兎肉サラミ
グゥ〜
お腹が減って辛くなってきたが、瞬間移動で急いで来たために何も持っていない。月読命さんの家だから何かあるかなと思い、周りを見渡したが、小屋の中には食料はおろか家具小物類が一切ない。どうやって生活しているのだろうか?
「すみません、3ヶ月ほど給料がなかったのでここ数日何も食べてないんです」
マジですか!月読命さんかわいそう!
そんな話をしているとエヒメちゃんがニヤニヤしながらこちらを見てきた。
「じゃーん!兎肉のサラミだよ!」
「あー!そういえば持ち歩いてたねそれ」
エヒメちゃんがポケットから肉々しいピンク色の棒を3本取り出した。
「ゴクリッ」
月読命さん、ヨダレ垂れてますよ!?
「頂きます!」
月読命さんはサラミを受け取ると上品かつ大急ぎで食べ始めた。それをみたエヒメちゃんも食べ始める。
「美味しいですね。お肉なんて1000年ぶりです……」
半泣きの小さな声だったのでよく聞こえなかったけど、月読命さん今なんかすごい事を言った様な……。あぁ、でも無表情の月読命さんが目に薄っすらと涙を浮かべていて美しい。肉を食べれたのがよっぽど嬉しかったんだろうな。これが兎肉じゃなければ素直に喜んであげれたのになぁ。今度、猪肉を食べさせてあげよう。きっと兎肉なんかより喜んでくれるはず。
「ムシャムシャ、兎肉美味しいよね!ヤマビコ君の味がするよね!」
エヒメちゃんが僕をジーッと見ながらサラミを味わいながら咀嚼している。
「ヤマヒコさんの味……」
月読命さんまで僕を見て食べはじめた。
「エヒメちゃんいつもそう言ってるけど僕の味って何なの!?食べた事ないから僕の味なんてわからないでしょ?」
「食べた事あるよ!」
「えっ!?」
パクッ!
「ちょ!エヒメちゃん何を!やめて!うわっ!」
エヒメちゃんが僕の兎耳に噛り付いた。そのまま兎耳をモグモグと食べはじめた。
「小さい頃、お昼寝の時とかモグモグモグ、こそっと食べてたんだよ?モグモグモグ。コリコリしてて美味しいよモグモグモグ」
僕の長い耳が口の中で噛まれたり舐められたりで背筋がゾワゾワしてベチョベチョと音がダイレクトに聞こえてくる。小さい頃の僕、これでよく起きなかったな。
「美味しいのですか?それでしたら私も」
カプッ!
もう片方の耳に月読命さんがかぶり付いた。
両耳からゾワゾワとした感覚がきて脳が溶けてしまいそうだ。
いかん!このままでは兎人としての尊厳が失われてしまう!
「やっ!やめて!これ以上食べるの禁止!!」
両耳を抱えて丸まって耳を口から引っこ抜いた。
「えーっ!?久しぶりの兎耳だったのにー!」
「私、まだ少ししか味わってないのですが……」
丸まった僕の周りから2人が隙をうかがっている。気を抜いたら襲われる!
ブーンッブーンッ
僕が身を守って固まっていると、スマホが振動した。
「あっ、天照姉様からメッセージです」
振動したのは月読命さんのスマホだった様で、月読命さんがスマホを操作して確認した。
「10階のボスは王国の兵隊100人だった様で、部屋に入った瞬間に囲まれてボコボコにされたそうです。お姉様は、こんなの勝てるわけがないからやーめた!と言っていまして、ボス討伐を諦めた様です」
「100人……」
どうやら邪神は、僕達にゲームを楽しませる気は全くない様だ。向こうも遊びじゃないから当たり前なのだけど、やはり今のゲームシステムでは無理の様だ。今ゲームにない様な強い装備。しかもただ攻撃力や防御力が高いのではなく、攻撃反射などの改変技に対抗できる様な特殊能力を作る必要がある。
「よし!食べ終わったらゲームのリニューアル会議だ!」
僕が気合いを入れて言うと、お腹がグゥ〜ッと鳴った。
「はい!兎肉のサラミ!」
エヒメちゃんが僕にサラミを突き出した。