STORY16-5 『こんな無防備に寝るなよ…』
二人が抱き合って数分すると玄関が開く音がした。
「深夜〜?いるの〜?」
忍が帰ってきたようだ。
深夜は柚子葉の背中を撫でるのを止めて玄関のほうに向かって声を出した。
「いるぞ〜。リビングのほうだ〜」
忍は携帯のカメラ機能でフラッシュをつけたままリビングに入ってきた。
深夜と柚子葉が抱き合っているのを見て声を出した。
「停電だからって何してるのよ…」
「柚子が停電苦手なんだよ。雷も苦手らしい」
「あら、柚子葉ちゃんそうなの?」
「は、はい…」
「ちょっと待ってなさい。今ロウソクとってくるから」
忍がロウソクを取りに行ったのを見て深夜は柚子葉に話しかけた。
「これでひとまずは大丈夫だろ」
「う、うん」
忍はロウソクに火をつけて戻ってきた。
「お待たせ。秀太君は?」
「秀太ならもう寝てる。姉貴、お願いがあるんだけど」
「深夜が頼むっていうのは珍しいわね。で、どうしたの?」
「姉貴達の部屋に柚子を泊めてやってほしいんだ。秀太はこのまま俺の部屋で眠らせるから」
「ここに泊まればいいじゃない?私もここで寝るから」
「へ?姉貴もここで寝んの?」
「勇一が他の先生の所に泊まって帰るんだって。こんな台風の日に飲まなくてもいいのにねぇ。とりあえずそういうことだから私もここに泊まるわ。部屋なら余ってるんだからいいでしょ?」
「俺が断った場合はどうなるんだ?」
「もう分かってるんでしょ?どうにもならないわよ」
「ったく。じゃあ、俺布団出すわ。姉貴と柚子は親父達の部屋でいいだろ?あそこなら二つ並べて布団出しても十分眠れるはずだし」
「ええ。お願い。あ、これロウソクね」
忍は予備に持ってきていたロウソクを深夜に渡した。
深夜は忍から手渡されたロウソクに火をつけ深夜は両親の部屋に入っていった。
その場に残った柚子葉に忍が話しかけた。
「いつから駄目なの?」
「え?」
「停電と雷が苦手なんでしょ?」
「あ、覚えてないんです。小さい頃から駄目なのは覚えてるんですけど」
「まぁ、そんなものかもね」
「そういえば深夜の苦手なものってなんですか?」
「深夜の苦手なもの?」
「ええ。私が停電苦手だって言ったときに深夜にも苦手なものを聞いたんですけど深夜にはぐらかされたんです」
「そりゃあ自分の彼女に弱いところは見せたくないんでしょうね」
「教えてくれませんか?」
「う〜ん、じゃあ交換条件で私と話すときに敬語を使わないでね」
「敬語ですか?」
「何か柚子葉ちゃんと壁を感じるのよねぇ〜。1年以上深夜を通じて付合いがあるけどまだ敬語が取れてないでしょ?もうそろそろ敬語がなくなってもいいと思うのよねぇ」
「え?でも…」
「そりゃあ無理だろ」
後ろから深夜の声が聞こえたので後ろを振り返ると深夜がロウソクを持って立っていた。
ロウソクの火に照らされた深夜の顔は少し呆れていたように柚子葉は感じた。
「いつからそこにいたの?」
「姉貴が柚子に敬語を無くすように言ったときから。何でその流れになったかは聞いてないけど」
深夜はそういいながらテーブルの上にロウソクを置いた。
テーブルの上にはロウソクが二本立っており、先ほどに比べて明るくなった。
「深夜。無理ってどういうこと?」
「柚子の性格を考えると姉貴に敬語無しで話すのは厳しいだろ。なぁ、柚子」
「う、うん。ごめんなさい。忍さん、やっぱり敬語で話したら駄目ですか?」
「ううん。無理言ってごめんなさいね」
3人でそんな話をしていると電気がついた。
停電から復旧したようだ。
「お、電気ついたな。また停電にならないうちに寝ようぜ」
「そうね。そうしましょうか」
深夜の言葉に忍と柚子葉は頷いて立ち上がった。
深夜は立ち上がると秀太を抱きかかえた。
深夜はいつも通り自分の部屋に、忍と柚子葉は深夜が布団を用意した部屋に向かった。
部屋に入ると布団が敷かれてあり、忍が奥の布団に入ったので柚子葉は手前の布団に入った。
柚子葉が布団に入るとロウソクのおかげで見えた忍の顔に笑顔が見えたので柚子葉は話しかけた。
「忍さん?どうかしたんですか?」
「ううん。なんでもないわ。ちょっと早いけどもう寝ましょうか。寝てると雷も怖くないでしょ?」
「あ、はい」
忍はそういうとロウソクの火を消した。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
数時間後、目が覚めた柚子葉は体を起こした。
窓に当たる雨の音はまだ強い。
リビングに明かりがついているのが見えた。
柚子葉は立ち上がってリビングに通じるドアを開けた。
柚子葉がリビングに出ると深夜が冷蔵庫の前に立っていた。
深夜は柚子葉が開けたドアの音で振り返った。
「柚子?目が覚めたのか?」
「うん。深夜も?」
「あぁ。柚子も何か飲むか?」
「あ、もらおうかな」
「じゃあ、そこ座れよ」
柚子葉の言葉を聞いた深夜は食器棚からコップを取り出し、オレンジジュースをいれリビングに持ってきた。
リビングに座っていた柚子葉の目の前にオレンジジュースを置き、自分も隣に座った。
「ほら」
「あ、ありがとう」
柚子葉は深夜に礼を言い、オレンジジュースに口をつけた。
深夜は隣で何も言わずに座っている。
そのまま二人の間には何も言葉はなかった。
だが、柚子葉にとってその沈黙は苦痛ではなかった。
深夜は飲み物を飲みながら本を読んでいる。
隣から物音がしなくなったので隣を見るといつのまにか柚子葉が眠っていた。
深夜は柚子葉の眠っている姿を見てため息をついた。
「こんな無防備に寝るなよ…」
深夜はそう呟いて立ち上がろうとした。
が、柚子葉が深夜によりかかってきた。
深夜が立ち上がると柚子葉が頭を打ってしまうので結局深夜は立ち上がることができなかった。
深夜は自分が着ていた上着を柚子葉に掛けた後、本の続きを読み始めた。
本を読んでいた深夜もいつの間にか眠りに就いていた。
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