STORY11-END 『いや、お前本当に嫉妬深いよな』
マンションに戻った柚子葉たちは深夜をベッドに寝かせ、柚子葉と衛で廃ビルであった詳しい事情を翔と忍、それとすでに帰宅していた勇一に教えた。
「そうか…。でも、良かったよ。皆無事で」
「うん。そういえば大村君は?」
「大村なら家に帰ったよ。マンションの前で傷だらけの大村の姿を見たときは本当に心臓止まるかと思ったけど」
「じゃあ、深夜が大村君に連絡もらったときには」
「あぁ。俺もいた。深夜が俺に『大村を頼む』って言ってさっさと走っていったからとりあえず俺は忍さんに連絡して車を出してもらって大村を先に家まで送っていったんだ。だから、行くのが遅くなったんだ」
「でも、深夜はよく分かったね。柚子葉ちゃんが監禁されていた場所」
「携帯のGPSを使ったんだ」
その場に深夜の声が聞こえたので皆がそちらのほうを向くと深夜が立っていた。
しっかりとした足取りで皆が座っているリビングに歩いてきた。
「もういいのか?」
「あぁ。それよりもさっきの話だけど柚子の携帯のGPSを使って場所を調べたんだ」
「なるほどね。だからすぐにあの場所が分かったのか」
「話は変わるけど深夜。もうトラウマは治ったの?さっきの事情を聞く限りだともう大丈夫のようだけど」
忍の言葉に深夜は首を振った。
「わからん。さっきは柚子のことで頭一杯だったから」
「治ったんじゃないのか?」
「勇一は何でそう思うの?」
「う〜ん、俺が思うに実際トラウマは陽子ちゃんのほうじゃなくて衛君のほうだったんじゃないか?」
「え?俺ですか?」
「最初深夜は『好きな人が親友に奪われた』というように思っていたんだろ?」
「あぁ。そんな風に思っていたな」
「でもお前の前に山下が現れた。山下と接しているうちにお前は少しずつトラウマが治っていっていた。これも間違いじゃないな?」
「多分そうだと思う」
「山下のおかげでトラウマはこんな感じになったとは考えれないか?『親友が裏切った』というトラウマにな。好きな人は山下に変わっていたから」
「そうか…。あの時すでに俺は衛は裏切っていないと分かっていた。だから発作が出なかった。そういうことか?」
「恐らくな」
「でも、待ってください。勇一さんの話だとなんで校門のところに陽子が来たとき深夜は発作が出たんですか?」
翔は疑問を勇一に投げかけた。
勇一はその言葉に軽く頷いて口を開く。
「多分陽子ちゃんを見たときに衛君のことが出てきたんじゃないか?だからトラウマが出た、と」
「じゃあ、トラウマは治ったんですか?」
「絶対じゃないけど治ったに近いと思う。今回は一種のショック療法みたいなものになったんじゃないか」
「ショック療法?」
「あぁ。そういう方法もあるんだ。とりあえずは治ったと思っていいだろ」
「そうですか」
「深夜、良かったね」
柚子葉は満面の笑みを浮かべ深夜に顔を向ける。
深夜も笑顔で頷いた。
「あぁ」
衛は深夜と柚子葉の二人を見ながら少し考えた。
翔は衛の様子に気づいたのか声をかけた。
「どうかしたのか衛?」
「いや、深夜はいい子を見つけたなと思ってさ」
「確かに」
「あの子は自分が殴られても深夜のことを心配して、さらには俺のことまで気にかけてくれた。自分が何をされるか分からない状況でだ」
「山下らしいな」
翔はその言葉を聞いて笑みを零した。
衛と翔は深夜と柚子葉のほうを見た。
深夜の傷を柚子葉が見つけ手当てをしていた。
何か言葉を交わしながら二人は笑いあっている。
柚子葉が二人に気づき顔をかしげた。
翔と衛はなんでもないというように手を横に振った。
柚子葉はまた何事もなかったかのように手当てを続けた。
翔と衛は顔を見合わせた。
「な?山下ってなんか不思議なやつだろ?」
「あぁ」
二人がそんな話をしていると手当てを終えた深夜が二人に近づいてきた。
「二人して何の話してるんだ?」
「山下の話だ」
「柚子?柚子がどうかしたのか?」
「山下って不思議だなぁと思ってさ」
「そうか?」
深夜が首をかしげていると柚子葉が三人を呼ぶ。
「深夜。お茶飲む?前田君と衛君も」
「ちょっとまった!」
柚子葉の言葉に深夜が声をあげた。
柚子葉はその言葉に首をかしげた。
「深夜、どうかしたの?」
「なんで衛を『衛君』って呼ぶんだ?」
「だって、私衛君の苗字知らないもん」
「衛の苗字は『加藤』って言うんだ。だから、今度から『加藤』って呼べ」
「加藤君…。駄目、言いにくいもん。やっぱ衛君のほうが言いやすい」
「あっれ〜?」
深夜と柚子葉のやりとりを聞いていた翔と衛がニヤニヤ笑いながら二人を見ていた。
深夜は何か嫌な予感がした。
「深夜君。もしかして自分の彼女が他の男の人を下の名前で呼ぶのが気に入らないの?」
「そ、そんなことねぇよ」
「じゃあいいじゃねぇか。なぁ、山下も『衛君』のほうが呼びやすいだろ?」
「うん。ねぇ、深夜。『衛君』って呼んじゃあ駄目?」
深夜は柚子葉が下から顔を覗きあげてきたのでグッと詰まった。
「分かったよ。山下の好きなように呼んでいいよ」
「じゃあ、俺も『翔君』って呼んでくれよ」
「は!?お前は前田君って呼ばれてるだろうが!なぁ、柚子。『翔君』よりも『前田君』のほうがもう慣れて呼びやすいよな?」
柚子葉は小さい声で『前田君』と『翔君』と呼んでみた。
そして結果が出たのか軽く頷いた。
「うん。翔君のほうが呼びやすい」
「だってさ。深夜、残念だったな」
翔は深夜の肩に手を乗せた。
深夜は翔を軽く睨む。
「てめぇ…覚えてろよ」
柚子葉はよく事情がつかめてないのか首をかしげた。
柚子葉は深夜に声をかけた。
「深夜?どうかしたの?」
「なんでもないよ」
深夜はそんなことを言っていたが肩を落としていた。
事情をつかめていない柚子葉以外の翔、衛は声を出して笑い出した。
深夜は『まだ姉貴たちに伝わっていないのが幸運だな』と思っていたがふと周りを見ると翔が忍に耳打ちをしていた。
忍はニヤッと笑って勇一にも耳打ちをした。
勇一は軽く目を見開いた驚いていたがふと深夜にほうを見た。
そして、軽く噴出した。
「勇兄…そんなに笑うなよ」
「いや、お前本当に嫉妬深いよな」
「うるさいですよ…」
『どんまい』と言わんばかりに勇一は深夜の肩を軽く叩く。
この日は深夜をおもちゃに皆で笑いあった。
深夜は表面怒ったフリをしていたが内心嬉しかった。
衛とこんな風に接することができることはもうないと思っていた。
衛も同様に幼馴染の深夜と翔とこんな風に笑いあえて嬉しかった。
柚子葉が帰った後もこの日は翔と衛は深夜の家に泊まったようで夜遅くまで柚子葉の部屋の上から笑い声が聞こえた。
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