宿屋「ドラゴンリバー」
冒険者を先導していたリンドウは、ある建物の前で足を止めた。
「到着よ。まずは宿帳に名前を書いて、今からご飯を用意するから部屋でゆっくりしててね」
そう言ってリンドウ刃宿屋の中へと入っていった。冒険者も、後を追って宿屋の扉をくぐる。
「……ん? 名前を書く……」
宿屋の建物内に足を踏み入れた直後、冒険者が何か疑問を抱いたようだ。しかし、深く思案する前にリンドウが硬質ボードに留められた用紙を差し出してくる。
「リンドウさん、これは」
冒険者が問えば、リンドウは宿帳よと答えた。
「宿泊日数……より後は書いておくから。名前の欄だけ埋めておいて」
そう言うとリンドウは引き出しの中をごそごそと探る。どうやら、部屋の鍵をみているらしい。
名前か、と冒険者は心の中で繰り返し、意を決してペンを滑らせる。
「お待たせ。……ねえ?」
宿帳を見たリンドウは、困ったように冒険者の顔を見た。
……名前の欄には"R"の文字、のみ。その一文字で止まっている。加えて冒険者は既にペンを置いているので、これ以上何か続けられることもないだろう。
「名前だけでいいから書いてほしいんだけれど」
苦言を呈するリンドウに、冒険者は目を伏せながら「これしか書けないんです」と言う。何か事情があるのだろうということは伝わったが、これでは本名ではないのが瞭然だ。
リンドウはしばし悩んだ後に、"R"の字を二重線で消す。そして。
「じゃあ、あなたはアルちゃんね」
名前欄の余白に、"アル"と書き付けた。
「ちゃん、はやめてください」
冒険者ーーアルは恥ずかしそうに頬を染める。
「いいじゃない。可愛いんだもの」
ふふっ、と笑い声をこぼすリンドウ。部屋に案内するわねと言って、奥の扉をくぐり抜ける。
「やめてくださいって」と言いながら、アルはリンドウの後を追った。その顔には照れくささと同時に、宿が取れたことへの安堵も含まれているようだった。
dragon=竜
liver=肝臓
つまりリンドウ(竜胆)です。
あと、主人公の名前(仮)も登場。この子、読み書きできません。




