STORY1-END 『私保育士になりたいんです』
「あれ?勇一知り合い?」
「俺の今年の教え子。深夜とも同じクラスなんだよ」
二人は話しながらリビングに置かれてある食事を置いてあるテーブルの椅子に座った。
深夜は温めなおした料理を運び終わり椅子に座る。
忍が柚子葉たちを呼ぶ。
「柚子葉ちゃんたちもいらっしゃいよ。早くご飯にしましょ」
「あ、はい」
柚子葉は深夜の隣に、秀太は横側に座った。
忍 勇
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|秀
|_____|
深 柚
こういう配置だ。
深夜は秀太がいるということで子供が好きなハンバーグとシチューを作った。
5人は「いただきます」と声を揃えて言い食事を開始した。
柚子葉はシチューを一口食べた。
「おいしい…」
「当然」
柚子葉のつぶやきに深夜が自信満々に答えた。
秀太もおいしいようでどんどん口に運んでいく。
食事の合間に忍と勇一の馴れ初めなどで盛り上がった。
食後もリビングに話の場を移し話をした。
秀太はTVに集中している。
そこで柚子葉は気になっていることをどんどん聞いてみた。
「あの〜、何で山上君と違う部屋に住んでるんですか?」
「俺が眠れないから」
「眠れない?」
「中学卒業までは実家に住んでたんだけど両親がアメリカに行くから俺は姉貴たちの部屋に住むことになったんだ。そのときは姉貴たちは新婚ホヤホヤだから俺が夜中トイレに行くと聞こえるんだ」
「聞こえるって何が?」
「新婚+夜中で分からないか?」
その答えが分かった柚子葉は顔を真っ赤にした。
その反応をみた三人は笑った。
「そういうこと。だから俺は違う部屋に住むことにしたんだ」
「ご飯のときだけ山上君の部屋に集まるのは何でなんですか?」
「「姉貴(忍)の料理が酷いから」」
柚子葉の問いかけに深夜と勇一が声を揃えて答える。
忍はそんな二人を見ても気にしないようでコーヒーを飲んでいる。
今度は勇一が柚子葉に質問してきた。
「確か山下はS大希望だったよな?」
「はい」
「なんだ。俺と一緒か」
「え!?」
深夜のセリフに柚子葉は驚いた。
S大は自宅から通える範囲ではレベルが高いほうだ。
深夜の成績そんなに高くないはずだ。
なのに、深夜もそこを狙ってるという。
「何だ?」
「いえ…」
「あぁ、山下。深夜は学校のテストは真面目に受けて無いんだ」
「え?どうしてですか?」
「深夜はどう考えても平常点が低いから推薦は無理。だから実力で頑張るしかない。学校のテストは欠点にならない程度に解いて寝てるからな、こいつは」
「そうなんですか…」
「そ。どうせ見た目が不良だから真面目に解いて高得点とってもカンニングと疑われるからな」
「深夜は見た目と中身が全然違うからね…」
「え?見た目と中身ですか?」
「この髪も染めてなくて地毛だしね」
勇一は深夜の髪を指差して答えた。
「え?地毛だったんですか?」
「あぁ、学校の皆は染めてると思ってるだろ?」
「私の知り合いは皆染めてると思ってますよ」
「だろ?別に否定するのもめんどくさいから否定しないんだ」
「へぇ〜」
「ねぇ、柚子葉ちゃん。学校では深夜どう思われてるの?」
「えっと…」
柚子葉は深夜の顔を見た。
深夜は言っても構わないというようにうなずいた。
それを見た柚子葉は正直に答えた。
「私の友達は皆不良だと思ってます。髪と授業態度で。後、ある暴走族を潰したとか、他校の番長を倒したとかそんな噂も流れてます」
「あ、後のほうは事実だから」
「え!?」
「俺中3のころから高1の秋まで少し荒れてたんだ。別に自分から喧嘩は売らないけど向かってくる相手を倒してたら気がついたらそうなってたんだ」
深夜は「ハハハ」と笑っているがどう考えても笑って済ませれる問題ではない。
柚子葉はその言葉に目を丸くした。
「まぁ、今はそんなことはないから」
「そうそう。ところで柚子葉ちゃんはS大で何を勉強したいの?」
勇一が深夜のフォローをし忍が話題を変えた。
「私保育士になりたいんです」
「へぇ〜、そうなんだ」
「山上君は何を勉強するんですか?」
「俺?俺は教師になりたいんだ」
「教師?」
「あぁ。中学のころに荒れてた俺を粘り強く話そうとしてくれた先生がいたんだ。当時はうざいと思ってたけど今は感謝してる。だから将来はあんな先生になりたいと思ったんだ」
「へぇ〜」
「変か?」
「ううん」
「まぁ、あとは俺みたいな奴の力になりたいとも思うしな」
「どういうこと?」
「俺、中学の頃から一人暮らしみたいなもんだったんだ。両親は仕事が忙しくて家にいないし姉貴たちはもう家から出てたから相談できる人が身近にいなかったんだ。そういう奴らは他にも一杯いると思うからそんな奴らの相談相手になってやりたいと思ったんだ」
「凄い…。そんなこと考えてるんだ」
「山下だってそうだろ?」
「ううん。私はただ子供が好きだから保育士になりたいと思ったの。忍さんはどうして保育士になろうと思ったんですか?」
忍はコーヒーを一口飲んで柚子葉の質問に答えた。
「私?私は深夜の影響かな」
「山上君の?」
「ええ。深夜が小さい頃は私が面倒見てたの。だからその影響が一番大きいんじゃないかな」
「そうだったんですか」
それからまた話をしたが秀太が眠ってしまったので柚子葉は家に帰ることにした。
眠った秀太は深夜がおんぶして送ることになった。
「じゃあ、お邪魔しました」
「いいえ。柚子葉ちゃんの家はここから遠いの?」
「いえ、この下です」
「え?」
「山下の家はこのマンションの805なんだとさ。つまりこの部屋の一階下が山下の家」
「へぇ〜、こんなこともあるんだね〜」
まさか、一つ下に柚子葉達が住んでるとは思ってもいなかったので忍はそのことに感心したようだ。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」
「おぉ。お休み。山下、また明日な」
柚子葉は忍と勇一に挨拶をしてから歩き出した。
その後ろに深夜が秀太をおんぶして続く。
「今日はありがとう」
「何が?」
「いろいろとね」
「ふぅ〜ん。またいつでも来いよ。二人で食べるよりは大人数で食べるほうがおいしいだろ」
「え?いいの?」
「あぁ」
二人は秀太が起きないように話しながら歩き、柚子葉の部屋の前に到着した。
「じゃあな」
「うん。おやすみなさい」
深夜から秀太を渡された柚子葉が手を振る。
「そういえばやっとタメ語になったな」
「え?あ、そういえば…」
「やっと同級生って感じがするな」
「クスッ、そうだね」
柚子葉から笑みが零れた。
深夜もそれを見て笑みを浮かべた。
そして、深夜は自分の部屋に帰っていった。
柚子葉は自分の部屋に入り、秀太をベッドに寝かし今日のことについて思い出していた。
秀太を預けていた保育園に深夜が手伝いに来てて食事をご馳走になった。
深夜の姉が保育園の園長先生で、忍の旦那さんが担任の先生。
深夜とも普通に話せるようになった。
今日の朝までは考えれなかったことの連続だった。
柚子葉は今日のことを思いながら布団に入り眠りについた。
深夜:そういえば…山下
柚子葉:どうかしたの?
深夜:山下って、この春にこのマンションに引っ越して来たんだよな?
柚子葉:うん。前に住んでたところが取り壊されることになったから。でも、どうして?
深夜:去年から秀太って姉貴の保育園に通ってるけどなんで?
柚子葉:元々隣町に住んでたの。それで最初は一番近い保育園に通わせようって話しになったんだけど、植田保育園だと高校の帰り道になるの。もしお母さんが急な仕事が入っても迎えに行きやすいからって
深夜:それで…か
柚子葉:う、うん(どうしたんだろう、山上君)
深夜:(もし、違う保育園に秀太が通ってたら…。俺こんな風になってなかったよな、きっと。…良かった)