STORY11-2 『すごいな、あのパワー…』
「深夜!?」
翔が深夜にかけよる。
「大丈夫か、深夜!」
深夜の体はその声にも反応せずに震えている。
その女生徒はまた深夜に近づこうとする。
翔がそれを阻む。
「お前まだこいつに近づく気か!」
「だってこういうときは彼女の私が傍にいたほうがいいでしょ?」
「ふざけんな!お前が触ったから深夜はこうなったんだろうが!」
女生徒と翔が言い争いをしていると柚子葉が深夜に近づいて優しく抱きしめた。
「大丈夫。大丈夫だよ、深夜」
少しして深夜の体の震えが止まった。
柚子葉はゆっくりと腕の力を緩め深夜の顔をみる。
深夜は気を失っているようだ。
「深夜大丈夫?」
柚子葉の問いかけにも深夜は答えず目を瞑っている。
柚子葉は翔と大村に声をかける。
「前田君、大村君!深夜を抱えて。とりあえず保健室に連れて行こう」
柚子葉の言葉に大村がすぐに深夜の近くに駆け寄る。
翔も女生徒を睨み深夜を大村と二人で抱えて保健室のほうに向かっていった。
柚子葉もその女生徒を少し見た後保健室のほうに走り出した。
女生徒はその場に少し立っていたが何も言わずにそのまま校門を後にした。
柚子葉が保健室に駆け込むと翔たちが深夜をベッドに寝かしたところだった。
深夜の顔を覗くと今は落ち着いたのか安らかな寝息が聞こえた。
柚子葉は翔の顔を見る。
「前田君。説明してくれる?」
柚子葉の言葉に翔は頷いた。
大村は保健室のドアを開けた。
「俺は植田先生を呼んできます。俺はいないほうがいいでしょ」
そういって大村は保健室を出て行った。
翔は保健室にある椅子に座った。
柚子葉も座ったところを見て翔は口を開いた。
「あいつの名前は上木陽子。深夜の元カノだ」
「元カノっていつ付き合ってたの?」
「中二のときから。中三の時に別れたはずだったんだ」
翔はさらに言葉を続ける。
「深夜とあいつ、俺は幼馴染だった。小さい頃から一緒に遊んだりもした仲良しだった。俺達のほかにも衛っていう奴もいたんだ。俺達4人は何をするのも一緒だった。深夜の髪が生まれつきなのは山下も知ってるだろ?」
柚子葉は頷いた。
「うん。深夜から聞いたことはあるけど」
「小学生のころあの髪のことでいじめられてたんだ。でも、気がついたらいじめは消えていた。小学生は単純だから遊んでいると皆友達になるんだろうな。それから中学になると深夜はスポーツもできるし頭も良かったから人気が出てきた。そして、中二になって深夜から陽子に告白した」
「それで付き合い始めたの?」
「あぁ。そのときの深夜の顔は幸せそうだった。あいつは陽子のことがずっと好きだったんだ」
「それでどうして深夜達は別れたの?」
「陽子が浮気したんだ。しかも、相手が衛だった。そのときに深夜は心に傷を負った。自分の彼女と幼馴染を一緒に失ったんだ。それからあいつは荒れ始めた」
「そういえば深夜言ってた。中三の頃から高一の秋まで荒れてたって」
「あぁ。原因はその出来事だと思う。深夜はそれから人を信じれなくなった。俺も深夜に話しかけても無視されるようになった。俺もいつか深夜を裏切るんだろうと思ってたんだろ。それからあいつは喧嘩が多くなった。理由はしらないけど」
「…喧嘩をしていると何もかもが忘れられる気がしたんだ」
翔の言葉を遮って声が聞こえた。
声のほうを向くと深夜が体を起こしていた。
「深夜、大丈夫か?」
「あぁ。もう大丈夫だと思ってたけどまだ駄目だったみたいだ」
深夜がベッドから起き上がり柚子葉たちに近寄る。
「さっきの続きだけど翔の言うとおり俺は人を信じれなくなった。そのときに喧嘩を始めたんだ。そのときが一番何もかもが忘れてたから」
「でも、卒業間近になって深夜は俺と話してくれるようになったよな?」
「翔なら大丈夫だと信じれた。でも、高校生になっても翔や家族以外に何も信じれなかった。そのときに、ある子供と出会ったんだ」
「ある子供?」
「あぁ、それが秀太だった」
「秀太?」
「たまたま保育園に姉貴の忘れ物を届けにいったときに秀太と会ったんだ。何でか分からないけど気がついたら秀太と遊んでた」
「そうだったんだ。そういえば秀太が高一のときに知らないお兄ちゃんと遊んだって言ってた。そのときは注意したけどあれ深夜だったの?」
「あぁ。で、姉貴にお願いして保育園で手伝いをさせてもらうようにしたんだ。子供達と接していると無意識のうちに笑顔になったから」
「それからだろうな。深夜がまた人と笑顔で接するようになったのは」
翔の言葉に深夜は頷いた。
「それから柚子とも出会って俺は大丈夫だと思ってた。もうトラウマは治ったんだと思っていた。でも、そうじゃなかったんだ。ただ、心の奥底に封じ込めてたんだろうな。だから、トラウマの元凶でもあるあいつと会ったから拒絶反応みたいなものが起こったんだろう」
「それって治らないの?」
「さぁな。治るかどうか俺にはわからない」
「俺は治ると思うぞ」
勇一が一人で保健室に入ってきた。
大村は気を利かしたのか帰ったようだ。
「大村から大体の事情は聞いた。深夜の体が震えたこと。そして、それを山下が止めたこと」
「で、治る可能性もあるってどういうこと?」
深夜の問いかけに勇一は椅子に腰を掛けた後答えた。
「多分だけど山下がいれば治るんだと思う。実際深夜の震えを止めたのは山下のおかげだろ?まだトラウマの元凶がそこにいるのに山下に抱きしめられたら震えが止まった。ということはトラウマよりも山下の存在のほうが強かったということだ。もしかしたらだけどこれから深夜が山下と接していくうちにトラウマが消える可能性もある。ただ、現在深夜は山下に心を許している。だから、山下が裏切ったりするともう手がつけれなくなる可能性も出てくる」
「じゃあ、私が深夜と一緒にいれば」
勇一は頷いて口を開いた。
「治るかもしれないというだけだ。必ず治るとは限らない。トラウマを治すには相当の時間と苦労がかかる」
「それでも治る可能性があるなら私はやってみたい」
「やってみたいと言っても別に何か特別なことをするわけじゃない。今までどおり生活をしていけばいいさ」
勇一の言葉に深夜と柚子葉は頷いた。
柚子葉がふと時計を見ると時計はもう5時30分を回っていた。
「あ〜!秀太迎えに行かないと!」
柚子葉は自分のカバンを持って保健室のドアを開けた。
「ごめん、深夜!私先に帰るね!」
「あ、俺も行くよ」
「体が本調子じゃないんだから深夜は先に家に帰ってて!秀太を着替えさせた後深夜の家にご飯作りに行くから!材料悪いけど使わしてね。前田君、じゃあ深夜のことよろしくね!」
そういって柚子葉は保健室を出て行った。
勇一はその姿を見て一言つぶやいた。
「すごいな、あのパワー…」
深夜と翔はその声に揃って頷いた。
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