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第二話~ここは異世界のようです~

どれくらい眠っていただろうか。

 寝過ぎていたせいか、体がほとんど動かない。金縛りってこんな感じなのかな。


「ん、ん……」


 瞼を通して光が伝わってきた。部屋はカーテンを閉め切っているため、昼間であろうとかなり暗く、目を閉じていたら明かりなんてわからないはずなのに、なぜか視界は瞼が透き通った時の、赤っぽい眩しさを感じた。だから警戒しつつゆっくりと目を開ける。


(まぶしっ!)


 陽の光が直接、俺の視界を焼き付けた。あまりの眩しさに失明するかと思ったぞ。

 ただ、相変わらず体は言うことをきかずに、自由に動かせない。

 動かせるとしたら、手足を少しと視線くらいのものだ。起き上がることすらままならない。


 明るさになれた視界は、次々と情報を俺に与えてくれる。

 雲ひとつない晴れ渡る青空。生い茂る背の高い木々。そして、右には…………、人の子供のような大きさの青い体を持ち、俺の知っている愛嬌のある顔ではなく、おぞましく獰猛な笑みを浮かべる犬の顔を持った生物の集団が、俺の方をニヤニヤと見つめていた。


「うぎゃあああああぁぁぁぁぁあ!?」


 俺はまるで赤子のような悲鳴を上げながら、逃げ……られなかった。体は未だに動かない。

 ……赤子?

 自分の思考に引っかかるものを感じながらも、現状の情報の処理に追い付けず、俺は気が動転して再び意識を手離した。


 意識が飛ぶ寸前に、視界の端で一人の男がその正体不明の生物の集団に飛び掛かるのを見た、気がした。


       ×       ×       ×


 意識が戻る感覚があった。しかし、すぐには目を開かない。

 先程の光景が脳裡に染み付いているからだ。

 怖かった。初めて本気で死を覚悟した。さっきのあれはなんだったんだろう。あんな生物現実では見たこともない。いや、何となくは想像つくんだけどさ。


 でも意識が戻ったということは、ここが死後の世界とかではない限り少なくとも死んではいないんだと思う。俺のエンジェルはまだビーツしていないはずだ。

 なので、徐々に目を開ける。


 視界には丁度いい照明の光と、木目のある天井が映った。

 右には、先程の獰猛な生物とは似ても似つかない、木製の椅子に座って読書に耽る金髪碧眼の美女がいた。やばい美しすぎる。何あの人、女神なの?え、俺本当に死んじゃったの!?


 いや、うん、もう何となく察しはついてるんだよ、現状にはさ。


 俺が目を覚ましたことに気づいた女神は、嬉々とした表情で誰かを呼んだ。


「クラッド!例の子が目を覚ましたわ!」


 うーん。白人系美女が流暢な日本語を扱うって、なんかものすごい違和感。でも、知らない言語じゃなくてよかったかな。意味が分からないんじゃ、元も子もないからな。

 少しして、黒髪のイケメンがやってきた。美女に促されて俺の方を覗いてくる。


「本当だ。良かった、無事に目を覚ましてくれて」


 あ、この人、さっき俺の窮地に飛び込んできた人だ。きっとこの人が救ってくれたんだ。さすがイケメン。礼を言わなくちゃ。


「うぎゃあー」


 ん?上手く言葉を発せられない……。うぎゃあって、赤ちゃんでもあるまいし。

 ……え?もしかして。


 そう思っていると、美女は俺の方に手を差し出し、そのまま俺のことを持ち上げた。

おいおい、俺って見た目はひょろひょろだけど、実は結構重いぞ、大丈夫か?


「よーしよし。泣けるんだったら大丈夫そうね」


 いや、まさかな。俺がそんなはず……。だって俺はもう二十歳だぞ?大学の長期休みに半引きこもりになっていた健全な男子大学生だぞ?


「この赤子、どうしようか」


 イケメンが、何とも無しに俺の危惧していたことを言ってのけた。

 おいおいおいおい。嘘だろ……。これって巷で噂の、転生というやつですよね、はい。


 既にここが、俺の元いた世界とは違う場所、俗に言う異世界だということは分かっていた。

 美女に持ち上げられたことで見えた窓の外。緑豊かな景色のそのずっと先には、天を穿つかのような、真っ白な塔があったからだ。

 そう。俺が先程までプレイしていたはずのゲーム、その『白亜の巨塔』が、佇んでいた。

 あれを見て、瞬時に理解した。俺はあの自称神様に、このゲームそっくりの世界に送られたのだということを。


 これが、二周目、ということか……。


 まあいい。今どうこう考えていても赤子の俺には何もできやしないだろう。もとより、ゲームラノベ大好きな、現代の日本男児だ。こんな機会、不安よりも好奇心が勝るというもの。

 今はとりあえず、美女に抱かれながら、全身に押し付けられた豊かな胸の感触を楽しむとしよう。

 ぐへへ、最高だぜぇ。


「それにしても、どうしてコボルトの祭壇に、人の子が祀られていたんだろうな。普段はコボルトに村人を襲わないようにと、食料の貢物をするくらいなのに」


 そのイケメンの言葉を聞いて、思い出した。神様に頼んでいた自分の言葉を。


 ――勇者再誕の儀式をしているところに、偶然主人公が登場して、勇者が降臨したぞ!なんて勘違いで注目されて騒がれるところがいいです。


 なるほど。俺はコボルトの勇者再誕の儀式に突如登場して騒がれていたんだな。

 ……あの自称神め!こんなシチュエーション、誰が望むんだよ!勘違いで注目される?あんたが勘違いしてどうする!普通に考えて人間だろ!


 どうやら俺は異世界に転生したらしい。原因は分からないが、どうせあの神様が何かしたに違いない。

 まあ、夢見ていたような世界にやってこられたのは感謝すべきところではあるが、こういうことは事前にきちんと教えてほしかったものだ。


 そんな風に今回のことを頭の中で整理していると、突然の眠気に襲われた。

 さっきまで寝ていたにも関わらず、まだ眠いだなんて、赤ちゃんの身体はとても燃費が悪いらしい。赤ちゃんの脳の発達では、このくらいの思考時間が限度ということなのだろうか。

 そう思いながらも、俺は理不尽な睡魔に抗えずに、眠りに落ちた。


『いやあ、ごめんごめん。キミはシチュエーションにこだわりがあるみたいだからなんとかして望みを叶えてあげようと思ったんだよ。でも世界中で勇者再誕の儀式をやっている場所は、キミが転生するタイミングではあそこしかなかったんだ』

「俺の為に探してくれたんですね。ならありがとうございます。何も責めたりしませんよ。俺の説明も不十分だったからお互い様です」


 普通、人間の勇者だということはわかるとは思うけど。


『そう言ってくれると助かるよ。…………それでね、ひじょーに言いづらい事があるんだけど』

「なんですか?」


 もう既に異世界に来てしまったのだから、何もかもが今更だとは思うが。


『キミはこの世界で、白亜の巨塔を踏破しなきゃならないんだけど、その、キミの願いを叶えようと思って転生させたら、白亜の巨塔からとてもとーっても遠いとことに産み落とされちゃったみたいなんだ』

「まあ、そうでしょうね。あの塔、かなり遠くに見えましたから。でもどうせ今は赤ちゃんですし、時間はたくさんあるから大丈夫なんでしょう?」

『それは、そうなんだけど……。でもここって地球と比べたら圧倒的に過酷な世界だから、塔に辿り着くことすら大変だと思う。すごい、難易度が上がっちゃった……。だからごめんね』


 なるほど。それは大変だ。けど、異世界を冒険ってのも、憧れの一つだし、いいっちゃいいんだよね。大学の出欠での単位は心配だけど、大学で学べることよりも、過酷な地での旅の方が、学べることが多いと思うんだ。だから、別に構わない。地球には会えなくて寂しくなるような友達なんかいないし、家族も、まあ大丈夫だと思う。悲しい事実だ。


「大丈夫ですよ」

『えっ……!』

「俺は気にしません。この世界を楽しみますよ」

『……そっか。ありがとう。じゃあまた、いつかキミに会いにくるよ』

「はい。神様も達者で。……あ、そうだ。言われたとおりに、最初は仲間を見つければいいんですか?というか、異世界転生なんて聞いてなかったんですけど」


 しかし、俺の問いへの返答はなかった。

 そんな、夢を見た。


二話目にして異世界到着です!

第一章は基本的にほのぼのしていて、二章から冒険ファンタジーし始める予定なのでご了承ください。

本作はエンディングを知るための物語ですが、まだ確固としたエンディングは決まっていません。なので、これから物語が進むにあたって、皆様のご意見やご希望が物語の進む道を決めていくと思います。たくさんの意見をお待ちしております!

あなたの理想・希望が、物語の結末に繋がる……。なんつって。

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