STORY16-2 『やっぱり少し大きかったか』
ずぶ濡れになって保育園に駆け込むと忍が駆け寄ってきた。
「ちょっと二人ともずぶ濡れじゃない!傘持って行かなかったの?」
「訳は後で話す。それよりもタオルと俺の着替えを二着持ってきてくれ」
「ちょっと待ってて」
忍はタオルと着替えを取りに奥に向かった。
深夜は柚子葉に声をかけた。
「柚子。寒くないか?」
「あ、ちょっと寒いかな」
深夜は柚子葉の言葉を聞いて自分の学ランを脱いで柚子葉に着せた。
柚子葉は驚いて深夜の顔を見る。
「し、深夜!?」
「いいから。寒いんだろ。濡れてるけど少しはマシだろ」
「だって深夜も濡れてるじゃない」
「俺は大丈夫。それよりも姉貴遅いな」
深夜が奥のほうを見ると忍が着替え類を持って戻ってきた。
「はい。タオルと着替え。ジャージでいいよね?」
「着替えだったら何でもいい。俺はトイレで着替えるから柚子は園長室で着替えろよ。姉貴いいだろ?」
「ええ」
深夜は忍が頷いたのを見てトイレに向かった。
忍は深夜がトイレに向かって歩き出したのを確認して柚子葉に声をかけた。
「じゃあ、柚子葉ちゃんも急いで着替えなさい。そのままだと風邪引くわよ」
「はい。すいません」
「ううん。気にしないで」
忍は柚子葉を園長室に案内した。
柚子葉が園長室に入ると忍は柚子葉に話しかけた。
「私は園児達のところにいるから」
「あ、分かりました」
柚子葉は園長室の中で着替え始めた。
濡れている制服を脱ぎ深夜のTシャツを着たがサイズが合わなかった。
腕をまくり今度はジャージのズボンを着る。
これもまたサイズが合わなかったので裾を折り曲げた。
着替え終わると園長室のドアがノックされた。
「はい?」
「柚子?入って大丈夫か?」
「あ、うん。大丈夫だよ」
柚子葉の言葉に深夜は園長室のドアを開けた。
服をめくっている柚子葉の姿を見て深夜は口を開いた。
「やっぱり少し大きかったか」
「うん。ごめんね、服借りて」
「いいって。風邪引かれたら大変だろ?それよりも帰りどうすっかな…」
深夜は窓から外の様子を見た。
柚子葉も外を見る。
雨はまた強くなっているようだ。
「こんな中帰るのも大変だし。しょうがねぇ、姉貴に送ってもらうか」
深夜は園長室に置かれている椅子に座った。
柚子葉も深夜の近くに座った。
それから話をしていると忍が戻ってきた。
「あ、着替え終わった?」
「あぁ。姉貴、仕事いつ終わりそう?」
「今日は分からないわ。天気がこれじゃあ親御さんが迎えに来る時間もよく分からないし。どうして?」
「いや、送ってもらおうかと思ってたんだけどそれじゃあ無理っぽいなぁ」
深夜は外を見ながら忍と話している。
忍も深夜の隣に立って外を見る。
「これじゃあ濡れるわね。勇一に電話したら?」
「一応やってみるか」
深夜は携帯を取り出して勇一に電話をかけた。
『はい』
「あ、勇兄?」
『どうした?』
「今から車出せたりする?」
『あぁ、雨だから迎えに来いってか?』
「俺だけなら別にいいけど柚子と秀太もいるからな。出来るだけ濡れたくないんだ」
『ちょっと待ってろ…』
勇一の声が電話から遠のいた。
深夜は忍と柚子葉のほうを向いた。
忍は深夜に話しかけた。
「勇一なんだって?」
「ちょっと待てって。なんかあるんだろ」
『もしもし?』
深夜と忍が話してると電話から勇一の声が聞こえた。
深夜は携帯を耳に当てる。
「もしもし」
『10分ぐらい待ってろ。あと少しで仕事が一段楽できるから少しだけなら抜けれる』
「分かった。じゃあ、保育園まで迎えに来てもらえる?」
『あぁ。着いたらまた電話する』
深夜は電話を切った。
電話をポケットの中に入れ忍と柚子葉に向け口を開いた。
「10分ぐらいで仕事が一段落してそれから迎えに来てくれるって」
「そう。じゃあ、それまで園児達と遊んでる?」
「そうするか。最近遊んでやってないし」
深夜はそういって園児達がいる部屋に向かっていった。
深夜が出てすぐ園児達の喜ぶ声が聞こえた。
柚子葉と忍は顔を見合わせ笑みを零した。
「相変わらず深夜は人気者なんですね」
「そうねぇ。園児達にとって遊んでくれるお兄ちゃんがいることは大きいわね」
「私も小さいときはお兄ちゃんかお姉ちゃん欲しかったんですよね」
「え?そうなの?逆に深夜は小さい頃は弟か妹が欲しかったって言ってたわ。保育園に来るようになってからは言わなくなったけど」
「へぇ〜。やっぱり一番上と一番下の違いですかね」
「そうじゃないかな。柚子葉ちゃんはどうしてお兄ちゃんかお姉ちゃんが欲しかったの?」
「う〜ん、何ででしょうね。よく分からないです」
柚子葉の言葉に忍は笑った。
「ごめんね。答えにくいこと聞いて。私も園児達の所に行くけど柚子葉ちゃんも行く?」
「え?行っていいなら行きます」
「いいわよ。そういえば確か柚子葉ちゃんは保育士になりたいって言ってたわよね?だったらそのときのためのいい練習になるんじゃない?」
柚子葉は忍と話しながら園児達のいる部屋に歩いて向かった。
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