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いにしえの時代の魔族大公  作者: 尉ヶ峰タスク
歴女デヴィルの研究レポート
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パレードを笑って迎えましょう

「うおおおおおおおお!!!」

「大公閣下、万歳!! 魔王陛下、万々歳!!!」

 新たな大公の序列が発表されたのを受けて、魔王城の前に集まった群衆が沸く。

 高く、露台に並ぶ頂点の七名に向けて、デーモンデヴィル入り交じった大群衆が、おおいに称賛の声を上げる。

「しかし……デヴィルの女王様は、この場にもお姿を現さずじまいとなってしまったでありますか……」

 耳が破れそうな歓声の中、肉球を掲げて混じっていたパルシオネは、息継ぎ代わりにポツリとこぼす。

 改まった序列で予想通りに七位と定まったデヴィルの女王は、自身のすべての対戦を終えてからこれまで、公の場に出てくることは無くなってしまった。

 そのために、一名欠いた形の露台の様子が、今後を暗示しているようにパルシオネには見えていた。

 しかしそれはそれとして、大祭の締めに水くさい空気を混ぜるわけにもいかない。

 パルシオネはそんな思いをもって、周りに合わせて声を張り上げるのであった。

「おお!? あれは!?」

「見えてきた! 見えてきたぞッ!?」

 そうして声を上げていると、不意に集団の後方が騒がしくなる。

「これは、ようやくのご到着でありますね?」

「なになに? どうしたの?」

 さらに勢いを増す歓声に近づく気配を察するパルシオネに、筋骨隆々の父に肩車されていたフェブルウスが何事かと尋ねる。

「さあ、彼方を見るがいい」

 その言葉が聞こえていたかのようなタイミングで、大祭主が一歩前に出て同胞たちへ南方を指し示す。

「パレードだ! パレードの人たちだッ!?」

 大祭主が示すのに従ってアダマスが振り向くと、その肩の高さから、フェブルウスは近づいてくる集団を見つける。

「おお! やはりそうでありますかッ!?」

 愛弟子の報告に、予想通りのことだったかとパルシオネはうなづく。

 小柄な部類に入るムジナ女デヴィルでは、飛行しない限り群衆に遮られた景色を直に見ることなど叶わないのである。

「いよいよ大祭主行事の最後の締めくくり――パレードの到着だ。大祭の間、我々の心をその麗しい姿で満たしてくれた彼らには、最大の賛辞と歓待こそふさわしい。そうではないか、同胞よ」

「おおおおおおおお!」

 それはそれとして、この大祭主の呼びかけに、パルシオネも周りの群衆と同じく、祝いと労いの声を張り上げる。

「道をあけて手を叩け! 足を踏みならせ! 飛べる者は飛んで歓迎の心尽くしを見せてやれ! さあ、パレードの到着だ!」

 大祭主の号令に応じて、魔王城前を塞ぐ壁の一部になっていたパルシオネは群衆の流れに乗って立ち位置を変える。

「やるでありますよ、フェブくん!?」

「うん! きれいな花火だね!?」

 合わせて愛弟子と目配せをして、魔術を上空へ。色鮮やかな炎の大輪を天に咲かせてパレードを歓迎する。

 そんな師弟コンビと、その他大勢が打ち上げた花火の隙間を、有翼のデヴィルたちが縫うように飛びつつ花をまき散らしたり、水芸を披露したり、とパレードへの歓迎を惜しむ者はいない。

「ウォーホッホッホ! ウォーホッホッホ! ウォーホッホ……ブフォ!」

 そんな大歓迎を先頭きって潜る奇妙な笑い声がある。

 ご機嫌な笑い声の合間合間に果物を噴き出すのは頬袋をパンパンにしたリスの頭である。

 しかしその下に続く体は、服の上からでも分かるほどに分厚く力強いゴリラの巨体だ。

「あのリスゴリラなデヴィルさんは……?」

 パレードを先導するように進む、頭と体のギャップが激しいデヴィルを眺めて、フェブルウスはパルシオネの知識を頼る。

「あの方は大祭主様にお仕えする副司令官閣下のお一人でありますよ。たしか、パレードの担当は大祭主樣なのでありますが、それを全面的にお任せされている方でありますね」

 愛弟子に頼られたパルシオネは、気分よく鼻息を吹きつつ、パレードを仕切る副司令官閣下について語る。

「そうなんだ。あ、また吹き出した! 今度はリンゴだ!」

 そこでまた珍妙で高らかな笑い声と共に、リスゴリラ副司令官の口から果物が飛び出すのに、フェブルウスは手を叩いて笑う。

 それが自分に向けられているものと気づいたのか、リスゴリラの公爵閣下はパルシオネたちの方向をちらりと。

 その拍子にまた頬袋を満たしていた食べ物がポロポロとよだれの尾を引いて落ちる。

「アハッ! アハハハハハ! またポロポロって! ポロポロポトポトーって!」

 それがまたフェブルウスのツボだったらしく、父の頭もろともに抱き込む勢いで腹を抱えて大笑いする。

 頭部が愛らしいとはいえ、屈強な肉体を備えた公爵である。その振る舞いを遠慮なく笑うのはいささか危険ではないか。とパルシオネは内心で冷や汗を浮かべる。

 しかしここがめでたい大祭の場であったためか、それとも単純に機嫌が良かったためか、あるいは子どもに寛容な気質であったのか。リスゴリラの副司令官はウィンクをひとつ残しただけで、再び先導役として大階段を進んでいく。

 何事もなかったことに、パルシオネは豊かな胸に肉球をのせて安堵の息を吐く。

「面白いのが見れて良かったでありますね、フェブくん」

 そうして呼びかければ、フェブルウスは笑いすぎで乱れた息を整えながらもうなづく。

「う、うん……! あーおもしろかった。でも、いくらおもしろくてもパルちゃんに手はださせないからね!」

「うぇッ!? 何の事でありますか!?」

「だってあのリスゴリラさまの目、パルちゃんばっかりみてたよ」

 そう言うフェブルウスの唇はムスリと尖っている。

 明らかに警戒しているその様子に、パルシオネは苦笑しつつ頭を振る

「いやいや考えすぎでありますよ。今の今まで選び抜かれた美男美女、特に現在のデヴィル最高の美女といっしょだったのでありますよ? 今さらわたしぐらいのに興味なんてわかないでありますよ」

「そうかなー……」

「そうでありますよー。デヴィル族の異性だからちょっと見てただけでありますよ。きっと……」

「まあ、パルちゃんが気にしてないなら……」

 警戒心皆無なパルシオネの様子に、どこか引っかかる風ではあるものの、フェブルウスは矛を収める。

 そうしてパレードを盛大に魔王城の前庭へ迎え入れると、全員に酒が振る舞われて魔王が乾杯の音頭を取る。

 もちろん魔族が酔っぱらうような特殊な酒ではないので、魔族ならば誰が飲んでも大丈夫である。

 もっとも、酔える酒は愛飲している者もいるため、誰かが祝いにと持ち込んで、乾杯の酒とは別にお酌をしないとも限らないが。

 例えば特殊な振る舞い方にはなるが、五六戦で大祭主が酔わされた時のように。

 成人でも倒れてしまうことがあるというのに、未完成の子どもの体であればなおの事、どんな悪影響が出てもおかしくない。

「危ないお酒がまぎれてこないように、しっかり守らないと、でありますね」

「ええ! フェブに変なものは飲ませません!」

 フェブルウスを守る壁になろう。

 そんな思いでミケーネと目くばせをする。

 普段はなにかと嫉妬心をむき出しにしてくるブラコンお姉ちゃんであるが、ことフェブルウスを守るということになれば、非常に快く協力してくれる頼もしい味方である。

「えー……ぼくへんなものなんか飲まないよ?」

 なんでも口に入れるほど小さくはない。だから平気だとフェブルウスが言う。が、それにミケーネが真剣な表情で首を横に振る。

「フェブ、軽く考えるものじゃないわ。大祭主様だって味わわされるつもりなんかなかったでしょうにあんなことになってしまったんじゃないの」

「でもあのやり方されてお姉さま何とかできるの?」

「ちょっとそれはお姉様をバカにしすぎじゃないかしら!? 風で防御する魔術くらいちゃんと使えるんだから!」

「はーい。ごめんなさーい」

 憤慨する姉に、フェブルウスが素直に謝る。

 するとミケーネは分かればいいのだと胸を張ってうなづく。

「……ホントにだいじょうぶだと思う?」

「それはもちろん! フェブくんが思ってるよりミケーネ嬢は力も技も高めているのでありますよ?」

「うん。でもあぶなくなったらお母さまもお父さまもパルちゃんもいるし、しんぱいいらないよね」

 どうにも下の姉を信用していない風のフェブルウスであったが、そのセリフは幸いにもミケーネに届いていないようで、胸を張った彼女の姿勢は崩れることはなかった。

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