リンドウ
吸血領主の根城。冷たい石の壁。淀んだ空気は墓場を連想させる。
意識のないアルを前にして、領主は彼女から名前を聞き出そうとしていた。
「どうした? そんな所で立ちすくんで」
後ろも振り向かずに領主は問う。だがリンドウはその場から動かず、感情を抑え込みながら領主に尋ねた。
「なぜあんな事を言ったんですか」
招いてくれてありがとう。
耳にこびりつくような声だった。近くで聞いたリンドウですらそう感じたのだ。直接言われた彼女はどう思っただろうか。
「なんだ? あのわざとらしい女言葉は使わないのか? よく化けていて吸い殺したくなるほど美人だったぞ」
領主の言葉にギリ、と歯ぎしりするリンドウ。
「あれじゃあ、あの子のせいって言っているようなものじゃないか!」
繕った口調をかなぐり捨てて、リンドウが怒りを露わにした。
「そうだな、招いてくれたのはお前だからな、我が眷属よ」
さらりと領主はリンドウの髪を梳く。悲痛の表情を浮かべて目を伏せるリンドウは、その言葉を反芻していた。
何度もこの男に従ってきた。宿で冒険者の世話をして、時がくれば冒険者を提供する。ずっと前からあの宿屋は、この男のための餌場なのだから。
「それより、食事はまだか? はやくあれの血を飲み干してみたいんだ」
「……用意はしてあります」
「そうか。名前が分からないのは残念だが、そこは食事中にお前から聞くとしよう」
領主はリンドウの横を通り抜けて廊下へと出て行く。リンドウは放り出されたアルを座らせて、領主の後に続く。
「……」
部屋を出る直前、リンドウはもう一度アルを顧みる。
彼は、食後のワインかデザートのように彼女の血を飲むだろう。いつもと同じように。
ーーいつもと同じになるのならば。




