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第一話~二周目があったようです~

「ふぅ……。噂に違えない、締まらない終わり方だった……」


 俺はたった今、巷で噂になっているというRPGゲームを一通りクリアし、達成感とモヤモヤ感とを同時に味わっていた。


 このゲーム『白亜の巨塔』は、題名にもなっている白い塔を、物語上の仲間と手を組んで一階層から次々と踏破し、辿り着いた者の願いが叶うと言われる塔の最上階を目指すという内容だ。

 ただ最上階を目指すだけでなく、アクション要素や、恋愛要素、主人公の挫折や成長などといったお約束がこれでもかと詰め込まれた、完成されたRPGゲームだったのだ。

……最後以外は。


というのも、ラスボスを倒した後のエンディングのせいで、このゲームはリドルストーリーと呼ばれる類の物語と化してしまったのだ。

リドルストーリーとは、作中に示された謎に明確な答えを与えずに、結末を読者の感性に委ねる物語のこと。要は、確立された結末が用意されていなかったのだ。ほんと、惜しいことをしたよ、製作スタッフの方々は。


――――最上階で主人公が目にしたものとは――――

みたいな、次期のアニメに続くような終わり方されたからな、エンディングで。


リドルストーリーがダメってわけじゃないんだ。ただ、RPGゲームなんだから、世界を救ったのならそういう描写が欲しいし、魔王に屈したとしてもそれなりのオチが欲しいってだけなんだ。


「あーあ。結末見てみたいなあ。最上階には何があったんだろ。主人公の亡くなった妹を生き返させるって夢は叶ったのかなあ」


 ゲームの長時間プレイのせいで凝り固まった身体を伸ばしながら、そんなことをボヤく。

 夢の中でいいから、物語の続きを見られないかな。なんて思いながらベッドに潜り込もうとした時、いきなり触ってもいないゲームの画面が切り替わった。丁度エンドロールが終わったからだろう。


 そこには、


【二周目をプレイしますか?】

 ・YES

 ・はい


 と表示されていた。


「二周目?このゲームにそんなやり込み要素あったっけ?」


 攻略サイトを見るも、二周目があるなんてことはやはり書かれていない。

 まだ、発売して日が浅いから情報が出てないのかな?

 まあ、何にしてもやり込み要素があるのはとてもありがたい。もしかしたら二周目にはちゃんとしたエンディングが用意されているかもしれないからな。


「それに、こちら側には拒否権なんてないみたいだし。なんだよ《YES》か《はい》って。色々ふざけすぎだろ、このゲーム」


 面白いからいいんだけど。


 そして俺は、何の躊躇いもなく、期待を胸にYESを押した――その直後。

 部屋の中央に敷いている円形のカーペットが突如光り出した。

 カーテンが閉ざされた俺の部屋は、唯一ゲームのライトが頼りというほどに暗い為、その光にはすぐに気がついた。


 青く蒼く碧く光る不思議なカーペットを捲ってみると、光っていたのはカーペットではないことに気がついた。

 部屋の床に何やら線が描かれていて、それが光っているみたいだ。

 ってあれ、これって俺が昔、蛍光ペンで書いた魔方陣じゃん。結構出来が良かったから消さずに残しておいたけど、まだ残っていたんだな。まるで忘れてた。


 そう思考を巡らせているうちに、その光は更に力を強める。


「なんか召喚されたりして」


 某エロゲ原作の傑作アニメを思い出してしまうような光景だった。だって、長年隠れていた魔方陣が起動し始めているんだぞ?


「いきなり金髪の甲冑美少女が現れて、『問おう、貴方が私のマスターか』なーんて言ってきたらいいのにな」


 思考が目の前の出来事に追いつかず、夢物語を想像してしまう。


「というか、これ本当に現実?ゲームのやり過ぎで寝落ちして夢の中、なんてことはないよな……?」


 そう思った次の瞬間、俺の視界は、白に覆われた。

 続いて浮遊感に似た感覚が俺の全身を支配する。なんと表現すべきだろう。現実が遠のいてゆく、とでも言えばいいか。


 すぐに意識は現実から切り離され、俺は白の世界に幽閉された。

 気を失ったとかそういうわけではない。いきなり夢の中に入ったという感じだ。こういうことを白昼夢と言うんだろうか。


『……もし……きこ……て……か……』


 何もない白の世界に音が生まれた。誰かが何か喋っているようだ。


『……もーし……こえて……すか……』


 徐々に声は鮮明になる。

 おそらく、誰かが俺のことを呼んでいるんだと思う。


『……もしもーし、聞こえてますかー』

「はい、なんでしょう」


 とりあえず返事はしておく。無視はいけないからな。俺の人生において唯一の失敗はと言えば、同年代の人の話を流し続けて(無視して)友達ができなかったことでもあるからな。


『やっと同調できたー。こっちの人は、少し干渉しづらいなぁ』


 中性的な声だ。イメージとしては、少年役を演じる女性声優さんの声って感じ。

 だから性別はわからない。どっちかっていうと、女性かな?希望的観測だけれど。


「あなたは誰ですか?」

『んー?ボクかい?ボクはね、そうだな。神様、とでも名乗っておこうかな』


 随分ユニークな神様みたいだ。


「神様が俺に何の御用ですか?」

『御用も何も、キミは、ミヤザワヒカル君は、これから『白亜の巨塔』の二周目に挑戦するわけだろう?だから、ボク自らその説明をしに来たのさ』


 なぜ俺の名前を知ってるんだ……。

 神様だから知っている、的なことだろうか。神域に個人情報保護法みたいなものは無いんですかね。

 しかし、説明といっても、俺は一度ゲームをクリアしているわけだからな。今更聞くことなんてあるのだろうか。


『今更何の説明があるのか、そう思っているそこのキミ!』

「は、はい!」


 思わず返事しちゃったよ。これが神の力か、恐ろしい。


『キミがプレイした一周目は、ただのプロローグだ!』

「はあ」

『例えるなら、そうだなぁ……。ポケ○ンのガチ勢が、殿堂入りまでがプロローグで、それからの厳選とレート戦が本編だ!なんて言うのと同じ感じかな』


 ふむふむ、なるほどなるほど。俺にとってはとてもわかりやすい例えだけど、わかんない人にはわかんないだろうな。そのゲームは殿堂入りしたら終わりだ、って言う人多いからな。


「ということは、まだやり残したことがあったということですか?もしかして、最上階に辿り着いた後にもエピソードが残ってるとか!」

『ま、まあ、それはキミの目で確かめるといい!』


 なーんか、いきなり自信が無くなったな、この神様。


『コホン、じゃ、じゃあ二周目の説明に入ろう!』

「どうぞ」


 色々と訝しいけれど、ゲームの説明とあらば一応聞いてみよう。


『まず、二周目をプレイするにあたって、一周目で貯めたGポイントを使うことにより二周目で便利な特典を受け取ることができるのだぁ!』

「おお!」


 なんて驚いてみたけど、実際その特典とやらは、どういったものがあるのだろう。

 それにしても嫌な名前のポイントだ。どことなく黒光りしそうな。


『今からキミの所持しているGポイントを確認するから、ちょっと待っててね』

「はい。ところでそのポイントがあると、どんな特典が貰えるんですか?」

『うん?……ああ、えっとね、獲得経験値が二倍になるとか、一周目の所有物を引き継げるとか、そんなんだったかな』


 へえ。それが本当なら、ゲームバランスが崩れちゃいそうだけど。二周目だからいいのかな?

 それとも、エンディングの続きがあって、更に敵が強くなるとか。それだったら楽しめそうだけど。

 まあ経験値は関係ないか、一周目の時、既に全キャラクターのレベルをカンストさせてたし……。レベル上限アップみたいなものがあるなら話は別だが。


『あ、見つけまし……たえええええぇぇぇぇ!?ほとんど、というか何もかもがカンストしてるじゃないですか!ラスボスを十秒以内に撃破って、おかしいでしょ!このゲーム、発売されてまだ四日ですよ!?』

「はあ、まあやりこみましたし」


 三日は寝ずにやってたからな。なんかよくわからないポイントがなかなか貯まらなくて手こずったけど、そこも最後はカンストさせた筈だし。もしかしてあれがゴキブ……Gポイントだったのか?


『四日間やり込み通しても、ここまでにはならないんですよ!普通は!』

「じゃあ、俺が普通じゃなかったってことですね。というか、神様キャラ崩れてますよ。庶民の俺に敬語なんか使っちゃって」


 こと作業ゲーに関しては、俺の得意とするところだ。何かをカンストさせるなんてことは俺の専売特許と言ってもいい。現に、キャラクターのレベルは一日目にはカンストしていた。クリアに四日も費やしたのは、よくわからない変なポイントを貯めるのに二日強かかってしまったからだ。


『コホン、失礼。じゃあ気を取り直して、注目のGポイントを見ていこ………………………………うん、わかってた。こっちもカンストされていることくらい、予想してたさ……』


 燃え尽きたかのようにげんなりしてしまった神様(姿は見えないが)。どうしたんだろ。


『今回こそは、やりがいのある、難しくも面白いゲームにできたと思ったのに……。発売から三日の時点でクリア者が千人を超えたあたりから、こんな人がいてもおかしくはないと思ってはいたよ……さすがにここまでとは予想してなかったけど。でも、あんまりだよ……』


 神様の素性がわかった気がした。

 変に罪悪感を覚えるな……。優秀な成績で天狗になっていた姉のテストの点数をノー勉で越してしまったときのような。


『で、キミ。二周目の特典なんだけど、特典をすべて購入できるポイント持っちゃってるから、便利な特典すべてでいいよね?』

「あ、はい」


 ヒックと聞こえた。鼻をすする音も聞こえた。神様は泣いているようだ。


『最後に、どんなシチュエーションで物語を始めたいとかある?』

「そんな要望も聞いてもらえるんですか?」

『ああ、これも特典の一つだよ……』


 神様は傷心しきっているみたいだった。実にセンセーショナルな神様で好感を持てる。


「なら、憧れているシチュエーションがあるんですけど、いいですか?」

『なんだい、言ってごらん』

「えっとですね……、勇者再誕の儀式をしているところに、偶然主人公が登場して、勇者が降臨したぞ!なんて勘違いで注目されて騒がれるところがいいです。あ、でも、間違って主人公を本物の勇者にはしないでくださいね」


 そんな妄想、誰にだってあると思うんだ。

 選定の儀式で勇者しか抜けない聖剣を抜いてしまったり。

 世界的な大きな戦争の生き残りで、失われた技術を自分だけが使えたり。


『やけに細かいなあ……まあいい。わかった、了承したよ』

「お願いします」


 男のロマンなので。と気持ちを込める。

 すると、神様は深く息を吸い込んで、言った。


『これから、キミの物語が始まる。キミだけの物語だ。苦難を乗り越えて仲間たちとこの世界をクリアするんだ。……まずキミがやるべきは、信用に値する仲間を集めることだ。そこから物語が始まる。さあ、行くんだ。数多の冒険を、ボクに見せておくれ』


 芝居口調で言い終えると、神様の存在感は薄れていった。

 たかがゲームで大袈裟だなあ、なんて思いながらも、俺の胸は高揚を抑えきれない。面白いゲームに続きがあるんだ。最高じゃないか。


 でもまずは睡眠だ。ここのところずっと寝ていないから、意識が朦朧として身体が重い。

 俺はその眠気に屈伏すると、徐々に視界は暗転し、微睡みの中へと意識は流れていった。



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