STORY18-END 『兄さんは深夜をいじめてたよね…』
次の土曜日。
今日は秀太の誕生日だ。
深夜と柚子葉は恭子とも相談して深夜の家で秀太の誕生日会を開くことにした。
深夜、柚子葉、恭子、秀太に加え勇一と忍も参加することになっている。
深夜と柚子葉は家で料理の準備をしている。
忍と勇一はケーキを買いに街に出ている。
恭子には秀太に今日のことがばれないように相手をしてもらっている。
ある程度料理ができたところで深夜は柚子葉に声をかけた。
「ちょっと休憩しようぜ」
「そうだね」
柚子葉は深夜の言葉に頷いてリビングに向かい椅子に座る。
後ろから深夜の二本の缶ジュースを持ってリビングに向かう。
深夜はジュースを一本柚子葉に渡して自分も椅子に座った。
「秀太喜んでくれるかな?」
「大丈夫だって」
柚子葉が心配そうな声で言ったのに対し、深夜は笑って答えた。
「プレゼントも買ったし料理も作ってる。ケーキも今買いに行ってる。これだけ準備してるんだから喜んでくれるさ」
「そうだよね」
「さて、最後の仕上げといくか?」
「うん」
深夜の言葉をきっかけに二人は台所に向かい料理の総仕上げに入った。
二人は唐揚げやおにぎりなど手でつまめるものを中心に料理を作っている。
料理を作っていると勇一と忍がケーキを片手に帰宅した。
「ただいま」
「あ、お疲れ」
「すいません」
「いいって。車のほうが便利だし。それよりも料理はできたのか?」
「もうちょっと。悪いけどできたものから運んで欲しいんだけど」
「あいよ」
勇一と忍は深夜達が作り終えた料理を運び始めた。
数分して全ての料理を作り終えた。
「よし。柚子、おばさんに連絡取ってくれ」
「うん」
柚子葉は携帯を取り出して恭子に電話をかけた。
深夜はリビングに座って勇一達と話している。
そこに電話を終えた柚子葉が近寄る。
「おばさん、なんだって?」
「すぐ来るって」
「そっか」
深夜は勇一達が買ってきたクラッカーを柚子葉に渡した。
そして、秀太が入ってくるのを待った。
すでに玄関の鍵を開けていることは恭子に伝えているのでここで待ち伏せをすることができる。
数分して、玄関のドアが開く音が聞こえた。
リビングに通じるドアが開くと同時に深夜達はクラッカーを鳴らした。
「「「「秀太(君)、誕生日おめでとう」」」」
突然のことで秀太は驚いている。
秀太に深夜と柚子葉が歩み寄る。
「秀太、誕生日おめでとう」
「おめでとう。さ、おいで」
柚子葉は秀太に手を差し出した。
秀太はすぐに笑みを浮かべて柚子葉の手を取った。
深夜も歩き出そうとしたが、恭子に話しかけられたので足を止めた。
「深夜君」
「はい?」
「ありがとう。秀太の誕生日会開いてくれて」
「俺もホントに弟のように思えますからね、秀太は」
深夜の言葉に恭子は笑みを浮かべた。
「そういってもらえると助かるわ」
「さ、俺たちも行きましょう」
「ええ」
深夜は恭子を促して歩き出した。
恭子が席に座ると勇一の姿が目に入って少し驚いた顔をした。
「え?植田先生?」
「あれ?山下。俺のこと言ってないのか?」
「そういえば言ってなかったかも」
柚子葉の言葉に勇一は軽く息を吐いて恭子に向きなおした。
「妻と義弟がお世話になっています」
「え?」
「忍の夫です。そして、深夜の義理の兄になります」
「あ、そうだったんですか。柚子葉、言ってくれればいいのに」
「てっきり言ったとばっかり思ってた」
「あ〜と、お話のところ悪いけど始めない?今日の主役は秀太だし」
「あ、そうだな」
深夜の言葉に勇一と恭子は頷いた。
「じゃあ、柚子。乾杯の音頭を」
「え?私?」
「あぁ」
柚子葉は困ったように周りを見渡す。
皆柚子葉と目が合うと頷く。
柚子葉は頬を掻いて秀太に顔を向けた。
「えっと、秀太誕生日おめでとう。乾杯」
『乾杯!』
柚子葉の声で誕生日会が始まった。
誕生日会が始まりまずは食事を開始した。
話しながら食事をしていると深夜が柚子葉に近づいた。
「そろそろいいんじゃないか?」
「あ、そうだね」
深夜と柚子葉は二人で深夜の部屋に向かった。
また、リビングに戻り秀太に話しかけた。
「秀太」
「なに?」
「はい。これプレゼント」
「わ〜、ありがとう!」
秀太は深夜と柚子葉から受け取ったプレゼントをその場で開けた。
二人が買ったものは子供用のサッカーボールだ。
保育園で最近秀太はサッカーに夢中だという話を忍から聞いたのでこのプレゼントに決めた。
サッカーボールを見た秀太は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「サッカボールだ!」
「これで休みのときはお兄ちゃんとサッカーしような」
「うん!」
プレゼントを渡した後も誕生会は続いた。
食事が終わるとトランプを取り出して皆でゲームをした。
途中でケーキも食べたりして皆楽しい時間を過ごした。
それからさらに、数時間すると秀太は眠ってしまった。
眠ってしまった秀太を深夜の布団に寝かせ、深夜達はリビングで話し始めた。
「秀太が喜んでくれてよかったよ」
「そうだな」
「皆さん、秀太のためにありがとうございました」
「いえいえ、こっちも楽しい時間を過ごせました」
「なんか懐かしかったよね、勇一」
「あぁ」
「懐かしい?」
勇一と忍の話を聞いていた恭子が疑問の声を上げた。
柚子葉が恭子に向かって話しかけた。
「深夜が小さい頃は植田先生と忍さんが面倒見てたんだって」
「あら、そうなんですか?」
「ええ、まぁ。俺達のほかにも深夜の実の兄もいたんですが…」
「兄さんは深夜をいじめてたよね…」
「いじめ?」
「兄貴は俺に関節技とか決めてたんだよ。あっちからしたら遊びでもこっちは抵抗のしようがなかったんだよな…」
その話を聞いて恭子と柚子葉は苦笑いを浮かべるしかなかった。
深夜は自分のコーヒーを飲み干して立ち上がった。
「俺コーヒー入れてくるけど他にいる人いる…っていうか皆っぽいな」
深夜は全員のコップが空いているのを見てつぶやいた。
そして持てるだけコップを持って台所に向かった。
柚子葉もまだ残っているコップを持って台所に向かう。
台所で何やら話している深夜と柚子葉を見て勇一、忍、恭子は笑みを浮かべた。
恭子は勇一と忍に話しかけた。
「私は柚子葉と深夜君があんな風に二人揃ってなにかやっているのを見る機会はあまりないんですけどこうしてみるとお似合いですね、あの二人」
「ええ」
「今年に入って深夜が用事があってアメリカに行ったときがあったんです」
「知ってます。そのとき秀太がはぶてたので覚えてます」
「そのときにあいつらと同じクラスの奴が言ったらしんです。『一人でいるのを見ると違和感がある』って。もう周りからすると二人でいることが当然のように思えるそうです」
「誰がそんなこと言ったんだ?」
深夜と柚子葉が全員分のコーヒーを入れてリビングに戻ってきていた。
柚子葉はそのときに現場にいたので深夜の疑問に答えた。
「真希と圭が変な感じがするって言ったの。その後に翔君が私の隣に深夜がいないからじゃないかって。でもどうして植田先生が知ってるんですか?」
「ん?翔から聞いた」
「ふ〜ん…」
深夜はコーヒーを置きながら考え込むように声を出した。
柚子葉は深夜が何を思っているのか予測がついたようだが何も言わなかった。
それから皆で日付が変わるまで楽しい時間を過ごした。
翔:うーす、深夜。秀太君、楽しんでくれたか?
深夜:…よぉ、翔
翔:…(うわ…、なんか嫌な気する)
深夜:お前さぁ、勇兄に変なこと言ったろ
翔:勇一さんに?…いや、覚えないけど
深夜:ほぉ、俺がアメリカに行ったときだぞ?
翔:お前がアメリカに行ったとき?
深夜:あぁ、井上と田中にも同じこと言っただろ
翔:…あ
深夜:覚えてるようだな
翔:…あはは。でも、それがどうかしたのか?
深夜:昨日、勇兄と姉貴に散々からかわれたんだよ!柚子やおばさんが帰った後にな!
翔:俺だってそんな風になるとは思わないから軽い気持ちでつい…
深夜:勇兄に言った時点で姉貴にも伝わるだろうが!
(翔に軽く関節技を決める深夜)
翔:痛い痛い!!ギブギブ!
深夜:うるせぇ!散々からかわれた俺の恨みを知れ!
翔:悪かったって!もういわねぇから離してくれ!