米俵投げ売り
僕は米俵を担いで僕の3人兄弟の次男、火須勢理兄貴に電話をかけ首相官邸に瞬間移動した。
「山幸彦、お前最近家にいなかったけど何処に行ってたんだ?心配かけさせるなよ」
ヤマト王国の首相である火須勢理兄貴は相変わらず忙しそうに書類と戦っていた。
「兄貴!急だけどこの米買ってください!どうしても金が必要で、お願いします!国の備蓄米とかの名目でなら出せるでしょ?」
余裕の無い僕は火須勢理兄貴にすがりついて早口でお願いした。
お祖父ちゃんがダメなら火須勢理兄貴に頼るしか無い。母も海幸彦兄貴もゲームに閉じ込められている。火須勢理兄貴がダメなら僕は終わりだ。
「どうしてもって何に使うんだよ?血税は個人のために使って良いものじゃないんだぞ?」
うっ、それを聞かれると困るな。海幸彦兄貴のクレジットカード使い込んだとか口が裂けても言えない。
「海幸彦兄貴と母上を助ける為につかうんです!」
そう言うと兄貴は疑うような目つきになりため息をついた。
「はぁ?海幸彦って誰だよ?母上も昔亡くなっただろ、何言ってるんだよ」
「は?海幸彦兄貴の事分からないの?母上も生きているじゃないか!?2人とも遠征に行ってゲームの中に閉じ込められたんだよ!」
まさか、邪神の改正の影響がスマホ回線を通して人々の記憶を書き換えているのか?
「山幸彦、ふざけた事言ってないでたまには働け。はぁ、ヤマトダンジョン市場の販売許可証をやるから自分で売ってこい」
話が通じないと感じた僕は仕方なく首相官邸をあとにして、兄貴に言われた通りヤマトダンジョン市場へ向かった。
巨大な空母が連なってできている水上都市ヤマトの端にあるヤマトダンジョン。このダンジョンもまた空母でできていて10年前にヤマト王国の王様が、水没したダンジョンから魔物を移植して作ったと言われている。
このダンジョンは人工的に作られただけあって冒険初心者にとても優しい作りになっていて、浅い層には1〜5Lvの弱い魔物が居て、冒険者達はそれを倒しては肉や皮や爪骨などの素材を売って生活している。
そしてそれらを売る為に、ダンジョンの周りには小舟が大量に連結されて市場が形成されている。
その市場は次第に巨大化してダンジョン産の物以外にも、冒険者や市場の商人や客向けに様々な食料や生活必需品などが販売される様になった。
あまりに巨大化した為に、最近では国の発行する許可書が無いと販売できないなど取り締まりが厳しくなった。
僕はレンタルした小舟を市場まで漕いで行く。市場組合の船に横付けして名前を言って販売許可証を発行してもらって空いてるスペースに小舟をつけて販売を開始する。
太陽が隠れていて暗いけど周りの船にランタンがついてるので何とか見渡すことができる。
さて、米俵1個いくらで売ろうかな?
1個60kg位かな?レベル上げする前の僕だったら持てなかったかもしれないな。
この世界で米は最近栽培がはじまった貴重な物なので1kg1000金位はすると思う。60kgだから6万金位かな。
試しに米俵に6万金と書いた紙を貼って様子をみる。
1時間経過、2時間経過……、通り行く人々がスルーしていく。やはり60kgも要らないよね。しかしあと3日でこれを5個売らないといけないのだ。
3時間経過……、ダメだもう直ぐ夕飯時になってしまうから行きかう人々もまばらになってきた。
仕方ない、安売りに切り替えよう!
バーンと、米俵に1万金と書いた紙を貼り付けた。
原価無視の大赤字価格だ!お祖父ちゃんごめんなさい!
すると人々が乗った小舟がいくつも集まって米俵をみはじめた。
「まさか、この1万金って10kgとかじゃなくて俵1個の価格?」
「あっ、はい!米俵1個1万金です!」
「安!これ安いよ!1つください!」
よし!売れた!そりゃこれだけ安けりゃ売れるよね。
「あ、もう売り切れですか?」
「まだあります!お待ちください!」
僕は月読命さんに電話して瞬間移動で米俵を3個送って貰った。
「2個下さい」
「2万金です」
「わたしは3個」
「ありがとうございます!」
沢山の小舟が押し寄せてきて次々と米俵を渡していった。
「俺は6個買うぜ!」
「ありがとうございます!」
「うわー!舟が沈む!」
勇者風のおっさんの小舟に米俵を6個乗せたら、おっさんの小舟が沈没した。欲張るとよく無い事がおきるんだね。
でもおかげさまで今日1日だけで25万金用意できた。
その後に米俵を持って行きすぎだと、お祖父ちゃんに怒られて米俵の持ち出しを禁止されちゃったのでもう同じ手は使えなくなってしまったが、クレジットカードの問題は何とか解決した。