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ダイニング(1)


  コツコツ、コツコツ。足音が廊下に響く。前方を歩く領主と、数歩遅れて後ろに付き従うリンドウ。その様子は両者の間に力関係ができあがっているようだった。

 領主が部屋の前で立ち止まる。リンドウも三歩遅れて横に並ぶ。扉を開き、領主が一歩足を踏み入れようとしたその瞬間。


「この匂いはーー」


 すん、と領主が鼻を鳴らす。立ち止まった領主の体に、直後異物感と痺れが襲ってきた。

彼が視線を下ろすと、わき腹に黒のダガーが刺さっているのが目に入る。柄を握る指は対比するかのように白く、均整がとれた石膏(アラバスター)の滑らかな腕へと伸びている。

 ダガーが抜かれる。しかし、続く第二撃を受けてやるほど領主はお人好しでもない。転がり込むようにダイニングへと進入し、不埒者を睨め付ける。


「どういうつもりだーーリンドウ!」


「どういうつもり、とは?」

 一方のリンドウは涼しい顔で領主に問う。領主にはそれすらも我慢ならないようで、今までの冷静さをかなぐり捨ててリンドウに食ってかかる。


「全部、全部だ! この部屋は何だ? なぜそんな武器で怪物(わたし)を傷つけられる? ……なぜ私を裏切った!」


「心の底からあんたに忠誠を誓っていたとでも?」


 リンドウは冷めた口調で言い捨てる。

「人間と出会って信用させて、武器を奪って無力化させて、あんたに差し出して信用を裏切る。ずっとその繰り返しだ」

 リンドウが内心を吐露している間も、領主は凶器のダガーを見据えていた。


「そのダガーはあの娘の物だったな」

 少女の持っていた、リンドウに奪わせた、ーーそして領主の身に傷を付けた武器。

 領主の様子を見て、リンドウはゆっくりと頷く。

「そう。怪物を殺す武器の作り方は、怪物であるあんたもよく知っているだろ?」

「……当然だ。誰がお前に教育したと思っている」


 質問の答えは怪物の血肉を浴びせることだ。

 これは単に怪物が血肉に強い力を有するというだけではない。怪物の妄執、怨念、そういう諸々の感情が武器の威力を増加させるのだ。

 しかし領主には一つ腑に落ちないことがあった。

「だがあの娘は、まだその武器を使ったことが無いだろう」


 武器を手に入れて間もないという店主の推理を、あの時少女は肯定した。少女自身の経験不足に加え武器の熟練度も低いとくれば狩りは容易い。万全を期して武器は取り上げさせたが、例え眷属(リンドウ)であろうともただの武器で怪物(おや)を傷つけることはできない。

 ーーそう考えていたにも関わらず、彼女のダガーは怪物(領主)の身体に突き刺さった。あり得ない、と領主は思案する。


「彼女は、ね」

 リンドウはダガーを持っている手でもう一方の腕を捲る。

 肉を抉るように付けられた切り傷が姿を顕した。傷口は既に止血処置されているが、言い換えれば止血処置をする必要があるほどの大怪我だったということだ。


「……まさか」

 領主は、信じられない物を見るような目ででリンドウを見る。

 気付いたのだ。リンドウが、何をしたのか。

  


怪物(ボク)(憎悪)は充分だろう?」


その言葉は、領主の予感を肯定していた。

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