地味な作業
夕飯を食べ終えた僕達は、二段ベッドが並ぶ部屋に移動して天の岩戸ダンジョンを3時間ほどプレイしてから寝た。
3人で10階のボス部屋に突撃してみたけど、やっぱり部屋に入った瞬間にボスである100人の兵隊に囲まれて負けてしまった。
1人1人はそこまで強くなさそうだけど、100人から同時に攻撃を受けると反撃する前にHPがゴリゴリ削りとられてしまうね。しかもスマホの処理が追いつかなくなるみたいで、画面を押しても全然反応しなくて攻撃も歩く事すらできなかった。これに関してはゲームとして問題があるのでリニューアル時に何とかしてほしいと月読命さんにお願いしておいたから、多分なんとかなるのだと思う。
翌朝、目がさめると別々で寝ていたはずのエヒメちゃんが横で寝ていてビックリした。エヒメちゃんってやけに僕にまとわりついて来るけど、僕に好意があるのかな?たまに気があるフリをするけど、ふざけてるのか本気なのか分からなくなる時があるんだよね。まぁ、僕達まだ10歳だし考えるのはまだ早いからあまり気にしなくてもいいかな。
向かいのベッドを見ると月読命さんが真っ直ぐな姿勢で寝ている。月読命さんって、特に何かおかしな事をしているわけじゃないけど、見ていて飽きないなぁ。このままずっと一緒に暮らせたらいいのにな。
色々あって大変な状況だけど、そこそこ楽しくて充実している感じがする。
ひきこもってゲームをしていた状況から前に進めた。そういう事なのかな?
眺めていると月読命さんが目を覚ましてこちらに手を振ってきた。
エヒメちゃんがなかなか起きないので、放置して朝ごはんのおにぎりと味噌汁を食べオフィスで昨日の仕様書の続きを書きはじめた。
「ツルハシで採掘の仕様書できました」
しばらくすると月読命さんが分厚いプリントの束を持ってきた。さすがプロ、仕事が早いね。
僕は、仕様書をパラパラめくりながら確認していく。企画書同様イラストや図を使って凄く見やすい。僕も見習わなくては。
「それにしても、これを僕の仕様書の内容とつじつまが合うように直していかないといけないんだよね?」
月読命さんの仕様も僕の仕様もゲームシステムが大きくかわる内容なので、これを合体させようと思うと凄くたいへそうだ。ダンジョンを作る仕様ででてきたアイテム合成の仕様に、採掘の仕様ででてきたアイテムも絡めないといけないし、ダンジョン作成中の壁からは採掘できなくしないといけないなど考えたらきりがなくて、本当にしらみつぶしに1つずつ検証していく必要があるなぁ。
「ゲームを作る事は、世界を1つ創る事と同じなので大変なのは当たり前です。そこを頑張って創るからこそプレイヤーが何十何百時間ずっと遊んでも飽きない物ができるのです」
そうだな、僕達はプレイヤー100万人を目指しているのだった。この程度でへこたれてはいけないな。
「よし!頑張るぞ!」
僕は自分に気合いを入れパソコンと向き合った。
「おはよ〜!」
そんなタイミングでエヒメちゃんが起きてきた。寝巻き姿で片手にはおにぎりを持っている。完全な寝坊だけどエヒメちゃんは特に仕事がないから問題はない。
「おはよう。そういえばエヒメちゃんは今日どうするの?」
「ん〜?アタイはダンジョンを見てくるよ!」
「え!?黄泉比良坂ダンジョンに行くの!?大丈夫?また邪神に捕まったりしないかな?」
たしか、黄泉比良坂ダンジョンは、はじめての村のすぐ近くにあったはずだから行けるとは思うけど。
「入口付近を見てくるだけだから大丈夫。ゲームで邪神と戦っていた時に気になる話を聞いたからリアルダンジョンの方に確認に行きたいんだ」
「入口だけなら大丈夫かな?気を付けて行ってくるんだよ?」
「は〜い」
エヒメちゃんは朝ごはんを食べて着替えたら出かけていった。
「そういえば、お祖父ちゃんの家と月読命さんの小屋と邪神の黄泉比良坂ダンジョンってかなり近くにあるけど何か理由があるのかな?」
ふと疑問に思ったので月読命さんにたずねた。
「黄泉比良坂とスーちゃんの家が近いのはスーちゃんが邪神を監視するためです。私がその近くにいたのは灯台元暗しで隠れやすかったのと、やはり邪神とスーちゃんの様子が気になるからですね」
お祖父ちゃんって重要な役割をしているんだね。月読命さんもそんな弟と母が心配で見守っていたんだよね。月読命さんの優しさが僕には分かるよ。
そんな会話をしながら仕様書を進めていると、月読命さんがピクッと反応してスマホを起動して操作をしはじめた。
「ヤマヒコさん、エヒメちゃんがまた邪神に捕まりました」
「ちょ!?」
エヒメちゃんやらかしちゃったのか!
「また5階のボスとして配置されていますね」
その後エヒメちゃんを倒してこちらの世界に呼び戻すのに5時間もかかった。
もう、黄泉比良坂ダンジョン行っちゃだめだからね。