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第三話~成長しているようです~

 この世界に来て、だいたい一ヶ月が経った。

だいたいと曖昧なのは、陽が落ちる回数を数えてはいるんだが、なにせ赤ちゃんなので、メモをすることもできず、自由に動き回ることも会話もできない為、記憶が正しいかが分からないからだ。


 この一ヶ月で知ったことは多かった。

 まずこの世界は広いということ。目的地である白亜の巨塔は、この家から馬などを乗り継いで最速でも四年はかかるみたいだ。


 次に、この世界はやはりファンタジーの世界らしい。

 毎日木刀で素振りをするイケメンに、何もないところから水やら火やらを出して料理を始める美女。そんな生活が当たり前だった。


 あと、この世界のベースが『白亜の巨塔』という日本のゲームだからか、言語は日本語みたいだった。ただ、発音も意味も日本語と全く同じなのだが、文字だけはよくわからない表記みたいだ。

 そうそう。会話を聞いていてわかったのだが、あの美女とイケメンは夫婦であるらしく、俺のことを親として責任を持って育ててくれるらしい。ありがたやありがたや。

 ついでに俺にはリヒトという、なんだかかっちょいい名前が付けられた。


 それと、その二人には一人子供がいた。というか、俺がこの家に拾われた直後、俺が気絶している間に子供が生まれていたらしい。金髪の男の子だ。ということは、血は繋がらなくとも、俺とは双子の兄弟になるということだ。本当は女の兄妹を望みたいところだが、まあ男であっても仲良くしよう。一応俺の方が二十歳も年上のお兄ちゃんだからな。


 ここで俺の新しい家族を紹介しよう。

 我が家の大黒柱、イケメンこと父親の『クラッド・アーヴィン』二十六歳。

 俺もこんな人を嫁にしたい、美人マザーの『ミレーヌ・アーヴィン』二十三歳。

 金髪碧眼は母譲り、将来有望な俺の双子の弟『ライト・アーヴィン』〇歳。

 珍しい灰色の髪をした純朴紳士こと、俺『リヒト・アーヴィン』〇歳。

 この四人家族だ。


 どうやら、俺は転生だからか容姿もまるっきり前世と変わったらしい。転移だと変わらないのかな?

名前もひかるからリヒトに変わったが、まあ郷に入りては郷に従えと言うしな、ここは異世界の趣を堪能しよう。


       ×       ×       ×


 この一ヶ月でアーヴィン家への来訪者は多かった。

 皆が皆ライトの顔を見に来ていたから、この世界には生まれた子の顔を、知り合いが見に来る風習とかがあるのだろう。

 俺は血が繋がらないからか、あまり表には出されなかったが、それはしょうがない。我が弟のライトに任せよう。


 その間に俺は、親の目が無い時には言葉を発する練習をした。

 最初は「うぎゃー」としか言えなかったものが、一ヶ月も経つと「うあー」と言えるようになった。この調子でとりあえずは、あいうえおと言えるようになってしまおう。会話をするのは大切だからな。




 三ヶ月が経った。

 今回は正確に三ヶ月だ。

 なにせ、両親がそう言っていたからだ。

 と言っても、その両親は現在、目を丸くして顔を引きつらせているのだが。


「どう、した、の?おとう、さん、お、かあ、さん」

「え、あ、いや、少し驚いてしまってな」

「え、ええ。まさか三ヶ月で言葉を発するなんて。ハイハイもまだしていないのに」


 そう、喋れたのだ。まだ随分片言ではあるけど。

 あいうえおを言えるようになってからは早かった。なにせ発音の仕方を知っているのだ。声帯が機能すれば喋ることくらいできる。

 ちなみにハイハイはできなかった。筋肉が未発達なためだろう。匍匐前進もどきなら軽くできたが、すぐに体力は尽きた。これは、生後二ヶ月の時点で筋トレする必要を感じたな。そうすれば少しは早く立って歩けるようになるだろう。なにせ赤ちゃん生活は暇なのだ。早く歩きたい走りたい。


「おとう、さん、おかあ、さん、だーいすき」


 俺は子供っぽくそう言うと、両親は泣いて喜んだ。今にでもうちの子は天才児だと、近所のおばさんに自慢しに行ってしまいそうなほどだ。


「それにしても、生後三ヶ月でどうしてこんなに言葉を知っているんだろうな」

「確かにそうね。私達はまだ何も教えていないのに」


 ……盲点だった。赤ちゃんが言葉の意味を明確に理解することはできまい。

今の俺って文法を理解して話している生後三ヶ月の赤子に見えるんだもんな。天才というか、そんな赤ちゃんがいたら俺は恐怖するね。


「おかあ、さん、と、おとう、さん、が、よなか、そう、いってるの、きこえた、から」


 ベッドの軋む音と共にな。情熱的な営みは円満な夫婦生活の証だ。結構結構。


「…………」

「…………」


 それから一週間は、ミレーヌの喘ぎ声が聞こえてくることはなかった。




 一年が経った。

一年、である。俺はもう歩けるし喋れる。足取りはおぼつかないが、今は階段に上る練習をしているため、自由に行動できるようになるのは目前だ。

 弟のライトも、もう立ってはいる。もうすぐ歩き出しそうだ。


「そうですか、もう二人とも一歳になるのですね」


 今日は俺たちが暮らすこの村、タウム村の村長が、アーヴィン家に訪れていた。気の良さそうなおじいさんだ。

 一歳にもなると、来訪者はほとんどないため、俺もライトと一緒にミレーヌの傍で村長の話を聞いていた。


「ライトくんは剣型なのですから、将来に期待してしまうでしょう。やはり血筋なのでしょうかね」

「そうですね。ですが、リヒトの方もとても活発的で賢いので、将来は大物になるに違いありませんよ」

「ほっほっほ。それは楽しみですな」


 俺はいつも、親と誰かの会話を傾聴している。この世界についての情報収集だ。そして、度々その『剣型』という言葉が会話に出てくるのだが、どうやら『剣型』とは弟のライトのことを示しているようなのだ。

 それはどういうものかと両親に聞いたところ、この世界の重要なことについて教えてもらうことができた。


 この世界には、紋証(ヴェータ)と言うものを持つ人間がいるらしい。紋証とは利き手の甲にある痣のような模様のことを言うらしい。

もっとも、紋証を持つ人間は世界の人口の三割程しかおらず、希少であるらしい。らしいらしいばかり言っているが、それは俺が紋証を持っていないから仕方のないことなんだ。


 紋証を持つ者はその紋証の型に応じて術を使えるという。父のクラッドは剣の型の紋証を持っており、剣術を使える。母のミレーヌは杖の型の紋証で、魔術が使えるのだとか。槍の型なら槍術、盾なら守術、拳なら拳術、などなどあるらしい。それを縮めて剣型、杖型、槍型と呼ぶ。

 また、剣型の人はどうやっても他の型の術を使えないし、他の型も然りだそうだ。もちろん型を端から持っていない人は、何の術も使えない。そういった人のことを『型無し』と呼ぶ。ある種の蔑称とも言えるな。


 術に限らず、型を持つ人と持たない人では、身体能力もかなりの差があるらしく、型有りの一年の鍛錬と、型無しの五年の鍛錬の成果はほとんど同じなのだとか。単純に五倍の差がある上に、型無しは術を使えないとなると、そもそも型無しは戦うことを諦めるのが一般的になってしまったみたいだった。

 型が有るのとないのとでは、戦力に圧倒的な差ができ、型の無い人間は農民やら商人やらになって、型のある人を支える仕事に就くのだそうだ。戦える者は弱い者を守り、弱い者は戦える者を支える。実に道理だ。


 故に、型を持たない俺は何の術も使えない。戦い弱い。冒険できない。この世界クリアできない。はい、詰んだ。

 そうやって一度絶望した時代が俺にもありました。

 型は遺伝する可能性を秘めているそうで、ライトにはしっかりと父クラッドの型が遺伝したらしい。だから、俺は神様の力でも遺伝されているのを祈ることにした。


「ライトは、いいな。剣型に生まれて」


 転生者が最弱職って……。やっぱり悲しい。


「……にいさん」


 おお。弟が初めて喋った。俺のことを呼んだのかな?

 ミレーヌも驚きつつもライトを褒めていた。


 こうして、俺とライトは著しい成長を遂げていった。


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