われてもわからない。吸い取られたように感じた力のことかな。


「なんか、力が吸われるような感覚はあったかな」


 そういうと、更にクラッドは信じられないといった表情を張り付けていた。

 この世界は、魔術だけでなく、術にはすべて、魔力を消費するんだとか。だからこそ腕力だけでは生み出せないような衝撃波が出せたりする。まあ、何もないところから火やら水やらが出せるなら、剣からあり得ない程の力が出たって、何も不思議じゃないよな。


 しかし、問題なのは、俺に魔力があるということらしい。

 というのも、型無しが術を使えないのは、単純に魔力が無いからだと考えられているという。

 そう考えれば、クラッドの反応も理解できるか。

 でも俺は、型無しといっても成長速度が遅いだけで、魔力が無いわけじゃないんだと思うんだ。だってファンタジー世界だもん。みんな魔力を持ってるよ、きっと。

 まあ、俺の場合は、神様から二周目の特典ということで頂いた魔力なのかもしれないけど。

 これは、型無しの人間の生態をいつか調べる必要があるかもしれないな。


「ご飯できたわよー」


 ミレーヌの言葉で、今日の鍛錬は終了となった。

 明日からは、剣術を連発してみて、魔力が自分の体にどのくらいあるかを確かめてみよう。

 どうせ異世界ファンタジーなんだから、魔力総量みたいなものがあるんだろう。だったら、今のうちから魔力量を増やして、最強主人公を目指すのも、悪くはないな。まあ、この世界の主人公が俺だとは限らないが。

 でも転生してきたんだから、特別な立ち位置にはいるんだと、期待しておこう。


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