STORY20-1 『見回り?』
暦は夏からすでに秋に変わっている。
柚子葉達の学校ではもうすぐ学校祭が行われる。
柚子葉達の学校の決まりとして3年生のクラスは模擬店を開くことになっている。
展示物の用意をしなければならないというわけではないので特に準備する必要もない。
柚子葉は深夜と一緒に廊下に歩いていた。
が、立ち止まって深夜に話しかける。
「ごめん、私ちょっとトイレ」
「先に下に行ってるぞ」
「うん」
深夜はそういって廊下を歩いていった。
柚子葉はトイレで用を足し、急いで昇降口に向かった。
もうすぐで昇降口というところで内容までは分からないが話し声が聞こえる。
「はぁ!?」
近づいてくと深夜の驚くような声が聞こえた。
さらに近づくと深夜と一人の男子生徒が話していた。
「何で俺なんだよ」
「お前以外に適任がいないんだって」
「うちの学校は柔道部とか空手部もあるんだからそっちに頼めばいいだろうが」
「そっちにももちろん頼むけどそれ以外にお前にもやってもらいたいんだって」
「んなこと言われても…」
深夜が困ったように顔を別のほうに向けると、柚子葉の姿が見えた。
男子生徒も深夜が別のほうに向いているのに気づき柚子葉のほうに顔を向けた。
柚子葉は深夜と話している生徒が学校の生徒会長だということに気づいた。
二人に近づいて深夜に話しかけた。
「どうしたの?」
深夜が柚子葉に話しかける前に生徒会長が柚子葉の質問に答えた。
「なぁ、山下からもこいつに言ってくれよ」
「おい、倉田。お前いい加減にしろよ。何で俺が見回りしないといけないんだよ」
「見回り?」
柚子葉は意味が分からないようで首を傾げた。
生徒会長、深夜に倉田と呼ばれた生徒が説明を始めた。
「今年から駐車場の誘導とか見回りを生徒がすることになったんだ。それで見回りに山上を入れたいんだが…」
「だから、何で俺なんだよ。柔道部とかに任せればいいだろうが」
「俺はお前に頼みたいんだよ。それに、柔道部の連中とかは俺の勝手な考えだけど試合には強そうだけど喧嘩には弱そうじゃないか?」
「そうかぁ?まぁ、喧嘩ってなんでもありだからなぁ。道具を使ったりとか」
「だろ?だから、お前に頼みたいんだって。お前はそういう連中相手には慣れてるだろ?なぁ、頼むって!」
倉田は顔の前に手を合わせて深夜に向け頭を下げた。
深夜は諦めたように頭を掻いてため息をついた。
「分かったよ…」
「え?」
「やればいいんだろ!やれば!」
「サンキュウ!マジ助かる!」
倉田は深夜の言葉に顔を上げて笑みを浮かべた。
そして、プリントを一枚取り出して深夜に渡した。
「これに詳しい説明とこれからの会議の予定とかも載ってるから」
「はいはい」
深夜は倉田から渡されたプリントに目を通した。
プリントを見ながら倉田に数点質問をしてとりあえず深夜はプリントをカバンに入れた。
倉田はポケットから携帯電話を取り出し時間を見て声を出した。
「げ!?会議の時間過ぎてる!わりぃ、俺行くわ。また何かあったら生徒会室に来てくれ」
「あぁ」
倉田は生徒会室に向かって走っていった。
深夜と柚子葉はとりあえず靴に履き替え帰ることにした。
帰り道、柚子葉は深夜に話しかけた。
「深夜と倉田君って仲良いの?」
「まぁ、普通だろ。倉田とは同じ中学なんだ」
「え?そうなの?」
「あぁ。俺が荒れるまでは一緒に遊んだりしてたけど俺が荒れ始めては話す機会はなくなった、っていうよりは俺が相手にしてなかった。でも、高校に入って落ち着いたらまた話すようになったんだよ」
そんな話をしながら深夜と柚子葉は秀太を迎えに保育園に向かった。
次の日、クラスで学校祭の話し合いが行われた。
模擬店で何を作るのか、当日の当番などを話し合うためだ。
学級委員の生徒が教壇に立って司会をしている。
この生徒の名前は濱田という。
「それじゃあ、まずは何をするのかを決めます。何か意見がある人はいますか?」
濱田の言葉にクラスからは焼きそば、焼き鳥、たこ焼き、カキ氷、クレープなど様々な意見が出た。
結局いろいろな料理を出せるということで喫茶店をすることになった。
次に当番を決めることになり、まずは料理が出来る人をバランスよく分けることにした。
「じゃあ、料理が得意な人は前に出てきてください」
濱田がそういうとクラスから数人の生徒が前に出た。
その中には柚子葉も入っている。が、深夜は自分の机で寝ている。
真希と圭は深夜が料理が出来ることを知っているので濱田に向け話しかけた。
「山上も料理できるよ」
「そうそう。あいつ料理うまいから」
学級委員は二人の言葉を聞いて近くにいる翔に呼びかけた。
「前田、山上起こして」
翔は濱田に言われて深夜を起こした。
体をゆすられ深夜はゆっくりと体を起こした。
濱田は深夜が完全に体を起こした後に話しかける。
「山上、お前料理できる?」
「できるけど?」
「じゃあ、当日料理を作ってくれ」
「俺学園祭当日はクラスのほうの仕事できないんだけど」
「は?何で?」
「昨日倉田に頼まれて当日に見回りをすることになってんだよ。だから、当日はクラスの仕事は駄目って訳」
その言葉を聞いた真希と圭が深夜に詰め寄る。
「でも、一日中見回りって訳じゃないよね?」
「そりゃ…」
「じゃあ、その時間だけ料理ね」
「おい…」
「はい、決定」
「濱田まで…」
深夜が口を挟む間もなくクラスの仕事を入れられるところだったが担任である勇一が助け舟を出した。
「濱田。山上は当番に入れるな」
「え?どうしてですか?」
「そういう決まりなんだ。それにもし何かあったら当番に入ってるとすぐに行動できない。分かったな?」
勇一の言葉を聞いた真希と圭は深夜の顔を見た。
「ならそう言ってよ」
「ほんとほんと。あぁ〜あ、時間がないっていうのに」
「お前らが聞かなかったんだろうが…」
深夜の呟きにクラスから笑いが上がった。
深夜もクラスに笑いにつられて笑った。
その日の晩、いつも通り柚子葉は秀太と一緒に深夜の部屋にお邪魔していた。
勇一も一緒になってTVを見ていると勇一が深夜に話しかけた。
忍は今日は何やら用事があるようで食事を食べた後家に戻っていった。
「深夜も本当に変わったよなぁ」
「急に何?」
「今日の学園祭の話し合いだよ。あんなにクラスの連中と話すようになるとは思ってなかったよ」
「確かになぁ。一年のときはあまり話してなかったし。二年になってからかな」
「やっぱり…」
「分かってるって。そんな視線送るなよ」
深夜は勇一の顔の先を見て苦笑いを浮かべた。
勇一の視線の先には秀太と何かを言いながらTVを見ている柚子葉がいた。
「まぁ、せっかくの高校生活なんだし楽しいほうがいいだろ」
「楽しくないよりは楽しいほうがいいよ。今は学校に行くのは楽しいし」
「そういえばお前学園祭見回りになったんだよな?」
「あぁ。でもよく知ってたね?」
「俺は担任だから倉田が言いにきた。でも、お前大変だぞ」
「何が?」
「当日休憩あるかどうか分からないぞ?」
「は?そうなの?」
「あぁ。当日の状況次第だって言ってたぞ」
「倉田の奴…。明日覚えてろよ」
勇一と深夜が話してると柚子葉が秀太を抱きかかえて立ち上がった。
柚子葉は秀太を抱きかかえたまま二人に話しかけた。
「秀太寝ちゃったから私ももう戻るね」
「あ、送っていく」
「いいよ。何か話してたし」
「話し終わったから送っていく」
「じゃあ、お願い」
柚子葉は深夜に秀太を渡した。
深夜は秀太を抱きかかえて歩き出した。
柚子葉も勇一に声をかけて深夜の後を追った。
柚子葉の部屋の前で秀太を渡した。
「じゃあな」
「うん」
「あ、お前学園祭どうする?」
「え?」
「去年は翔や井上達と一緒に回ったけど今年俺回れるか微妙なんだ」
「え?そうなの?」
「さっき勇兄から聞いたけど当日の状況次第では休憩はないっぽいから約束は出来ないんだ」
「そう…。だったら、当日になって決めるよ。もし深夜が無理なら真希達と回るから気にしないで」
「悪いな。じゃあ、俺戻るわ」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ」
そういって深夜は自分の部屋に戻っていった。
柚子葉も秀太を寝かせた後自分も布団に入った。