STORY7-END 『行かないよ。だって私深夜のことが好きだもん』
「先ほどは失礼しました」
野上が笑みを浮かべ柚子葉に声をかけてきた。
柚子葉が答えようと口を開く前に深夜が無表情で野上に答えた。
「私の連れがお世話になったようで」
「あ、山上さんのお連れでしたか。いえ、私のほうも助かりました」
「それで、何の用でしょうか。お礼を言いにわざわざ来たわけではないですよね?」
深夜の挑発のようなセリフにも野上は顔から笑みを消さずにこやかに深夜に答える。
「ええ。よければ柚子葉さんと一対一で話したいと思いまして」
「何故ですか?野上様と柚子が話す理由が私には分かりませんが」
「そうですね…柚子葉さんに興味があるからじゃいけませんか?」
「え?」
「先ほど柚子葉さんと話していた際に柚子葉さんは私のことを一人の男性としてみてくれました。今まで私に話しかけてきた女性は皆『野上』という名前に惹かれてよってきました。ですが、柚子葉さんは違った。ですから、また一対一で話したいと思ったんです。どうですか、柚子葉さん?」
「えっと…」
柚子葉が困惑していると深夜が柚子葉を引き寄せ腰に手を回した。
「すいませんがお断りさせていただきます。私は自分の恋人を誰かに貸すほど心が広い人間ではないんで」
「私は柚子葉さんに言ってるんです。柚子葉さん、どうですか?」
「えっと…私は深夜が好きなので、お断りさせていただきます」
「…そうですか。分かりました。では本日から山上さんとの業務提携をやめさせていただきます」
「分かりました。父にも私から伝えます。それでは失礼します。柚子、行こう」
深夜は柚子葉の手を握り歩き出した。
柚子葉は早歩きで歩く深夜に小走りでついていった。
会場から出ると深夜は歩くのを止めて立ち止まってため息をついた。
「はぁ〜…」
「ごめんなさい」
「は?何が?」
「だって、何か仕事のこと言ってたじゃない。業務提携をやめるとか」
「あぁ、そのぐらい大丈夫だって。親父も何も言わないさ。それよりも…」
深夜は柚子葉を抱きしめた。
「良かった」
「何が?」
「お前があいつのところに行かなくて」
「行かないよ。だって私深夜のことが好きだもん」
「…急にそんなこと言うなよ。恥ずかしいだろ」
深夜がそんなこと言うので柚子葉は深夜の顔を見た。
深夜の顔はこれでもかというほど真っ赤になっていた。
「深夜。顔真っ赤だよ」
「柚子がそんなこと言うからだろ。とりあえず帰ろうか」
「あ、うん」
深夜は忍に電話をかけた。
すぐに忍と勇一が車で迎えに来てくれた。
車の中でパーティの報告をした。
「悪い。野上との業務提携無くなった」
「え?どうして?」
「向こうのお坊ちゃんが柚子葉と一対一で話したいとかほざいたから断ったんだ。すると向こうが業務提携やめるって言ってきた」
「そっか」
「あの、ごめんなさい。私のせいで」
申し訳なさそうに謝る柚子葉を助手席から忍が声をかけた。
「ううん。柚子葉ちゃんは気にしないでいいの。特に大事なお得意先じゃないし」
「さっきも言っただろ。親父も何も言わないって」
「あぁ〜、確かにお父さんは何も言わないだろうね。逆に深夜が柚子葉ちゃんを渡したほうが怒ると思う」
「え?そうなんですか?」
「あぁ、親父はそういうのに厳しいから。仕事よりも自分の恋人を大事にしろって俺達に言ってるから」
「そうそう。私だって本当はどっかの企業の御曹司と結婚したほうが会社のためでしょ?」
「あ、忍さんってそういえば社長令嬢なんだ。全然気づかなかった」
柚子葉の言葉に忍は笑いながら続ける。
「お父さんは別に会社を大きくしたいような人じゃないから。どっちかというと『好きな人と一緒になってほしい』って考えの人なの。じゃないと、勇一と結婚できなかったよ」
「そうそう。俺の親父は山上グループに勤めてはいるけど平社員だから普通の社長だと何のメリットもないから反対されてもおかしくないけど喜んでくれたよな。小さい頃から一緒だったから付き合うときも何も言わずに『おめでとう』って言ってくれたし」
「だから、柚子葉ちゃんも心配しなくて大丈夫よ」
「え?」
「ちょっと不安になったんじゃない?自分とは住む世界が違うとか」
「そんなこと考えてたのか?」
「ちょっとだけ…」
深夜は安心させるように柚子葉の頭に手を乗せた。
「そんな心配しなくていいって。俺は自分からこんなパーティに出ようとは思わんし」
「うん。もう大丈夫。忍さんたちの言葉を聞いて早く深夜のお父さんに会ってみたいと思ったし」
「そういえばまだ親父帰ってこないな」
「そうねぇ」
「え?」
「あぁ、親父は適当に帰って来るんだよ。大体3ヶ月に一度のペースで。で、もうすぐ帰ってきてもおかしくない周期なんだけど」
「多分今月中には帰ってくるでしょ」
「そうなんだ。私も会って話してみたいな」
「何で?」
「だって、気になるじゃない。どんな人なのかな〜って」
「そっか。まぁ、帰ってきたら言うから」
「うん、楽しみにしてる」
柚子葉が本当に嬉しそうに笑うので深夜も笑顔になった。
運転席の勇一と助手席の忍も後部座席の二人を見て笑顔になった。
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