STORY20-5 『…お前のデコピン凶器だよ』
それから数十分して一日用にと用意していた材料が底をついた。
予想以上の繁盛にクラス全員で驚いた。
「毎年こんなに早くなくなるものなのか?」
「材料が少なかったんじゃないの?」
「いいじゃん!終わったんだし」
「そうそう。今まで全員休み無しで働かさせられたんだし遊びに行こうぜ」
後片付けの時間は別にあるのでクラス全員一斉に校内に散って行った。
深夜と柚子葉は真希、圭、翔と共に校内を回った。
時間的にすでに終わりかけのところが多かったがそれでも楽しかった。
校内を一回りした五人は教室に戻っていた。
ほかにも数人戻っていた。
とりあえずすることがないので後片付けを始めた。
戻ってきた人から順番に後片付けを手伝い始めた。
後片付けをしていると校内放送が流れた。
『生徒の皆様お疲れ様でした。ただいまより後片付けをはじめてください。17時から後夜祭を始めます。いらない木材など燃えるものを校庭に運んでください』
そういって放送は切れた。
深夜のクラスでは聞きなれない単語が出てきたのでざわざわ騒ぎ出した。
「後夜祭?」
「そんなのあったっけ?」
「さぁ…。山上は何か聞いてるか?」
クラスメイトは深夜に話を振ってきた。
深夜は手を横に振って答えた。
「いや、俺も聞いてない。こういうのは見回りとは関係ないから」
「そりゃそうだよな」
「とりあえず校庭に持っていけばいいんじゃないか?後夜祭まで後一時間しかないから早くしちまおう」
濱田の言葉を聞いたクラスメイトはまた後片付けを再開した。
後片付けを終えた深夜のクラスは校庭に出ることにした。
校庭の中心には校門に立っていた入場門や模擬店に使用した看板などが集められていた。
「あれ燃やすのか?」
「だろうな」
翔と深夜がそれを見ながら話していると倉田が近づいてきてるのが分かった。
深夜は倉田に向け手を上げると倉田も手を上げた。
「おっす」
「倉田じゃん。久しぶり」
「前田とは中々話す機会なかったからな〜」
翔と倉田が話してると深夜が話を切って倉田の肩に手を置いた。
倉田が深夜のほうを見ると深夜は笑みを浮かべている。
その雰囲気に倉田は少し怖気ついている。
「なぁ、倉田」
「な、何だ?」
「勝手にアームレスリングに参加させといてお詫びとかないわけ?」
「いや、人数が足りなくて困ってたら丁度お前の姿が見えたからさ。つい…」
「ついでお前は友達を売るんだ?」
「あの…すまん!」
倉田が謝ってきたので深夜は肩から手を除けた。
許してもらったのだろうと倉田が顔を上げると深夜はデコピンを食らわした。
「これで勘弁してやるよ」
「…お前のデコピン凶器だよ」
二人のやりとりを見ていた翔は噴出した。
深夜と倉田が翔を睨むと翔は一度咳払いをして倉田に話しかけた。
「倉田は何か用があったんじゃないか?」
「あ、そうだった。山上はこっちに来てくれ」
「は?」
倉田はある方向を指差した。
深夜がそちらのほうを向くと見回りをしたメンバーが集まっている。
「何?まだ仕事あんの?」
「ま、そんなもんかな」
「じゃあ、俺は達志達の所に行くわ」
翔は二人に声をかけてクラスが集まっているほうへ歩き出した。
深夜と倉田も歩き出した。
深夜がそこに着いて大崎達と話してるとマイクを持った倉田を先頭に生徒会のメンバーが中央に歩いて行く。
生徒会のメンバーが中央に着くと倉田はマイクを口に持っていった。
『皆さん、今日の学校祭お疲れ様でした。楽しんでいただけましたか?』
倉田の問いかけにいろんなところから返事が返ってくる。
その返事に倉田は笑みを浮かべた。
『どうやら楽しんでいただけたようで私達も準備したかいがありました。それでは後夜祭を始めます。後夜祭は今年が初ということでいろいろと手探りなこともありますが楽しんでください』
倉田がそういうと生徒会のメンバーは各クラスに走っていく。
そして、各クラス学級委員を一人ずつ連れてきた。
次に火がついたたいまつを手渡した。
それを見て倉田はマイクを口に持っていった。
『それでは今まで各クラスをまとめていただいた学級委員に火をつけてもらいましょう!3…2…1、点火!!』
倉田の合図と共に各学級委員は火をつけた。
一気に中央に集められた木材に火が回り、キャンプファイヤーのようになった。
『ありがとうございました。火をつけた学級委員の皆さんに多大な拍手を!』
周りから割れんばかりの拍手が起こった。
照れくさそうに各学級委員は戻っていった。
戻った先で頭を叩かれている学級委員の姿が多かった。
『それでは次に学校祭実行委員の皆さん。そして今回から生徒が見回りそして駐車場の誘導を行うことになりました。それを行ってくれた生徒の皆さんを紹介したいと思います』
倉田の言葉に深夜の周りに集まっていたメンバーは歩き出した。
が、深夜はそのまま回れ右をして逃げ出そうと思ったができなかった。
大崎は一足早く深夜の右腕を持っていた。
「お、大崎?」
「倉田に頼まれてな。山上はこういうのは苦手だから逃げ出すって」
深夜は左手にも何か違和感を感じた。
そちらを見ると金田が深夜の腕を持っていた。
「そうそう。強制的に連れて来いってさ」
金田を大崎は顔を見合わせると深夜をひきずったまま歩き出した。
深夜は二人に慌てて声をかける。
「わ、分かったから。この手を離してくれよ」
「「逃げるなよ?」」
「…逃げねぇよ」
「その間が駄目だな」
「あ〜、分かった。逃げないから」
深夜が観念したようにうなだれると大崎と金田は深夜の腕を放した。
大崎は深夜の右の肩に、金田は左の肩に手を置いた。
「「ま、どんまいとだけ言おう」」
深夜は二人の言葉に苦笑いを浮かべた。
実行委員と見回りのメンバー全員が中央に集まると倉田はマイクを口の持っていった。
『さて、では数人に何かコメントをもらいたいと思います。まずは…実行委員から行きましょうか』
倉田に指名された生徒は困惑しながらも前に出て話し出した。
それを見ながら深夜は呟いた。
「何か嫌な予感がする…」
その呟きが聞こえた大崎と金田は深夜の顔を覗き込んだ。
「山上?」
「どうしたんだ?」
「あのコメントに当てられる気がする…」
「まさかさすがにそこまではしないだろう…と思う」
「当てられたら俺逃げ出していい?」
「あ〜、俺らの信用がなくなるから止めるわ」
そんなことを言いながら話してると生徒が変わる変わる前に出てコメントを話している。
数人終えると倉田はマイクを持ってうろうろ歩いている。
『さて、次の人が最後にしましょうか…。3-C、山上深夜君に最後を締めてもらいましょう』
そういうと深夜は本当に逃げ出そうと思った。
が、二人の止められては逃げようがない。
クラスメイトの二人相手に武力行使を行えるわけもなかった。
倉田はゆっくりと深夜のほうに近づいた。
マイクは切っているようで深夜に話しかけた。
「山上、頼む」
「倉田ぁ…お前何考えてんだ」
「俺はさ、皆に知って欲しいんだよ」
「は?」
「お前のことを知ってる人は少ないだろ?だから見回りも頼んでいろんな人と話して知って欲しかったんだ。加藤との時に何もできなかったからってわけじゃないけどやっぱり…。あ〜、もう何て言えばいいかな!」
倉田が頭を掻き毟りながら考えている中深夜は倉田に話しかける。
「倉田マイク」
「え?」
「お前の気持ちは分かったから」
深夜の顔を見た倉田は何も言わずにマイクを渡した。
マイクを片手に深夜は中央に歩み寄っていく。