STORY8-5 『マジで帰るのかよ…』
「別に柚子葉ちゃんのせいじゃないから」
「でも、私が野上さんと話をしなかったらこんなことにはならなかったのに…」
「柚子」
二人の会話に深夜が割り込んだ。
「お前はあいつの顔を知らなかったんだ。だから、お前のせいじゃないって」
「そうだよ。それにあそこの会社はもう終わりだから」
「え?」
「あそこの会社はもうすぐ潰れる。もうすぐといっても5年ぐらいはかかるだろうけど」
柚子葉は浩史が言っていることに首をかしげた。
深夜が補足の説明を柚子葉にした。
「あそこの会社、実際はそんなに大したことないんだ。野上は山上に業務提携をした。逆に山上は野上に名前を貸していた、みたいなところもあるんだ。だから、向こうが業務提携をやめてきたってことはこっちも名前をもう貸す必要はない。あの現場を見ていた人もいるだろうし、もうあそこの会社と契約をする会社はないよ」
「そうなんですか?」
柚子葉は浩史のほうを向いた。
その視線を受けた浩史は頷いた。
「この世界は信用が大事だからね。ただ、話をするのを断っただけで業務提携をなくすような心狭い会社なんかとどこも契約なんかしないよ。だから気にしないで良いよ」
「でも…」
「まだ気にするの?ん〜、だったらそうだな、これから何があっても深夜を信用すること。これが許す条件」
「えっと、言ってる意味が分からないんですけど…」
「一応、深夜も山上グループの御曹司だからね。だから、これから付き合いとしていろいろ女性と接することもあるだろう。それに君にも言えない事が出てくるかもしれない。そういう時に深夜を信用して欲しい。分かった?」
「あ、はい」
「それができれば今回のことはなかったことにする。どう?これでいい?」
「はい!ありがとうございます!」
「うん」
柚子葉はそのまま葉月や敬子と一緒に話を始めた。
深夜は浩史に話しかけた。
「親父、今さっきのはどういうことだ?」
「ん?何が?」
「『何が』じゃねぇよ。俺絶対柚子以外の女一対一では会わねぇからな」
「分かってるから」
「へ?」
「ああでも言わないと柚子葉ちゃんは何言っても気にするだろ?だからとりあえず交換条件として出しただけだ」
「じゃあ…」
「あぁ。お前にそういうことをさせる気はないよ。お前は柚子葉ちゃんを守っていけばいいよ」
「サンキュ」
「じゃあ、俺らはもうそろそろおいとましようかね」
「はぁ!?」
深夜は浩史の言葉に大声を出した。
その声に驚いた柚子葉は深夜に声をかけた。
「深夜どうしたの?急に大声出して」
「あ、悪い。親父がもう帰るっていうからつい声が大きくなった」
「え!?もう帰るんですか?」
「う〜ん、まぁこれでも一応会社の社長だからね〜。いろいろ忙しいんだよね」
「姉貴たちには会わないのか?」
「忍とはマンションに来る前に先に会ったんだ。一応今回の滞在の目的は柚子葉ちゃんと話すことだったから目的は達成されたし。勇一君とは残念ながら会えなかったけどね」
そんなことを言いながら浩史は帰り支度を始めた。
浩史が始めたのを見て敬子や慎一、葉月も帰り支度を始めた。
「マジで帰るのかよ…」
「今回は会社に結構無茶言って時間作ってもらったからね。これ以上はさすがに無理だよ」
浩史は口に笑みを浮かべながら言った。
帰り支度を終えた浩史たちは玄関で靴をはいた。
「じゃあ、深夜また」
「あぁ、気をつけて」
「柚子葉ちゃんまたね」
「あ、はい」
浩史と敬子、葉月は慎一を残し先にエレベーターのほうに歩き出した。
「深夜」
「兄貴?どうした?」
「お前しっかりと柚子葉ちゃんを守ってやれよ」
「当然」
「それだけ自信満々だったら大丈夫だな」
慎一は今度は柚子葉のほうを向いた
「柚子葉ちゃん」
「慎一さん?何ですか?」
「深夜をよろしくね」
「はい」
「うん、安心した」
「え?」
「深夜の彼女が柚子葉ちゃんで安心したよ」
慎一は柚子葉の頭に手を乗せて微笑んだ。
そしてエレベーターのほうに向かって歩き出した。
「兄貴、またな!」
深夜の言葉に慎一は後ろ向きに手を振った。
そのまま角を曲がって姿が見えなくなるまで深夜と柚子葉は後姿を見送った。
あとがきはYAHOO!blogで書いております
興味があればお越しください
URL↓↓
http://blogs.yahoo.co.jp/in_this_sky