STORY14-2 『…家に帰るの』
深夜は柚子葉達に気づいてないようで一緒に歩いている女の子と親しげに話している。
嫌々歩いているのではなく笑って楽しそうに歩いているのが分かる。
深夜が店の中を指差し、女の子はその先を見て笑って深夜の腕を叩いている。
そんなやり取りを目の当たりにして柚子葉はショックを受けた。
二人はそのまま街の群集の中に紛れていった。
二人が去った後も柚子葉はショックから立ち直れいようだ。
真希と圭は柚子葉に声をかける。
「柚子葉?大丈夫?」
「…うん」
「明日山上に聞こう?」
「…」
「柚子葉…」
「ごめん。私帰るね…」
「ついて行こうか?」
「ううん。大丈夫」
柚子葉は一人で店を出た。
さっきの光景が頭から離れずにいる。
今どこにいるのか分からず歩いていると誰かにぶつかってしまった。
「すいません」
「ん?あんた山下じゃないか?」
柚子葉が顔を上げると衛の顔があった。
どうやらぶつかったのは衛だったようだ。
「…衛君」
「最近よく会うな」
「…うん」
「何かあったのか?」
「え?」
「いや、いつもと様子が違う気がしたんだが」
「…気のせいだよ」
柚子葉はそのまま歩き出そうとしたが、衛に手を取られた。
「おい、どこに行くんだ?」
「…家に帰るの」
「あんたの家あっちだろうが」
衛は柚子葉が歩き出そうとした方向と逆の方向を指差した。
柚子葉は自分が歩き出そうとした方向と、衛が指差した方向を見比べた。
自分が歩き出そうとした方向が間違いだと気づくと苦笑を浮かべた。
「あはは…」
「無理に笑おうとするなよ。ほら、帰るんだろ?送っていく」
「え?」
「あのな〜、今のあんたの状態を見て一人で帰すわけにはいかんだろうが」
柚子葉は困ったように衛の顔を見る。
衛は何も言わずにその場に立っている。
柚子葉がゆっくりと歩き出すとその後ろについて衛は歩き出した。
マンションの前までずっと衛は柚子葉の後ろについて歩いてくれた。
柚子葉が衛の顔を見た。
「衛君、ありがとう」
「いや、別にいいけど。何かあったら深夜に言えよ」
柚子葉は衛が口に出した『深夜』というフレーズにピクッと肩を震わした。
衛はそれを見逃さなかった。
「あんた、深夜と何かあったのか?」
「え?」
「…いや、何でもない。じゃあな」
衛は柚子葉の肩に手を置いてそのまま歩いていった。
柚子葉は家に戻った。
柚子葉が家に入るとリビングで恭子はTVを見ていた。
「柚子葉、おかえり」
「…ただいま」
「柚子葉?」
恭子は柚子葉の様子がおかしいのに気づいた。
柚子葉は何も言わずに自分の部屋に入った。
布団に横になって目を瞑るとさっきの光景が浮かんだ。
女の子と楽しそうに笑っている深夜の姿が…
柚子葉は枕で声がもれないようにして泣いた。
恭子は柚子葉の部屋から漏れる嗚咽に気づいた。
少し悩んだ恭子は携帯を取り出しどこかに電話をかけた。
いつのまにか柚子葉は眠っていたようだ。
目を覚ますと、すでに6時を回っていた。
携帯と取ると真希と圭からメールが着ていた。
二人とも心配してくれてメールをくれたらしい。
二人に『大丈夫だよ』とメールをしてリビングに行くと台所に恭子が立っていた。
今日は5時半から仕事だと聞いていたので柚子葉は驚いた。
「お母さん。今日夕方から仕事じゃなかったの?」
「今日は休んだ」
「え?」
「あんた様子おかしいわよ。何があったのかは知らないけど」
「ごめんなさい…」
「別に怒ってるわけじゃないのよ。今まで柚子葉には迷惑かけてるからね。たまには私に甘えて頂戴」
恭子は笑顔で柚子葉に話しかけた。
柚子葉はゆっくりと恭子に近づいて抱きしめた。
「…ありがとう」
「いいのよ。さ、今日は家族3人でゆっくりしましょ」
「…うん」
柚子葉も一緒になって食事の仕度をしていると柚子葉の携帯が鳴った。
柚子葉が携帯を取るとディスプレイには『深夜』と出ていた。
携帯を持ったまま出ようとしない柚子葉を見て恭子が声をかけた。
「柚子葉?どうかしたの?」
「え?ううん。なんでもないよ」
柚子葉は携帯の電源ボタンを押して着信を切った。
そして、深夜の番号を着信拒否に設定して台所に戻った。
「柚子葉?」
「お願い…。何も言わないで」
「…分かった。でも、何かあったら私に相談してよ」
「…うん」
二人はそのまま夕飯の仕度の続きに取り掛かった。
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