STORY13-4 『俺だ。深夜だよ』
その次の日、深夜がアメリカに行って三日目。
柚子葉はいつも通り学校で授業を受けていた。
昼休みになって柚子葉は真希達と食堂に向かった。
食堂で昼食を食べていると真希がポツリと零した。
「なんか変な感じがするんだよねぇ〜」
「あ、私もしてた」
真希の言葉に圭も頷いた。
「変な感じ?」
「う〜ん、なんていったらいいのか分からないけど変」
「それは山下の隣に深夜がいないからじゃないのか?」
翔がこちらに近づいて話しかけてきた。
柚子葉達の近くに腰掛けた。
「前田今のどういうこと?」
「そのままの意味だよ。もう井上達からしたら山下の隣に深夜がいるのは当たり前の感覚になってるんだよ。だから、三日間っていう長い間に山下の隣に深夜の姿を見ないから変だと感じてるんじゃないのか?」
「そういわれればそうかも。いつも柚子葉の隣には山上がいた気がするわ」
「だろ?だからだよ」
真希と圭は翔の言葉に頷いた。
翔は柚子葉に声をかけた。
「そういえば深夜から連絡あった?」
「ううん。まだないよ。夜に電話するって言ってたけどやっぱり忙しいみたいだね」
「そうか」
それから少し話をして午後の授業の準備のため教室に戻ることにした。
途中で勇一が柚子葉を見つけ声をかけた。
「あ、山下。悪いけど今いいか?」
「大丈夫ですよ。なんですか?」
「ちょっとな」
柚子葉はとりあえず真希達に声をかけ、勇一の後についていった。
勇一は柚子葉を進路指導室に連れてきた。
「とりあえず座ってくれ」
「あ、はい」
「ここなら大丈夫だろ」
「何がですか?」
「お前今日何か用事あるか?」
「え?別に無いですよ」
「じゃあ、絶対に今日の夜、そうだな6時ぐらいからは家にいるようにしてくれ」
「え?どうしてですか」
「いいから。用事はそれだけだ。もう戻っていいぞ」
柚子葉は勇一の言葉の意味が掴めなかった。
が、もうそろそろ午後の授業が始まるので勇一に頭を下げ進路指導室を出た。
柚子葉が教室に戻り自分の席に着くと翔が柚子葉に声をかけた。
「山下。勇一さん何だって?」
「よく分からなかった。ただ、今日の夜6時から家に絶対にいるようにだって」
「ふぅ〜ん。なるほどねぇ」
「翔君はこの言葉の意味が分かるの?」
「あぁ。とりあえず今日の夜になったら分かるって」
翔はそのまま席を立ち上がって違うグループに向かって歩き出した。
柚子葉はまた言葉の意味を考えた。
が、答えは出なかった。
授業の休み時間に何度か翔に聞いたが翔は「勇一さんが言わなかったのに俺が言ったら意味ないだろ?」と言って教えてくれることはなかった。
結局放課後まで柚子葉は勇一が言った言葉の意味が分からなかった。
柚子葉はとりあえず保育園に秀太を迎えに行った。
秀太を連れて帰り夕飯の仕度を始めた。
仕度をしていると秀太が柚子葉の服を引っ張ってきた。
「秀太?どうしたの?」
「しんやお兄ちゃんはまだ帰ってこないの?」
「まだ帰らないよ。寂しいの?」
「…うん」
柚子葉は秀太に近寄り抱きしめた。
「そうだね。お姉ちゃんも寂しいよ」
深夜を2年の春に保育園で見てから毎日声を聞いていた。
こんなにも深夜の声を聞けないのが寂しいとは思っていなかった。
秀太を抱きしめていると家の電話が鳴った。
柚子葉は自分の目に滲んでいた涙を拭って電話に出た。
「はい。もしもし、山下です」
「あ、柚子か?」
「え?」
「俺だ。深夜だよ」
「深夜…」
「今大丈夫か?」
「…うん。大丈夫だよ」
「柚子?もしかして泣いてた?」
「ううん。そんなことないよ」
「…そうか?」
柚子葉の服を秀太が引っ張るので受話器を秀太に渡した。
「もしもし。しんやお兄ちゃん?」
「お。秀太か。元気にしてるか?」
「うん!」
「そうか。悪いけどお姉ちゃんに代わってくれるか?」
「うん」
秀太は受話器を柚子葉に渡した。
「もしもし」
「柚子…」
「どうしたの?」
「いや、寂しくないか?」
「ちょっとだけ寂しかったけどもう大丈夫だよ。深夜の声を聞けたから」
「そっか。俺も柚子の声を聞けたからよかったよ」
柚子葉は受話器の向こうで忍が深夜を呼ぶ声が聞こえた。
「深夜?忍さんが呼んでるんじゃない?」
「あぁ。まだ用事が終わって無いんだよ。ちょっと休憩がてら柚子の声が聞きたくなったんだ」
「そう。でもよく私の家の番号分かったね」
「昨日勇兄に聞いたんだよ。姉貴が電話してるときに代わってもらってな」
「あ。だから、今日『6時からは家にいろ』って言ったんだ」
「あぁ。俺が頼んだ。電話したときにいないのは嫌だからな」
受話器の向こうで忍が深夜を呼ぶ声がまた聞こえた。
深夜が『分かってる!』と答えた。
「悪い。もう戻らないと」
「ううん。電話してくれてありがとう」
「俺も柚子の声が聞けてよかったよ」
「じゃあね…」
「あぁ…」
柚子葉は受話器を置いた。
秀太のほうを向くと秀太が笑顔で柚子葉に顔を向けていた。
「さ!ご飯にしようか?」
「うん!」
二人は笑顔で夕食を食べ始めた。
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