第零話~回想~
燃えるような激痛、燃えている村。
目を覚ました時に、それを現実だと受け入れるには、些か厳しいものがあった。
俺はそんな現実を受け入れられるほど強くはない。
この現実こそが、この世界の常だというのなら、この世界は『ファンタジー』などと形容はできまい。いや、これこそがファンタジーというものなのか。
「きゃぁぁあ!助けて、助けてっ!」
まだ年端もいかない少女の悲痛な叫びは、誰かの耳に届いているであろうに、救いの手を差し伸べる者はいない。
村人の全員が助けを求めている状況だからだ。ならば、苦しくもまだ動ける身である俺が、少女を助けに行かなければならない。
「サラ、どこにいる……」
俺は深く切り裂かれた左肩をかばい、打撲した右足を引きずりながら、少女の元へと歩む。
「リヒト……」
少女は俺の姿を見つけるや、すぐに汚れた顔を綻ばせた。
俺がいても助かる見込みは薄いのに、そんな安心した顔を見せられたら、守ってやるしかないじゃないか。
いつもは強がっている少女でも、元の素材がいいのかそんな風に笑うと可愛いもんだな、なんて考えながらも近づいてくる金属の足音に注意を向ける。
屈んで少女の傷を見るが、運のいいことに深い傷は見当たらない。恐怖に腰を抜かしているだけだろう。これなら逃げられる。
「サラ、俺は君に生きてほしい、だから今のうちに逃げるんだ」
「いや!私はリヒトと一緒にいたい!死んじゃいや!」
俺は自分の着けていた赤い宝石の首飾りを、少女に着けてやった。
「これで、サラはずっと俺と一緒だ」
そう言って、痛みを我慢しながら笑ってやる。
あの首飾りさえあれば、逃げきれるはずだ。
そして俺は立ち上がり、足音のする方へと向かっていった。
覚悟は決めた。この子だけは守ってみせる。弟も両親も守れなかった、情けない一人の男の力の限りで。
少女の嗚咽を最後に、その後の記憶は、俺には無い。